第69話 時には真面目に・・

さすがに無敵のヴァルダでも、四次職を四人も相手にするのは厳しいだろう・・ここは危険でも俺たちが手を貸すしかない。


「ニジナ、後方からヴァルダの支援を頼む。シュラ、あまり突っ込まないで彼をフォローしてくれ。ユキは後方から攻撃魔法だ、あまり目立ってターゲットを取るなよ。ミチル、お前はみんなをサポートしてくれ、変なことしちゃダメだぞ」


そう俺が声をかけると、みんな素直に頷く。そしてニジナがこう聞いてきた。

「ジンタはどうするの?」

「俺はあのテイマーを倒す」


敵には四人の四次職以外に、あのテイマーと、その男に付き添うアルラウネがいた。

「ちょっと! 一人で三次職のテイマーとアルラウネ相手に戦うつもりなの?」

「そうだ」

「馬鹿なの、二次職のあなたが一人で勝てるわけないじゃないの」

「いける・・そんな気がするんだ」

「・・・・もう、どこからその自信が来るのよ・・わかったわよ。あのテイマーは任せるけど・・でも、無理はしないでよね」

「大丈夫だ、無茶はしても無理はしない!」


ニジナは心臓が張り裂けそうなくらい心配だったが、珍しく真剣なジンタの瞳を見て彼の意思を尊重した。


ヴァルダは頭の中で冷静に敵の戦力を分析していた。あの黒の鎧のリーダーはレベル90前後だろう・・装備もかなりの高品質の物を使っているようだ。リーダーの右にいる男はおそらく装備から見て、ニンジャマスターと呼ばれるスカウトの最上級職だろう。こいつの探知スキルで俺たちの存在が見つかったと思われる。リーダーの左の男は武器を持っていないことから拳闘士系のジョブに見える。マスターグラップラー辺りが予想できた。リーダーの後ろにいるのは魔導職か・・四次職の魔導職の火力はパーフェクトアーマーのヴァルダから見ても脅威である。できれば一番最初に片付けたいところであった。


最初に動いたのは拳闘士であった。素早く踏み込むと、ヴァルダに拳を叩き込む。それはただのパンチではなかった。上位の拳闘士が使用する闘気を込めた衝撃拳であった。硬い鎧を貫通して、中の肉体にダメージを与える技である。防御力の高いタンク職にも有効な一撃であるが、ヴァルダの装備している鎧には強力な衝撃耐性が付いていた。衝撃を和らげてダメージを最小限にする。


予想より効果がなかったその攻撃に、拳闘士は驚きを隠せない。反撃を警戒してすぐに後ろへ下がろうとするが、そこへヴァルダのハンマーが襲い掛かる。拳闘士は両手でガードするが、そのまま吹き飛ばされた。


ヴァルダの攻撃時の隙を狙っていたのか、ニンジャマスターがヴァルダの後方に回り込もうとする。素早い動きでヴァルダも対応できない。だが、思わぬ攻撃にニンジャマスターは後ろに飛び退く。攻撃したのはシュラであった。


後ろに下がったニンジャマスターに、シュラは素早い攻撃で追い打ちをかける。その神速の早さに、さすがのニンジャマスターも防戦一方となる。今のシュラのスピードと攻撃力は、ミチルのフィジカルブーストの魔法で増加されていた。その為に、四次職のニンジャマスターとも互角以上の戦いができていたのだ。


「シュラ! 前に出すぎるな!」

しかしそのヴァルダの警告は遅かった。ニンジャマスターへの攻撃に集中していたシュラは、すぐ近く黒い鎧の男の攻撃に気がつくのが遅れた。気が付いた時にはすでに遅く、肩に強烈な痛みを感じていた。


黒い鎧の男の武器はフランベルジュという凶悪な武器であった。剣の刃が波打っているようにギザギザで、肌を切りつけられると肉を切るというより、抉り取られる。傷の深さ以上の血が飛び散る。


シュラは痛みでその場に崩れそうになる。黒い鎧の男は、シュラの首を切り落とそうと剣を振るう。だが、ガキーン! という重い音を響かせて黒い鎧の男の剣は弾き飛ばされた。


寸前のところでヴァルダがシュラを庇った。だが、それは無茶な動きであった。ヴァルダは無防備に敵に囲まれる状態となり、ニンジャマスターと拳闘士、そして後方にいた魔導士から一斉攻撃を受けることになる。


いくらパーフェクトアーマーのヴァルダでも、三人の四次職からの必殺攻撃を無防備に受けて無事に済むわけがなかった。兜は弾き飛ばされ、鎧はヒビや傷が入り、ヴァルダの体のも大きなダメージをもたらした。


地面に膝をつくヴァルダであったが、その体が淡い光に包まれる。そして傷が癒されていく。ニジナが絶妙のタイミングで回復魔法を唱えたのだ。


しかし、この回復行為は、敵のターゲットを一気に集めることになった。


「先にあのヒーラーを片付けろ!」

黒の鎧の男の命令で、ニンジャマスターがすぐに動いた。鋭い短刀を胸に構えて、ニジナに襲いかかる。



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