第58話 対人戦
冒険者同士の戦闘はタブーである。だが、その危険はいつでも起こりうる身近なことであった。常に対人戦闘を目的としたギルドも存在し、そのターゲットはモンスターではなく、同じ冒険者である。
赤のミノタウルスは対人ギルドではなかったが、日頃のその極悪な振る舞いから、必然的に冒険者との戦闘を余儀なくされていた。その為、人との戦いに慣れている。
一方、ジンタたちは冒険者との戦闘などしたことないので、今のこの状況に緊張を隠せない。
最初に動いたのは赤のミノタウルスの前衛の男であった。その前衛は盾持ちのタンクのようで、明らかにターゲットを取るための行動に見える。しかし、対人戦のセオリーとも言える行動を理解していないシュラは、単純にその動きに反応する。
シュラは盾持ちの前衛に斬りかかる。だが、その前衛職の持っている盾はミスリル製のシールドであった。さすがにモンスターをゼリーのように斬り刻むメタルクローの刃も簡単に跳ね返される。待っていたように、そのタイミングで赤のミノタウルスの魔導職の男が、シュラにフレイムボルトを放った。火炎耐性が高いシュラであったが、後ろへノックバックされるほどの衝撃を受ける。
「アイシクルランス!」
すぐにユキがシュラの援護をする。無数の氷の槍が、盾持ちの前衛を含む赤のミノタウルスのパーティー遅いかかる。さすがにその氷の槍の数に驚きを隠せず動揺する。
「なんだこの氷の槍の数は! あれはユキジョロウじゃねえのか!」
三次職にもなれば、属性耐性はかなり万全につけている可能性が高い。赤のミノタウルスの冒険者たちも、例外なく高耐性を持っていた。しかし、それでもユキのアイシクルランスの氷の槍の直撃を受ければ、無視できないダメージを受ける。
赤のミノタウルスは全部で6人、一方、ジンタ達は、ミチルを入れても5人と数の上でも劣勢であり、このユキの作った好機を見逃すのは愚策に見える。ジンタたちは、ユキのアイシクルランスの攻撃で混乱している敵に向けて一斉に攻撃を放った。
ジンタのファイヤーボールは、一撃で二人の敵を行動不能にした。それには敵も味方も驚いた。
「なんだあのファイヤーボールの異常な火力は!」
盾持ちの前衛職の弱点はその動きの鈍さである。それに比べてシュラの最大の武器はスピードであった。盾で守りを固める盾持ちの後ろに素早く回り込むと、強烈な打撃を背中に打ち込む。鎧も貫通したその衝撃は、盾持ち前衛職の意識を飛ばすには十分な威力があった。
シュラなはそのまま、敵の弓使いもそのまま蹴り技で吹き飛ばす。
残る敵は二人・・その二人に向けて、ユキの二発目のアイシクルランスが放たれた。両手斧を持っているドワーフに数発の氷の槍が命中する。氷の槍を何発も喰らって耐えていたそのドワーフもさすがに限界がきたのか気絶する。
残るはあのテイマーだけであった。
「お・・お前! 何やってる、あいつらを攻撃しろ! 皆殺しにするんだ!」
テイマーは回復魔法などを得意とするアルラウネにそう命令する。アルラウネは無表情で主の命令に素直に従う。
アルラウネは樹木の精霊である。見た目の植物感から見るように火炎属性にすごく弱い。なので今の強化されたジンタのファイヤーボールであれば一撃で葬ることができるであろう。だが、彼はそうすることはなかった。
「よし! エロマント・・今日の獲物だ!」
ジンタは周りの仲間に聞こえないようにそう小声で話す。
ジンタの体はふわりと浮くと、アルラウネに突撃した。それは攻撃ではなかった。間違いなく、ただの抱擁である。
アルラウネは突撃してくる俺に、地面から植物のツルを召喚して攻撃する。しかし、ツルはエロマントに弾き返される。そのまま俺はアルラウネに抱きついた。
「ジンタ!」
ニジナが俺の意味不明の行動を心配して声をかける。そんな声を無視してアルラウネの胸に顔を埋める。
「シュラ! 今のうちだ! テイマーを倒すんだ!」
なんかいい感じでアルラウネを抑えてる感を出して、俺はシュラにそう指示を出した。
シュラは素早く加速してテイマーとの距離を詰める。
「ぐっ・・・貴様などに俺がやられるか!」
そう言って鞭を振り回すが、それを軽く避けると、シュラは強烈な拳をテイマーの腹に叩き込んだ。
テイマーはそのまま後ろに吹き飛ばされて意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます