第107話 砂漠を越えて

俺たちはジークがぶち破った壁の穴からキラーハウスを脱出する。全員が脱出すると、俺は後ろを振り返り、キラーハウスを見た。そこで初めてキラーハウスの本当の姿を目撃する。


今までいた屋敷の二階部分に、巨大な目玉が一つ浮かび上がっていた。目玉は真っ赤に血管を浮き出して、悲痛に叫んでいるようであった。ジークの一撃がよほど効いているのだろう。


「もう安全だ。外に出てしまったら、キラーハウスは何もすることはできないからな」

そんなキラーハウスを見ながら、ロッキンガンがそう言う。

「自分で動く事ができないから、何かに擬態して獲物を誘い、催眠効果の有る成分で眠らしてゆっくり消化するって面倒くさいことをしてるからね」

キネアがシミジミ何かを思いながらそう解説した。それにニジナが反応する。

「そうか、だからみんな眠ってたんだ。だけどそんな睡眠からよく抜け出せたわね」

「最初に眠りから抜け出したのはジンタだろう。どうやったんだ」

ロッキンガンの問いに、ジンタはこう答えた。

「寒かったんだよ。それで起きた」

それを聞いたユキがなぜか誇らしくこう言いだした。

「ユキのおかげだ」

「確かにユキの暴走のおかげではあるのだけど、下手すれば凍死していたのでプラマイゼロだな」

俺がそう言うと、頬を膨らませて抗議している。そんな姿を見て、みんな微笑ましく笑っていた。


オアシスの屋敷でゆっくり休めると思っていたのに、急な展開でまた砂漠の中に放り出された俺たちは、すぐに砂漠から出ることを考えた。地図を見て砂漠を抜け出せる最短ルートを探る。


「さすがに今はトレジャーボックスは無視しよう」

「そうだね。そろそろ風呂に入ってゆっくりしたい」

キネアとニジナはそう言っている。それに対して俺は否定的な意見をする。

「うむ……気持ちはわかるが、ここまでトレジャーボックスから出るのはおっさんばっかりで、全然稼げてないのだ。このままでは大赤字になってしまう」


「そうだけど、次はおっさんが出ないって保障もないでしょう。ここはちゃんとした宿で休んで英気を養った方がいいよ。そうすればトレジャーボックスのドロップ内容も改善するかもしれないし……」

ニジナは都合のいい感んじで言っているが、ただゆっくりしたいだけなのは伝わってくる。まあ、俺もさすがに疲れたので宿で休みたいのには同意するが……


やはりトレジャーボックスはしばらく無視することに決まり、俺たちは一直線で砂漠を脱出した。そこから街はまだ遠かったので、近い村へと向かった。


砂漠を脱出して半日ほどで、パモンラと言う名の村へと到着する。それほど大きな村ではないが、宿屋やちょっとした商店などもあったので安心する。

「とりあえず宿に部屋を取って飯にしようか、さすがに蠍以外の物が食べたい」

「そうだね、賛成〜」

「やっと酒が飲めるな」


久しぶりの人里で、みんな一安心する。しかし、一つ問題が発覚する。小さな村の小さな宿屋、部屋数が人数分は無かった。なので一人一部屋とはいかず、複数での相部屋となる。俺はジークとロッキンガンと同室となり、後は女性陣で一部屋、おっさんたちで二部屋を取った。


宿屋の一階に酒場があったので、そこで食事をすることにした。しかし、ここで一つ気がかりなことに気がつく。


ちょっと待てよ……おっさんたちはとんでもなく食べる……ジークも酒を水のように飲む……腹が減っているのでシュラやユキもどれくらい食べるか想像できない……やばい……このままでは旅の資金がここで尽きることも考えられるな……


俺は少し考えて、この問題を解決する為の方法を思いついた。すぐに酒場の親父と交渉に入る。

「店主さん。ちょっといいかい?」

「はい。お客さん。ご注文ですか」

「いや、これから15人ほどで、食事をしたいんだけど、注文が複雑になって会計がややこしくなると思うんだよ」

「はあ……そうですね……なんせ小さな酒場ですから……その人数ですとそうなるかもしれませんね」

「なので、相談なんだけど、一定の金額を払うので、食べ放題、飲み放題にしてもらえないかな。その方がどちらもわかりやすくていいだろう」

「まあ、確かにそうですが、そうなるとある程度の料金を貰いませんと……」

「いくらくらいならできそう?」

「15人ほどですよね。そうですね……2万ゴルドお支払いしてくれるのでしたらお受けします」

「よし。じゃあ、俺の連れは大食いで大酒飲みだから3万ゴルド払うからそれで頼む」

「3万も払ってくれるのなら喜んでお受けしますよ」


うむ……田舎の気の良い店主を騙すようで気が重いが、おそらくこのメンバーで普通に飲み食いしたら10万ゴルド分は軽く行くだろう。俺は心の中で店主に謝った。

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