第60話 敵と宝とトラップと

トレジャーボックスの沸きポイントは、キャンプを設置した場所から10分くらいの場所にあった。ジンタとキネアは周りを警戒しながらその場所へとやってきた。


「あっ。トレジャーボックス沸いてるね」

「うむ・・どうする。解錠出来そうか」

「ちょっと見てみるね」

キネアはそう言ってトレジャーボックスに近づく。俺は周りを警戒しながらそれを見守っていた。


キネアは、カチャカチャとトレジャーボックスをいじると、息を大きく吐き出した。どうやら罠を解除したようだ。

「やばかった。テレポートのトラップが仕掛けられてたよ」

うわ・・シュラもユキもいないタイミングで、どこかに飛ばされたら、たまったもんじゃなかったな。


キネアは、鍵穴をカチャカチャといじり始める。今度は解錠しているようだ。そしてトレジャーボックスが少し淡く光ると、ガチャリと音を立てて箱が開いた。


開いた箱の中を覗くと、そこには書物が一冊置かれていた。

「こ・・・これは!」

置かれている書物を見て驚く。それはサキュバスのミリアちゃんの、新作書物『私をおかずにして。』だったのである。俺は思わずそれを手に取る。


「ジンタ! ダメ!」

キネアがそう叫ぶが時すでに遅し、ものすごい勢いで警報が鳴り響き始めた。

「アラームの罠・・」

「二重トラップよ・・トレジャーボックスは開けた後も油断したらダメなのよ・・」


手に取った『私をおかずにして。』はいつの間にか無くなっている。それ自体が罠による幻覚だったようだ。欲しい物を幻覚で見せて飛びつかせて罠にかける姑息な方法である。


けたたましく鳴り響くアワームの音によって、周りから複数のモンスターが近寄ってくる。接近してきたモンスターはマグマドンと呼ばれる炎の野獣で、最悪なことに強力な火炎耐性を持っていて、おそらく俺のファイヤーボールは通用しない。これはかなりのピンチであった。


「キネア! とにかく逃げるぞ」

「それがいいわね」


俺たちはその場から逃走を図るが、でかい図体をしている割にはマグマドンの動きは早い。さらに炎の体の一部を撒き散らしていて、逃走ルートを狭くしていた。


キネアは何かよくわからない球をマグマドンに投げつける。すると黒い霧のような物がモクモクと湧き出た。黒い霧は辺りを包み込み、視界を遮った。周りが見えなくなってオロオロしていると、キネアが俺の手を掴んだ。そして手を引いて誘導してくれる。


キネアが使ったのはエスケープボールというアイテムで、周りの視界、匂い、気配を遮り、撹乱する物であった。モンスターはもちろん、普通の冒険者でも行動不能になる品物なのだが、レンジャーのスキルには盲目歩行なるものがあって、そんな中でも方向を把握して動くことができる。


キネアのおかげでなんとかその場を脱出することができた。トレジャーボックスからは何も手に入らなかったけど、命があるだけで良しとしよう。


そのままキャンプに戻ると、ニジナがなぜか怒り始める。

「あなたたち・・・何しに行ってたのよ・・」

ニジナの視線は、俺とキネアが繋いでいる手に向けられていた。あ・・そういえば手をつないだままだった。俺たちは慌てて手を離した。それがまた変な誤解を生んだようだ。ニジナはすごく不機嫌になってしまった。


それから俺とキネアで状況を説明して何とか理解してもらうが、不機嫌なのは治らなかった。何が気に入らないのか訳がわからない。



セーフティーゾーンであっても、絶対に安全ではない。なので睡眠は交代で取ることにした。まずは俺が見張りをする事にする。


炭豆茶を啜りながらボーとしていると、なぜかニジナが起きてきた。

「何だよ、ニジナ。寝とかないと明日辛いぞ」

「・・・・・ちょっと寝れないから、私もお茶でも飲もうと思って・・」

そう言ってニジナはカチャカチャとお茶を入れる。お茶を淹れ終わると、俺の隣に座ってチビチビ飲み始めた。

「・・・・・」

「・・・・・」


何だこの重い空気は・・なんか喋れよなんか・・

「・・・・あのさ、ニジナってどこ出身だっけ?」

あまりの空気に耐え切れず、別に聞きたくもない質問をしてしまった。

「・・・・内緒・・」

「何だよ。隠すようなことかよ」


もちろんニジナにとっては隠すようなことなのである。何しろ出身を言えば素性が全てばれるくらいの話なのだ。だが、ジンタはそんなことを知るわけもない。ニジナは質問を質問で返して誤魔化す。

「ジンタはどこだっけ?」

「俺は南にある、ボルペン村だ」

「へえ、そうなんだ・・知らないけどね」

「まあ、なんの特徴もない村だからな」

「一回行ってみたいな・・ジンタの生まれ育った村・・」

「それはダメだ。行くとしても俺は連れてけないぞ」

「・・・・・どうしてよ」

「いや、俺は村で嫌われてたからな。ただでさえ村八分の状態で、俺が村を出る時は、なぜか祭りが始まったくらいだから。帰っても誰も喜ばない」


「何よそれ。村で何か悪い事でもしたの?」

「うむ・・心当たりは無い!」

村での変態行為は数知れず、子供でなければ捕まっているレベルの軽犯罪を犯しまくっていた記憶など無いかのように、堂々とそう言い切った。



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