第65話 壊滅
俺は昨日の夜の出会いを思い出して胸を熱くしていた。もしかしたらこれが恋なのだろうか・・リスティアはルーディアに住んでいるそうなので、また会う機会があるかもしれない。そう考えると心が躍る。
温泉宿での宴会は夜遅くまで続いたようで、朝起きると、みんなげんなりとしていた。
「うっ・・・なんか気持ち悪い・・」
ニジナが口を押さえてそう言う。
「飲みすぎなんだよ・・」
「反省してます・・」
弱っているからだろうか、ニジナは素直にそう答える。
そのまま寮までディレイたちと一緒に帰る。ゾンビの群れのようなボロボロの歩みで街道を歩いていく。
だけど寮に着いた俺たちを待っていたのは、いつもの寮の風景ではなく、ボロボロに荒らされた建物と、ズタボロに倒された仲間たちであった・・
通りから寮の門が壊されているのを見て異変を感じた。急ぎ足で寮の入り口に向かうと、何かの燃える匂いがしてくる。建物からは煙が上がっているようで、明らかに何かあったようだ。壊れた門を通り抜け、中に入って声を失う。破壊された建物、倒れているギルドの仲間たちを見て一気に心拍数が上がる。
俺たちは近くで唸っているルドビッヒを見つけ彼に駆け寄った。
「ルドビッヒ! 何がどうなっている!」
ルドビッヒは力ない言葉でこう答える。
「赤のミノタウルスだ・・・あいつらいきなり大勢で襲ってきやがった・・・」
やはりあの件を恨みに思っていたのか仕返しに来たようだ。
「ニジナ、シュラザード。倒れているみんなに回復魔法を頼む! 他の者はギルド倉庫の確認と、敵が残っていないか見て回ってくれ」
そう言ってディレイが素早く指示を出す。俺たちは寮の中を回って確認する。
ひどい状況だった・・・留守をしていたほんとんどの者が重症で、何人か死亡している者もいた・・これはさすがに笑えない・・俺は倒れている顔見知りのギルドメンバーの体を起こすと、歯を食いしばり感情を抑えた。
ギルド倉庫のアイテムは全て奪われていた。ギルド資金の大半は冒険者組合に預けられているので無事ではあるが、倉庫にはかなりのレアアイテムがあったので被害はかなりのものだった。
さすがに温厚なヴァルダも体が震えるほど怒りを表に出している。
回復魔法で癒された仲間たちもダメージが大きかった為に、回復限界値を超えていたようだ。その為に多くの者が立ち上がるのも困難な状況であった。
すぐに俺たちは冒険者組合に助けを求めた。動けない者を病院に運ぶのを手伝ってもらい、そして赤のミノタウルスの暴挙を伝える。
赤のミノタウルスは冒険者組合に非加盟のギルドだったので、組合からは明確な処罰はできないと返答される。ただ、パルミラギルドからの赤のミノタウルスへの報復は支持すると言われた。これは仕返しするのは応援するけど、組合は何もできないよと言っているようなものである。何の為の冒険者組合なのだ・・お役所仕事にもほどがるぞ。
民間人に対しての暴力行為には厳しい法が適用されるが、原則として冒険者同士の揉め事は当事者同士で解決する決まりがある。その為に冒険者は法に守られておらず、皆、ギルドに入ってその安全を補っているのだ。
「赤のミノタウルスめ・・ぶっ潰してやる」
比較的被害の少なかった建物で、俺たちは対応を話し合っていた。
「報復するのは決まりだと思うけど・・相手の方が明らかに戦力が上ね・・」
エミュリタが動けるメンバーを見てそう発言する。今、戦闘のできるギルドメンバーは、留守にしていたサブマスパーティーと俺のパーティーを除けば3名・・重戦士のブレイブル、アマゾネスのジュエル、スナイパーのルドビッヒであった。それに対して赤のミノタウルスは最低でも50名はいる。その中には四次職の冒険者も数名所属していると聞いている・・今の戦力では反撃も難しいように思えた。
「そんなの関係ねえ・・このまま何もしないなんて俺にはできねえぞ」
ディレイもかなりの怒りでそう強く発言する。無論、俺もディレイと同じ気持ちだ。
「わかった。それじゃ、ゲリラ戦で戦いましょう。ジンタ、ニジナ、キネア・・お前たちはどこかで身を隠していなさい。さすがに危険すぎる」
「ふざけるなエミュリタ。俺も戦うぞ」
珍しくジンタが感情的にそう言い切る。
「エミュリタ。私もジンタと同じ意見です。この原因を作ったのは私たちだし・・死んだ仲間の仇も討てないなんて考えられない・・」
キネアも無言で頷いてジンタとニジナに同意する。
「よし、よく言った。それじゃ、全員で仇を討ちに行くぞ」
ディレイの言葉に、そこにいた全員が頷く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます