第99話 おっさん箱

まさかとは思った……そうなるのではないかと想像した。だが、それが現実になると、人は言葉を失うものである。三匹目のおっさん……それが今、俺の目の前に存在した。すでに驚く気力も無くなっていた俺はそれを呆然と眺めていた。


「さて、今日はそろそろどこかでキャンプをしよう」

ロッキンガンが無表情でそう言うと、ジンタもそれを肯定する。

「そうだな、なぜか俺もすごく疲れた、美味いものでも食って、ゆっくり休もう。そうすれば何かが変わるはずだ。変わらなきゃいけないんだ」


現実を見ないようにしている二人に、ニジナは冷ややかな目でこう現実を突きつける。

「キャンプはわかったけど、三人に増えたこのおじさんたちはどうするのよ」

「……明日になったら消えていると嬉しいなっと思っている」

「それはジンタの希望でしょ。実際どうするのよ」

「どうもできん!」

「開き直らない!」


とにかく、言い合いをしても仕方ないので、今日はキャンプして落ち着こうということになった。


キャンプに選んだ場所は、三匹目のおっさんを取得したトレジャーボックスのポイントに近い大きな滝のある川辺の近くに決めた。自然の滝の涼やかな音が、混乱した心を癒してくれるとの理由である。


「キネアとニジナは飯の準備だ。シュラとユキは薪集めで、ジークとロッキンガンは滝壺で釣りをしてくれ、新鮮な魚を焼いて食おう」

そう堂々と指示するジンタに、ニジナが質問する。

「それで、あんたは何するのよ」

「現場監督だ」


もちろんそんな役を仲間が許すわけもなく、ジンタも薪拾いの担当とされた。みんな忙しくキャンプの準備をする中、三匹のおっさんは、じっと食事の用意をするキネアとニジナを見つめていた。

「う〜ん……お腹空いてるのかな、ずっとこっち見てるよ」

ニジナがその視線に気がついて、キネアにそう話す。

「あんなにじっと見られてると嫌だね……何か食べる物を与えて落ち着かせようか」

そう言うとキネアは、サラダ用に蒸していた芋を器に入れて、三匹のおっさんに持って行った。三人は器に盛られた芋をじっと見ると、恐る恐るそれを口に運ぶ。そして芋の味を気に入ったのか、すごい勢いで芋を食べ始めた。


芋を食べ終わると、当たり前のように、キネアとニジナの作業を見守る行為を再開する三匹のおっさん。どうやら全然量が足らなかったようだ。さすがにこれ以上食べ物を与えると、食事が無くなってしまう。仕方ないので、おっさんたちはそのまま放置することにした。


一方、釣りをしている二人は、順調に釣果を伸ばしていた。酒を片手に、片手間で釣りをしているジークであったが、竿をクイクイと動かして魚を誘うと、絶妙なタイミングでそれを引き上げる。そんな器用に魚を釣り上げていく姿を見て、一緒に釣りをしているロッキンガンが感心していた。

「見た目と違って器用だなジーク」

「ふん。釣りは子供の時によくやっていたからな。オヤジ仕込みの技だ」

そう言ってる間にも、ジークはかなりの大物を釣り上げている。

「この調子だと、魚が余るな」

「ふん。余るくらいでいいじゃねえか。新鮮な焼き魚は酒のつまみになる。余ったら俺が全部食ってやるよ」


しかし、そんな二人の心配など無用であった。キネアとニジナが作った食事も、ロッキンガンとジークの釣った魚も、信じられないスピードで食べられていった。

「おい……あのおっさんたち、むちゃくちゃ食うぞ」

「ジンタ……ちょっと、その辺で遠慮してくれるように、言ってきてよ」

「どうして俺が言いに行かなきゃいかんのだ」

「このままだと、みんなの分も食べちゃうでしょ。ご飯抜きでもいいの?」

「チッ、仕方ない」

そう言うと、ジンタは嫌々ながら三匹のおっさんの元へ向かう。

「おい。お前たち。ちょっと食べ過ぎだぞ。それではみんなの分が無くなるではないか」


そう言われたおっさんたちは、信じられないくらいに悲しい顔をする。この世の最後のようなその表情を見ると、さすがのジンタも怯んだ。

「まあ、もう少しくらいなら食べてもいいけどな」

そう言うと、おっさんの元を離れる。


戻ってきたジンタに、ニジナとキネアが容赦ない非難を浴びせた。

「何やってんのよ。ちゃんと止めないとダメでしょ」

「あぁ〜、サラダも全部食べちゃってる……」

「だったら自分たちで言ってこいよな。あんな顔されたらさすがに何も言えないぞ」


結局、おっさんたちの食事を止めることができずに、ジンタたちは、粗末な残り物を細々と食べる羽目になった。

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