第63話 温泉宿の夜は遅い

ニジナとキネアが温泉に行くと、そこには見慣れたナイスボディな裸体があった。

「何だ、ニジナ、キネア。お前たちも来てたのか」

そう声をかけたのは、パルミラギルドのサブマス、エミュリタであった。

「エミュリタ。あなたもお一人で?」

「いや、ヴァルダ、ディレイとシュラザードが一緒だ」

「まあ、そんなメンバーでどこ行ってたの」

「アクアダンジョンでレアドロップを狙ってたんだ」

「すごい・・それで出たの?」

「ああ、すごいのが手に入ったぞ」


エミュリタの話では、神樹の雫という激レアな素材がドロップしたそうだ。これは捨て値で売っても五千万にはなる高価なものであった。

「すごい・・・私たちの儲けとは桁が違うわね・・」

「というわけで、ここの宿代は私らに任せろ」

太っ腹なエミュリタの言葉に、ニジナとキネアは素直に喜ぶ。

「ごちそうさんです」


そこにミチルを連れたシュラがやってきた。ミチルが温泉に行くのをぐずってたので無理やり連れてきたようだ。

「あ! エミュリタ!」

シュラはエミュリタを見るなり抱きついてきた。エミュリタはシュラをペットのように思っているようで、頭を撫でてそれに答えた。

「シュラがいるってことはジンタも一緒なのだな」

「今は男湯にいると思うぞ」

「そうか、まあ、女湯にいたら折檻だったけどな」


そこへ遅れてきたシュラザードが風呂に入ってくる。知った顔を見つけて驚きに声をかける。

「あれ、どうしてあなたたちがいるの?」

「偶然だ、シュラザード。ニジナとキネアはジンタと一緒にダンジョンからの帰りに立ち寄ったそうだ」

ニジナの代わりにエミュリタが答えた。


「シュラザード!」

そう言ってシュラがその褐色の裸体に抱きつく。

「こら、シュラ。変なとこ触らないで」

シュラは変なとこを触る為に抱きついているので、そんな言葉は聞こえない振りをする。そしてさらに際どいところへと手を伸ばす。


風呂から上がると、ディレイが宴会部屋を予約していたようで、そこで宴が始まった。激レアなアイテムをゲットしているディレイたちは羽振りが良かった。豪勢な食事が次々と運ばれてくる。さらにかなり高価そうなお酒も注文していて、それを水のように飲み始める。


「いやぁあ。魔樹ミルケトスは強かったぞ」

酒の力も加わって、ヴァルダたちの自慢話が始まった。いかに強敵を倒して激レアアイテムをゲットしたかを延々話す。


ヴァルダはまだ酒癖が悪くないので自慢くらいで済むが、ディレイとエミュリタは酒が入ると中々たちが悪くなる。エミュリタは鞭でパシパシ叩き始めるし、ディレイは何か変な愚痴を言って絡んでくる。


「じ〜ん〜た〜ルキアが帰って来ねえよ〜〜あいつ大丈夫かな〜」

ディレイが俺の肩を乱暴に掴むと、そう言ってくる。確かに今回のルキアの留守は長いので、ギルド内でも心配の声が聞こえ始めていた。でも・・あの化け物みたいに強いルキアに何かあったとは思えないけどな・・


「ルキアが強いのはディレイが一番よく知ってるだろ。心配しないでいいんじゃないか」

「でもよ〜もしもってことがあるだろ〜百人くらいの魔王に囲まれたとか・・一万匹のドラゴンに包囲されたとか〜ありえないこともないだろ〜」

ねえよ、そんな状況。そう突っ込みたいけど相手は酔っ払いである、ここはハイハイと聞き流す。


ディレイの愚痴で、ただでさえウザい状況なのに、果実酒を飲んでいい感じに酔っ払ったミチルが絡んできた。

「こら〜ジンタ・・・ちょっと私を褒めなさいよね。補助魔法とかいい感じじゃない? もっともっと私を労ってよ〜そしてご褒美をあげるのです〜」

俺はわかった、わかったと適当にあしらう。


「ジンタ!」

そう言ってニジナが俺の裾を引っ張る。

「なんだよニジナ・・・」

「あんたはどうしてそうなの!」

そう言いながら俺の肩を持ってガシガシと強く揺さぶる。

「どうした、どうした! 何が言いたいんだニジナ!」

ニジナのやつ、どうやら珍しくすごく酔っているようだ。向こうでエミュリタが不敵に笑ってるので、全部あの女の仕業だろう。


「鈍い・・・あんたは鈍いのよ・・何もわかっちゃいないじゃないの・・どうして・・気づけよジンタ! もう・・・うっ・・・うええぇ〜ん」

意味不明なことを言いながら、最後は泣き出してしまった。


高い酒が美味いのか、今日はみんな飲み過ぎだ。キネアやシュラザードもかなりの泥酔状態だし・・まともなのは酒を飲まないユキと俺くらいなものであった。

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