第66話 ギルド戦争

ギルド間の争いを、俗的な言い方をするとギルド戦争と言った。今回の揉め事は、すでに死亡者が出ていることから、ギルド戦争と呼んでいいだろう。


俺たちは赤のミノタウルスの情報を掴む為に、ルーディアの街を周り情報を収集した。そして得た情報は、奴らの根城にしている古城の存在である。それはルーディアの郊外にある寂れた城で、そこが奴らのアジトのようだ。


「どうするヴァルダ」

今いるメンバーで唯一の四次職であるヴァルダにディレイが意見を聞く。

「そうだな・・まずはその城の近くに行こう。そして出入り口を見張って、少数で出てきた連中を静かに倒していく」

さすがに無謀な突撃は考えていなようだ。ヴァルダの作戦が採用されて、みんなで敵のアジトの城に向かった。


その古城は思ったより大きい。出入りできるのも一箇所ではなく、複数あるので俺たちは二手に分かれてそれを見張ることになった。


北側の入り口を、ヴァルダ、ジンタ、ニジナ、シュラ、ユキ、ミチルの面子で、南側をディレイ、エミュリタ、シュラザード、ブレイブル、ジュエル、ルドビッヒ、キネアで見張ることになった。


「いいか、四人以上はスルーだ。それ以下なら迅速に片付けるぞ」


人数的に一度に戦えるのは五人が限界だろう。しかも敵に気づかれずに一気に倒すとなるとさらに少数の必要がある。


まず、最初に敵が現れたのは南側であった。人数は三人。ギリギリ襲える人数であった。南側のパーティーが、ディレイの声でその敵に一斉に襲いかかる。エミュリタの派手な攻撃魔法などは使えないので、ルドビッヒの矢と、キネアのスリングショット、ブレイブルとジュエルの剣で迅速に片付ける。


倒した三人を茂みに隠してすぐに、南側から大勢出てきた。十人以上いるので、これはスルーする。さらに二十人ほどが南側からゾロゾロと出てくる。これもスルーするつもりであったが、その集団はまっすぐディレイたちが隠れていた場所へと向かってきた。

「チッ・・気づかれたか・・仕方ねえ、エミュリタ、攻撃魔法だ!」


ディレイの指示に、エミュリタは素早く呪文を詠唱する。広範囲の強力な火炎魔法が、向かってくる集団に炸裂した。


だが、事前に魔法防御の準備をしていたのか、倒せたのは三人ほどであった。エミュリタの攻撃魔法の混乱の隙に、キネアはスリングショットで敵のアーチャーを狙う。弓を放とうと構えようとしていたそのアーチャーは、鉄の礫を顔面に食らって悶絶する。


ルドビッヒは弓の連射スキルを使用して、敵に矢の雨を降らす。魔法攻撃に対する準備はしていたようだが、矢の攻撃には無防備のようで、物理防御の弱い魔法職などがその矢に打たれて倒れる。


十人ほどの敵の前衛職が突撃してくる。それを迎え撃つのは重戦士のブレイブルとアマゾネスのジュエル、そして魔法剣士のディレイであった。


敵の平均レベルは30ほどに対して、迎え撃ったディレイたちは、ジュエルがレベル55、ブレイブルが29、ディレイは63とレベル的には上回っていた。しかし、さすがに数が多く、その戦いは激しいものとなった。


ジュエルは大きなブロードソードを振り、敵の重戦士の兜を吹き飛ばす。そして無防備になった顔面に蹴りを打ち込む。体術も得意なジュエルの蹴りは、重戦士の顔面を潰すには十分な威力があった。


ディレイは自分の剣に火炎のエンチャントを付与していた。その剣で斬られたグラディエーターは火炎の追加ダメージで体を焼かれる。さらに近距離からの雷撃魔法で二人の重戦士がディレイの足元に崩れる。ディレイは倒れた二人に火炎の剣でとどめを刺した。


ブレイブルは巨大な斧を持つクルセイダーと戦っていた。だが、相手の方がレベルが高いようで苦戦する。巨大な斧がブレイブルの肩を砕く。ブレイブルはその場に崩れ落ちてしまった。だが、淡い光がブレイブルを包み込む。それはシュラザードの回復魔法であった。砕かれた肩の痛みが引いていく・・ブレイブルはすぐに立ち上がってグレートソードを、斧を大きく振りかぶったクルセイダーに叩き込んだ。


敵の数が多くても、連携、個々の力で上まっており、ディレイたちが敵を押していた。だけど、そんな攻勢も、シュラザードの悲鳴で終わりを告げる。


シュラザードは後ろから矢で射られていた。キネアがシュラザードに駆け寄る。

「シュラザード! 大丈夫ですか!」

シュラザードに近づいたキネアには氷の礫が降り注いだ。不意の攻撃に身をかわすが、無数の氷の礫を避けきれずに被弾する。キネアは強烈な痛みにその場に倒れこむ。


見ると後方から十人ほどの敵が近づいてきていた。それはさっきスルーした一団であった。おそらく最初からディレイたちに気がついていたが、後から出てきた部隊と挟み撃ちにする為に、わざと気づかない振りをして素通りして、後方に回り込んでいたようだ。


「さすがにやべ・・」

ディレイは誰にも聞かれないような小さな声で弱音を吐いていた・・



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