第106話 キラーハウス

「みんな! この匂いは嗅いじゃダメ!」

キネアが何かに気がついたのか、大声でそう叫んだ。それを聞いて、各々口元を押さえて匂いを嗅がないようにする。


キネアの言葉に何か気がついたのか、ニジナは周りを見渡しこう言った。

「もしかしてここはキラーハウスなの!?」


キラーハウス……聞いたことあるような無いような……う〜ん……思い出せないので聞いたこと無いんだな。俺の記憶にはなかった言葉だが、ロッキンガンは思い当たることがあるのか反応する。

「マジか! だとしたら早く出ないと危ないぞ」


ロッキンガンはそう言うと入り口のドアに駆け寄り扉を開こうとした。だが、扉は鍵がかかっているようで開かない。

「クッソ! ダメだ開かねえ!」

「窓もダメだよ。ピクリとも動かない」


慌ててその屋敷から出ようとする皆に、キネアがボソリと言う。

「口を閉じたみたいね……」

「なんだよ口って、生き物みたいに言うなよ」

俺がそうキネアに指摘する。軽くつっこんだだけのつもりだったけど、その場になんとも言えない空気が流れる。そして意を決したようにニジナが言う。

「ジンタ。キラーハウスってのはモンスターの名前なのよ……」

「ほほう。そうなのか……てことはどういうことだ?」

「私たちはそのモンスターの中にいるってことよ」

「……なんだって! てことは俺たちはモンスターに食われてるってことか?」

「そう……食べられてる最中よ。このままだと消化されて、キラーハウスの栄養になっちゃうわ」

「……うぉおおおおー! やばいではないか! 早く逃げよう! ユキ。シュラ。屋敷の壁を壊すのだ!」


そう俺が言ったのだが、二人は動こうとしなかった。

「どうしたユキ。シュラ。早く壁を壊すのだ」

「……大盛りアイス食べたい……」

「綺麗な姉ちゃんと遊びたい……」


うむ……起こす為に言ったことを本気にしているのか、二人は何やら駄々をこねている。仕方ないのでユキには後でアイスを腹一杯食べさせると約束して、シュラには知り合いの女の子を紹介すると話した。それを聞いた二人はやる気が出たのか壁に攻撃を始めた。


「アイシクルランス!」

「ソニックボルト!」


強力なユキのアイシクルランスに、いつの間にか覚えたシュラの物理技が壁に炸裂する。見た目や経験から、ある程度の岩石なら簡単に粉砕しそうなそれらの攻撃を、屋敷の壁は弾き返した。


「キラーハウスはレベル70越えの、ブラックドラゴンに匹敵する上級モンスターよ。並の攻撃では破壊するのは難しいわ」

キネアがそう説明してくれる。確かにブラックドラゴンクラスとなると、ユキやシュラの攻撃でも突破するのは難しいかもしれない。


「さて……そろそろ俺の出番のようだな」

そう言って出てきたのは、ポキポキと指を鳴らして何やら自己主張をしているジークであった。


「さすがのジークでも、ブラックドラゴンの鱗並みの強度があるこの壁を一撃で破壊するのは無理だろうな」

ロッキンガンのその言葉を聞いたジーグが、不敵に笑ってこう話を持ち出した。

「ほう。それじゃあ賭けるかロッキンガン。一撃でここに大穴を開けたら、街に着いた時の飲み食いはお前持ちだ」

「おういいぜ。じゃあ、一撃で壊せなかったら、あんたの支払いだぞ」


ジークは、ロッキンガンのその言葉には軽く手を振って答えた。

「よし。俺はジークに乗るぞ」

「私はさすがに二、三発はかかると思う」


みんなジークかロッキンガンに乗る形で賭けに参加する。すごいのは誰も破壊できないと思う者がいないことで、これでキラーハウスからは脱出できると信じていることだ。


ジークが闘気を集中し始める。ジークはレベル99。ゴッドハンドという四次職のジョブで、五次職に匹敵する戦闘力があると言われているブッ壊れスペックの冒険者である。


そんな彼が本気で闘気を放出し始めたら、離れて見ていても、かなりの圧を感じる。


ジークは、体が見えないくらいのオーラを放出すると、空気を震わすほどの声を発して、壁に拳を叩き込んだ。

「ウラッア!!」

まさに爆発といった衝撃が起こり、ジークの殴った壁の一面が綺麗に消滅した。俺が予想した通りに、一撃で壁に大穴を開けたのだが、実際それを見てしまうと、あまりの威力に軽く引いてしまう。


「うっしゃ! ほら。何ボーッとしてんだ。サッサッとここを出るぞ」

ジークが余裕の表情でそう言うまで、俺たちはみんな空いた穴を呆然と見つめていた。

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