第82話 ラミア隊

地面に潜っていたジンタたちは、地表の騒ぎが収まるとモソモソと出てきた。


「ジンタ。大丈夫なの!」


ニジナが出てきたジンタの元へ慌てて駆け寄る。

「平気だぞ」

パタパタと体の土を落としながらそうジンタは返事をする。


ジンタのマントが元の大きさに戻ると、マントに包まれていた10体のラミアがゾロゾロと出てくる。それを見てパーティーの仲間たちは慌てて戦闘体制に入った。だが、それをジンタが制止する。

「あっ、大丈夫、大丈夫。この子たちはもう危険はないよ」


その言葉を示すように、ラミアたちはジンタにひれ伏す。そしてこう言葉を発した。

「私たちはあなたに従います」


ラミアたちは堕ちていた。正確にはマントに屈していたのだが、マントの所有者であるジンタにも主への態度を示した。


「ジンタ。あんた・・テイムなんかできたっけ?」

ニジナが驚いてそう言う。

「テイムなどできなくても、なんとかなるもんだ」


よくわからないジンタの言葉は無視して、ニジナは地面の中で何があったのか、ラミアたちと一緒に出てきたジュエルに詳細を聞く。だが、彼女は頬を赤くして何やら照れて答えてくれなかった。



その日の成果は、ジンタパーティーが討伐数で3位につける健闘を見せた。奇抜な作戦で魔物の群れを一網打尽にした話は皆に伝わり、さらにラミア10体を従える奇跡を見せて夕食時の話題はその話一色となった。


「ジンタ。お前、テイムもできないのに、どうやってラミアを手なずけたんだ」


本日、何度も聞かれている内容をディレイにも聞かれて、正直ジンタは困っていた。なぜならば本人にもよくわからないからである。マントの力だということはうっすら理解しているが、どこがどうなってそうなったかは意味不明である。


「まあ、よくわからんけどそうなった」


正直にそう答えるが、企業秘密にしているとでも捉えたのか、仲間だろ、そっと教えろよとか言われる。まあ、そう言われても本当にわからないものは答えようがなかった。



次の日からラミアたちは大活躍を見せる。三次職の魔導士並みの攻撃魔法を使える10人のラミアの火力は凄まじかった。魔力の総量もかなりのもので、魔法を連発してもそう簡単には枯渇しなかったのが大きかった。


ラミアたちの活躍によって、ルキア、リスティアの二つのパーティーの独走状態だった討伐数も、ジンタパーティーが迫る勢いであった。他のパーティーもそれに刺激を受けて、全体的な効率の底上げとなり、予定より少し早く、掃討戦へと移行できそうである。


だが、話はそう簡単には進みそうになかった。明日には掃討作戦の実行をと計画していたのだが・・その日、ディレイのパーティーが、キンバルの沼地中央部で驚異の光景を目にしていた。


「おいルーカス・・あれを見てみろ・・・」


ディレイにそう言われたルーカスは、その方向を見て体が硬直する。そこには恐怖が存在した。この大陸には、冒険者に恐れられているモンスターとして、代表的な種が三つ存在する。ドラゴン、悪魔族、そして魔神である。ディレイたちが見たのはその恐怖の魔神が四体も跋扈する姿であった。


魔神はその体の大きさと、オーラの色で大体の強さがわかる。大きさは、小さくて2メートルくらい、大きいものでは50メートルを超える。オーラの色は、一般的に、白<青<黄色<緑<赤<黒といった感じで強くなっていく。


今、見える魔神は、大きさはどれも10メートルくらいで、オーラの色は、黄色が二体と緑が一体、そして赤が一体であった。


「まずいな赤オーラの魔神がいるぞ・・」


赤オーラの魔神は、推定レベル130くらいの強さと予測できる。これは五次職の6人パーティーで討伐するような強さであった。


この緊急事態に、ディレイはすぐに拠点へと戻りパーティーリーダーを集めて話し合いをすることにした。魔神の情報はあったが、まさか四体も存在して、しかも一体は赤オーラである話をすると、さすがに皆、押し黙った。ジンタ以外は・・


「俺も魔神見たかったな・・赤オーラってそんなに強いの?」

無知だから言えるそのセリフに、少しだけ場が和らぐ。

「ジンタが100人いても倒せないくらい強いぞ」

ルキアが笑いながらそう言うと、ジンタはふ〜んといった感じでこう返す。

「俺が100人なら大したことないな。ルキア相手なら俺千人でも勝負にならないだろうし」


そのセリフに、その場にいたリーダーたちに笑いが起こる。

「そうだな。そう考えれば大したことないな」

ディレイも微笑みながらそう発言した。


その後の話で、魔神との戦闘を考えると、もう少し魔物の数を減らした方が良いということになり、討伐戦を継続することになった。なるべく魔神を刺激しない距離を取り、周りの魔物の数をできるだけ減らしていく。それは、崖の上で片足で立つような、アンバランスで、緊張感のある戦いになっていった。

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