第70話 主従の思い

ジンタはファイヤーボールを敵のテイマーに放った。強力な火の玉が、まっすぐテイマーの向かって飛んでいく。しかし、テイマーの眼の前で、ファイヤーボールが破裂して消し飛んだ。

「なっ!」

ランク8のファイヤーボールをあんなに簡単に防ぐなんて・・・


「驚いてるな、坊主。アルラウネの弱点は火炎属性だ。その弱点の対応くらい考えてるのが普通だろ」


テイマーはそう言いながら、鞭で攻撃してくる。素早い攻撃に、体術の心得もない俺に鞭は容赦なく当たりまくる。


「ファイヤーボール!」

俺は鞭を避けながらファイヤーボールを撃ち放つ。だが、さっきと同じように、ファイヤーボールは奴の眼の前で炸裂して消し飛ぶ。


くっ・・俺にはファイヤーボールしか攻撃方法がないのに・・これを防がれたらどうしようもないぞ・・

「ははははっ! バカかお前は! 火炎属性の魔法など効かないと言っているだろ! 無駄なんだよそんな攻撃! 学習しろ学習!」


よく喋る奴だな・・こっちにはこれしか攻撃方法がないから仕方ないだろ。

「ファイヤーボール!」


敵のテイマーの馬鹿にされても、ファイヤーボールを放つしか選択肢が無い。もちろんファイヤーボールは、奴の眼の前で炸裂して消える。

「ば・・馬鹿かお前は! 効かねえって言ってるだろうが! 何度も何度も同じ攻撃してんじゃねえよ!」


あれ・・こいつなんだろう・・なんか焦ってないか? 相手が通用しない攻撃を繰り返しているんだ、余裕で構えても焦る必要は無いだろうに・・もしかしてファイヤーボールを撃たれると都合が悪いとか・・例えばあの火炎属性の攻撃に対する防御は無限では無いなんてことが・・その可能性はあるぞ。よく考えたらあんなに簡単に火炎属性を防御できるスキルが無限に発動するわけが無い。よし・・それじゃ、根比といこう。


「ファイヤーボール!」

俺は繰り返しファイヤーボールを連発する。その度に、ファイヤーボールは寸前で炸裂して消し消える。だけど何度もそれを繰り返すうちに、テイマーの顔色に変化が出てきた。

「はー・・はー・・」

明らかに疲労の色が見え始め、息も荒くなってくる。防御をしているだけにしては疲労度が大きい。さらに俺はファイヤーボールを放った。そのファイヤーボールは消滅するが、それと同時にテイマーはその場にぶっ倒れた。


どうやらあの火炎防御スキルは効果が高い分、体力と魔力の消耗が相当激しかったようで、テイマーの体力と魔力が枯渇してしまったみたいだ。


俺はテイマーにとどめを刺すためにファイヤーボールを放とうとした。するとあのアルラウネがテイマーの前に踊りでて、両手を大きく広げて奴を庇う。俺はファイヤーボールの詠唱を止め、アルラウネの声を掛ける。

「そいつがいなくなれば君は自由になれるんだぞ。どうしてそんな男を守るんだ」

「私のマスターだから・・・」

か細い声でそう彼女は言った。俺は主従関係というものが理解できなくなってくる。あれほど暴力を受けて迫害されているのに、命がけで自分の主人を守ろうとする・・それはステータスの効果なのか・・それともまた別の何かなのか俺にはわからないけど、今、はっきり言えることは、俺は彼女に攻撃はできないということだけであった。



ニジナの頬に汗が一筋流れ落ちる。猛烈なスピードでニンジャマスターは迫ってきているのに、感覚的にはスローモーションのようにゆっくりに感じた。避けないといけないのに体が動いてくれない。


目の前に迫ったニンジャマスターが、不意に動きを変えて横に飛んだ。そのニンジャマスターのいた場所に、何本もの氷の槍が突き刺さる。


ユキの放ったアイシクルランスを避けたニンジャマスターは、少しのフェイントを入れて再度ニジナに迫る。ニジナは攻撃魔法であるレールライトを唱えた。光の一線がニンジャマスターに命中するが、さしたるダメージを与えることがなかった。


ニンジャマスターの体が赤く光る。凄まじい闘気と、大きい攻撃モーションにその攻撃力が伝わってきた。もはやここまでと思ったその時、ニジナはワインレッドのマントに包まれる。そして暖かい腕に抱かれてた。暗闇の中、ニンジャマスターの攻撃の衝撃は伝わってきた。それは凄まじいものであったが、マントの防御で致命傷を避けることができた。


マントごしで、ニンジャマスターの必殺の攻撃を受けたジンタとニジナの二人は吹き飛ばされる。エロマントの物理耐性が無ければ、二人は即死していただろう。


「大丈夫かニジナ・・・」

ジンタは瀕死の状態でニジナに声をかける。額からは血が流れ落ちていた。ニジナはそれを見て気を失いそうになった。


ジンタはテイマーとの戦いを終えてすぐにニジナの危機を見た。とっさに動いてマントで彼女を庇ったのだ。致命傷は避けたが、二人はもはや動くことができないほどのダメージを受けていた。そんな二人にニンジャマスターがゆっくりと迫る。

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