第67話 絶体絶命です

南側入り口でディレイたちが戦っている時、北側にも動きがあった。二十人ほどの冒険者が出てきたのだ。数が多いのでそれはスルーするつもりであったが、その集団はまっすぐとジンタたちの方に向かっていた。


「どうやら気づかれてるようだな」

ヴァルダが冷静にそう呟く。

「隠れてるのにどうして・・」

「高レベルのスカウト職がいたんだな・・・四次職の探知スキルは、半径、300メートルくらいの効果範囲があるって聞いたことがある・・少し近づきすぎたか・・」

「どうすんだヴァルダ!」

「俺がなんとかする。お前たちは絶対前に出るなよ」

そう言うと、近づいてくる敵の集団に、ヴァルダはゆっくりと歩み寄って行く。


うちのギルドで、実力ではルキア、ジークについでナンバー3。頼れるサブマスが俺たちの盾となり前へ出た。このままヴァルダだけに任せるはずもなく、俺たちもすぐに戦闘体制に入る。


敵の集団の一人がヴァルダに声をかける。

「パルミラギルドの残党か、ふっ・・ルキアとジークがいないと何もできない雑魚ギルドが・・そんな少数で仕返しに来るとは身の程を知らねえな!」


そう息巻いた男は、ヴァルダのハンマーに頭を粉砕されて、永遠に沈黙する。その敵も装備などを見るとかなりの高レベルの冒険者のようだったけど、それを一撃倒すヴァルダはさすがだ。


敵の頭を粉砕したことで、戦いが始まった。周りの敵たちが一斉にヴァルダに攻撃を開始する。


ヴァルダは四次職のパーフェクトアーマーというジョブである。その名の通り、完璧な防御力を誇り、あらゆる攻撃に耐性がる。ヴァルダに放たれた攻撃は、矢に魔法に剣に槍に多種にわたった。しかし、そのどの攻撃もほとんどダメージを与えることはできない。


「そんな攻撃が俺に届くと思うなよ!」

ヴァルダはそう言って敵の前衛職の二人を、右手に持ったハンマーで鎧ごと粉砕する。


驚異的な強さのヴァルダに攻撃が集中して、ジンタたちは完全に無警戒であった。ヴァルダの邪魔をしないように援護を開始する。

「ファイヤーボール!」


敵の魔導士を、ジンタのランク8の反則級ファイヤーボールが直撃する。魔法耐性の高いはずの魔導士が、その一撃で蒸発した。


さすがに乱戦になっているので、範囲攻撃の絶対零度は使えないユキは、アイシクルランスを敵の後衛に放った。強力な氷の矢が、敵のアーチャーや魔導士を貫く。


シュラはヴァルダの援護で、彼の死角になっている敵を狙って斬り裂いていく。彼女の装備しているメタルクローは、鉄の鎧くらいならバターのように斬り裂いてしまう。重装備の敵の前衛も、強力な爪の攻撃に為す術もなく倒される。


ニジナはヴァルダとシュラの様子を見て、補助魔法、回復魔法で援護する。ヴァルダに回復は必要ないが、シュラは無茶な突撃で多少のダメージを受けている。微々たる傷だが、蓄積するとバカにできない傷となるので、早めに回復魔法を唱えていた。


ミチルは適当に補助魔法をみんなに唱えているように見えるが、実はかなり的確な行動を行っていた。シュラには敏捷を上げる補助魔法を、ヴァルダには攻撃力を増加する魔法を、ユキには火炎耐性の魔法を・・戦闘のプロなどが見ると、MVPの次点は実はこの小き者と評価させるほどの活躍であった。


敵は全て二次職、三次職であり、四次職のヴァルダに手も足も出ず、ジンタたちの活躍もあり殲滅することができた。


「勝った・・・やればできるもんだな」

俺が勝利に対してそう言うと、ヴァルダが何やら考えながら深刻に発言する。

「いや・・まずいな・・敵に四次職が一人もいなかった・・もしかしたらディレイたちの方に行っているかもしれん。そうなると向こうがかなりやばいぞ」

「それじゃ、すぐにディレイたちのとこへ行こう!」

俺たちはディレイのパーティーに危険を感じて、すぐに救援に向かうことにした。



まともに立っているのはディレイとエミュリタだけであった。他の仲間はみんな戦闘不能で倒れている。


エミュリタは包囲されてからは、常に敵に接近されてしまい、魔法の詠唱時間がとれずに鞭で応戦するしかなかった。慣れない接近戦で、すでに体はボロボロであった。それでも戦えているのは倒れた仲間を守っているからである。


前に出て、ディレイは一人奮闘していた。魔法攻撃と剣技の連携で一人、また一人と敵を倒していく。だが、それでも無傷というわけにはいかない。シュラザードが倒れてしまっているのが痛かった。もう体力の限界が近づいていた・・


敵はまだ十人ほど残っている。全員三次職で、簡単に倒せる相手ではない。本来なら逃亡するこの状況だが、倒れた仲間を置いていくわけにはいかなかった。なんとか起死回生の一手を考えるが、さすがに万策尽きていた。

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