第51話 準備とかしてみる

冒険者百貨店は階層によって、販売されている物が違ってくる。今日はマジで冒険者としての装備を整える目的なので、実用的で戦闘に特化した掘り出し物が多く売られている中古販売層である7階へとやってきていた。ここなら普段なら手に届かないような高価な魔法装備が格安で売られていることがあるのだ。


「うわっ、このマント可愛いよ。これにしたら、ジンタ」

ニジナが見た目だけで勧めてくるマントはピンク色のシマシマ模様・・能力以前の問題で却下である。


マントを選ぶ上で、一番重要なのは肌触りであると俺は思っている。野営とかでは布団の代わりにするし、触れるたびにチクチクしていては、いざという時に集中できない可能性がある。補正も大事だが、やはり普段使いも念頭に置いて検討した方がいいだろう。


これだけ数多く店舗があると、マント専門店なる狭い範囲で商売をしている店も存在する。やはり専門店だけあってその品揃えは豊富で、多種多様なニーズに応えてくれていた。


「おっ! これは補正がすごいな・・耐性もかなり高いし、性能だけ見れば申し分ない」

「でも、ちょっと見た目がアレだよね」

ニジナの言うように、色が奇抜で、妙な模様が入っているのが気になる。性能だけなら買ってもいいのだが、さすがになんか嫌だな・・・


さらにマントを探して店の奥の方に行くと、乱雑に置かれたマントの山が目に入る。店の店主に聞くと売れ残りのジャンク品らしく、かなり格安な値段設定がされている。


そんな山積みのマントの中に、シックなワインレッドのマントを見つけた。色合いは凄く好きな感じである。肌触りも申し分ない。性能をタグで確認すると、一言だけ記載されていた。


「曰く付き商品・・・・」

曰く付き・・・まあ、訳あり商品ということなんだろうけど・・・曰くってなんだよ。性能もわからないし、気になったので店のおじさんに確認する。


「おっちゃん。この曰く付きって何?」

「・・・・・それはやめとけ」

いや・・そんなことを言われたら気になるじゃないか・・・

「性能も書いてないけど、どんな補正がついてるんだ」

「・・・・・まあ、性能はラグリュナ級魔法装備クラスと言われてるが、それ以上に厄介なもんがついておる。死を呼ぶ呪いのマントじゃから悪いことは言わん、他の物にしろ」


ラグリュナ級なんて、最高級の魔法装備ってことじゃないか・・でっかい城が買える値段はする装備がこんな格安なわけないので、眉唾ものの話ではあるな。


「そんな危険なものならこの値段は高いと思うぞ。おっちゃん、少し負けてくれよ」

「買うつもりなのか! 変わったやつじゃのう。うむ・・・そうじゃのう。ならば五万ゴルドではどうだ」

「もう一声!」

「あのな、死を呼ぶ呪いのマントとか言っとるが、あのラグリュナ級装備じゃぞ。五万ゴルドで十分安いじゃろ」

「ここに置いていてもどうせ売れないだろ。お金になるだけいいんじゃないんか」

「・・・ふっ。どうなっても知らんぞ。三万置いて、とっとと帰りやがれ」


ラッキー。呪いなんて俺は信じちゃいないし、ラグリュナ級魔法装備なんてものも信じてないが、この材質のマントが三万ゴルドは破格の値段なので、かなりお買い得だったと思うぞ。


ホクホク顔で店を後にする。だけどニジナは呪いのマントというのが気になるのか、少し心配な顔をしている。

「ジンタ。その怪しいマント・・ちゃんと鑑定してもらった方がいいよ」

「鑑定代が勿体無い」

「そんなの私が出してあげるから、何かあってからじゃ遅いでしょ」

「おっ、ニジナの奢りなら仕方ない。後で鑑定屋で見てもらおう」


鑑定代なんて高くても一万ゴルドくらいなのに、それをケチるなんてどうかと思うけど・・


マントを購入したので、次は武器になるロッドかワンドを購入しようと、魔導専門の武器屋へとやってきた。魔法の攻撃力を上げないと、俺の存在感が皆無だと気がついたのだ。


その店には強力なワンドも売っていたが、さすがにそれ相応の値段がする。どう転んでも中古で一千万ゴルドもするような高級品は買えない。なんとか五万くらいに負からないかな・・・ダメ元で聞いてみた。


「オヤジ。このワンド、五万にならないか」

「殴られる前に帰りな坊や」


当たり前だが不機嫌に対応される。仕方ないので、中古で掘り出し物があると評判の店に行くことにした。その店は、ゴミのようにワンド、ロッド、スタッフなどが置かれていて、タグさえ貼られてない。武器の鑑定をするスキルなど持ってないので、直感で購入するしかないようだ。


「うむ・・見た目で決めるしかないようだな。まあ、この後、鑑定屋に行くわけだし、そこで当たりが外れかわかるから適当に決めるか」

「ちょっと待って。もしかしてだけど、ここで購入した武器も、どさくさに紛れて私に鑑定代払わそうとしてないでしょうね」

感のいいニジナである。全くそのつもりであったのだがバレては仕方ない。


「ふっ・・もちろんここで買ったやつは自分で鑑定するぞ」

「ならいいけど・・・」


そうだ。感のいいニジナだったら、この中から当たりを引くんじゃないだろうか・・よし、物は試しである、ニジナに選ばそう。

「ニジナ。いいと思うやつを選んでくれ」

「え! 私が選ぶの?」

「そうだ。好きなの選んでいいぞ」

「う・・・ん。これなんかいいんじゃない」

ニジナが選んだのは、青く光る宝石が埋められたワンドであった。一万ゴルド均一の箱から選んだもので、見た目からするとお買い得には見える。まあ、性能はわからないけど・・・


「よし。これを買うぞ」

「外れでも私の所為にしないでよね」

「もちろんアタリなら俺の手柄。外れならニジナの所為だ」

「何よそれ。選んだ損じゃない」

「まあ、当たることを祈るのだ」

「・・・もう絶対に選んであげないから」


俺たちは次にアクセサリー屋さんに向かった。アクセサリーはどの職でも装備するアイテムなので、かなりの賑わいを見せていた。ここで俺の分はもちろん、良いものがあれば、ユキやシュラにも買ってやろうと思う。

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