第57話 悪意の中で
「あの野郎・・俺に文句を言うとは・・やっぱり殺してくるか」
赤のミノタウルスのテイマーがそう言うと、仲間の冒険者がこう言ってきた。
「やめとけボーゲル。あいつらパルミラギルドのやつだぞ」
ボーゲルと呼ばれたテイマーの男は、驚いたように聞き返した。
「なんだと・・本当かそれは・・」
「ああ、間違いない。あの光の紋章は見覚えがある」
それを聞くとボーゲルは眉を細めてこう呟く。
「さすがにルキアとジークを敵に回すのはやべえか・・くそっ! むかつく! テメーがギャーギャー騒ぐからこうなったんだろうが!」
そう言ってアルラウネを足蹴りする。
「でもよ。噂ではルキアとジークはエギナダンジョンで行方不明らしいぞ」
ボーゲルの仲間がそう言うと、ボーゲルは驚きの顔をする。
「マジな情報か?」
「それはどうかわからんが、ルキアたちが留守なのは本当だ」
「それじゃ、遠慮することねえじゃねか」
ボーゲルはそう言ってニヤリといやらしく微笑んだ。
嫌なものを見せられて、気分が悪くなったが、次の日、俺たちは予定通りディアブロダンジョンの狩場へと向かった。ダンジョンに入って30分くらい進むと、一際広いフロアーへと到着した。ディアブロダンジョン1階層、タイガーホールと言われている狩場で、なぜそう呼ばれているかはわからない。
ここの狩場に出現するモンスターはバラエティーに富んでいた。どのモンスターもレベル30以上の強敵で苦戦するかに思われたが、ユキとシュラのパワーアップが想像以上であった。特にシュラの攻撃力が凄まじい。レベル35のキャタピラビートルの硬い甲殻を、果物を切るように斬り刻む。
また、俺のファイヤーボールがやばいことになっていた。ワンドと指輪の火炎魔法のランクアップは想像以上の恩恵を与えてくれたようで、火炎耐性を持っているはずのドラゴンフライを一撃で瞬殺する。
「ジンタのファイヤーボールやばいね」
ニジナが感心したようにそう言う。
「そうだろ、そうだろ。ランク8のファイヤーボールなんて聞いたことないからな」
それと意外な活躍を見せているのがミチルであった。ミチルは多彩なサポート魔法を使えるようで、気まぐれで俺たちに補助魔法をかけてくれる。中にはレアな補助魔法である魔力回復なんかも使ってくれて、パーティー全体の持久力がかなりアップしたように思う。
しかし、そんな順調な狩りを一撃の攻撃魔法が邪魔をする。殺傷力の高いフレイムボルトが、ジンタに直撃した。とっさにエロマントで身を守らなければ多分死んでいただろう。
「なんだ!」
驚いた俺が攻撃魔法が飛んできた方向を見ると、そこにはあの赤いミノタウルスのパーティーが狩りをしていた。
「悪い、悪い。手元が狂っちまった」
こいつ・・絶対わざとだよな・・
しかし、揉めるのも嫌なので、そんな挑発も無視をして俺たちは狩りを続ける。
だけど挑発はその一回では終わらなかった。今度は火炎の範囲攻撃の魔法が、俺たちの中心に放たれる。ユキの弱点属性の攻撃だったが、アクセの補正で強化された耐性の効果があったのか、なんとか無傷であった。だけど、焦げたユキの袖を見て、俺はさすがにブチ切れる。ニジナもさすがに切れたようで二人で赤いミノタウルスに詰め寄る。
「お前らいい加減にしろよ! また手元が狂ったとか言うんじゃないだろな!」
「ああ、悪い、悪い。手元が狂ったんだよ」
悪びれることなくそう言うテイマーの男に、ニジナがブチ切れる。
「何が手元が狂ったよ。その手、歪んでんじゃないの!」
女にきつく言われて、ボーゲルは逆ギレする。
「何だとクソアマ! 殺すぞてめー!」
「ニジナはクソじゃないぞこの野郎!」
そんな言い合いが始まり、赤のミノタウルスの一人がすごく面倒くさそうな顔で、こう言ってきた。
「もういいんじゃねえか。喧嘩買ってくれたみたいだし。こいつら皆殺しにして終わりにしようぜ」
その言葉で場の空気が一変する。威圧的な気配から、明らかな殺意へと変貌する。それを感じた俺とニジナは少し後ろに下がる。見るとこいつら全員、三次職のようだ。二次職の俺たちより明らかに格上である。普通に戦えば勝てるわけはないのだが、こちらにはユキとシュラがいる。
「ユキ、シュラ。気をつけろよ」
二人は戦闘態勢で赤いミノタウルスと対峙する。おそらくどちらかの誰かが少しでも動いたら戦闘が始まる。そんな雰囲気であった。
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