第105話 全員起床
「寒い!」
あまりの寒さに、俺はそう叫びながら勢いよく起き上がる。そして震える体を擦りながら周りを見渡す。そしてこの寒さの原因を見つけた。
「ユキ!」
ユキが横になってプルプル震えながら凄まじい冷気を放出している。どうやら気を失っているらしく、無意識でやっていることのようである。俺はユキに近づくと、体を揺らして声をかけた。
「ユキ。起きろ! 凄まじく寒いぞ」
激しく揺さぶってもユキはなかなか起きない。なんとかならないかと周りを見渡して今の状況に気がついた。仲間が全員、気を失って倒れているではないか……
とりあえず近くで倒れているニジナを起こしてみる。
「おい。ニジナ。起きろ!」
強く揺さぶって起こすが、ニジナもなかなか起きない。しかし、ユキと違ってニジナには遠慮するつもりがない俺は、これでもかってくらいに強く揺さぶって強制的にニジナを覚醒される。
「いっ……痛い……痛いよジンタ……もっと優しくして……」
……ふっ……どんな夢を見てるのだこいつは……まあ、いい。こうなっては仕方ない……最終奥義を出すしかないようだな……そう結論を出した俺は、ニジナの脇腹の辺りを勢い良く擽り始めた。
「くっ……きゃっ……うっ……うははははっ、ちょっ……ジンタ……やめて……し……死ぬ……ウヒャヒャヒャ」
ニジナはすでに起きているようだけど、笑い転げるニジナが面白くて擽るのを止められない。そのまま調子に乗って擽り続けていると、起き上がったニジナに本気でグーで殴られた。
「はっーはっー……なんてことするのよあんたは! 笑い死んだらどうすんのよ!」
「だからってグーで殴るなグーで!」
「殴られて当然でしょ!」
「そもそもそんくらいのことで人が死ぬかよ」
「言ったわね……それじゃ、同じ目にあって見なさい」
そう言いながらニジナが俺の脇を擽り始める。もちろん擽り耐性など持ってない俺は、十分にその威力を味わい……ニジナに泣いて謝った。
「さて……それより、むちゃくちゃ寒いんだけど……」
俺に復讐を遂げたニジナは、冷静になったのか、ユキの冷気に気がついた。
「そうなのだよ。ユキが寝ぼけて冷気を放出しているみたいなんだ」
「ユキちゃんが?」
そう言いながらニジナも周りを見渡す。そして自分たちの状況を把握した。
「みんな気を失ってるの?」
「見たいだな。俺もニジナも気を失ってたみたいだし……一体何が起こってるんだ……」
「とりあえずユキちゃんを起こしましょう。このままだと凍え死んじゃうわ」
それには俺も同意する。しかし……どうやって起こすかな……まあ、とりあえずやってみるか。
強く揺さぶってもやはり起きないので、耳元でこう囁いてみた。
「山盛りアイス食べ放題……」
それを聞いたユキは、ガバッと勢い良く起き上がった。そしてキョロキョロ周りを見渡してこう言った。
「ジンタ。山盛りのアイスはどこ?」
よし、これで凍死は免れた。次はシュラを起こすかな。
シュラは綺麗な姉ちゃんの一言で飛び起きた。そんな調子で気を失っているみんなを起こしていく。気持ちよく寝ている8匹のおっさんはそのまま放置しようかと思ったけど、ニジナにブツブツ言われたので仕方なく乱暴に起こした。
最後に残った、ジークを起こしたのだが、夢で何かとバトル中だったのか、強烈な拳を振りかざされる。幸い直撃はしなかったのだけど、かすっただけで俺は紙切れのように吹き飛ばされた。
「すまん、すまん。悪かったなジンタ」
そう言って完全に起きたジークが俺に謝る。カスッただけでボロボロにされた俺は、ニジナの回復魔法を受けながらそれを聞いていた。
「それより、この屋敷やっぱり変ね……」
キネアが周りを見渡してそう言いだした。確かにこの屋敷は何か変である。全員がここに入った瞬間気を失うなんて……
「なんかこの壁とかベタベタしてんだよな」
ロッキンガンが屋敷の壁を触りながらそう言っている。
「そうよね……それにこの屋敷……さっきより狭くなってない?」
キネアの言葉にニジナも驚いたように同意した。
「あっ、それ私も思った。最初入ってきた時より、なんか窮屈になってきてる気がする」
何だと……家が縮むなど有り得るのか……しかし、そう言われれば確かに狭くなってきている気がする……そんな事を考えていると、何か甘い匂いが漂ってきた。確かこの匂いは、最初にこの屋敷に入ってきた時にも匂ったような……
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