第37話 宿場町であーだこーだ

早めに進んでいたら、目的地の町、ポリエタへと想像以上に早く到着した。真面目なヴァルダは、まだ時間が早いから先に進もうと提案してきたが、町でゆっくり休みたいディレイとエミュリタに説得されて、早いが今日はここで宿を取ることになった。


「誰か、いい宿を知らないか」

ディレイの問いに、シュラザードが答える。

「私いいとこ知ってるよ。ちょっと高いけど、前にルキアときた宿が最高に良かった」

「おっどこだそれは」

「そこの先にある宿。赤い屋根のとこ」

と、みんなで宿を取る為にそこに行ったのだけど、予約で満室らしく断られた。

「その先にも大きな宿があったな」

ウリエルの言葉で、さらに先の宿へと行ったが、そこも満室であった。

「今はシーズン中だからどこもいっぱいだな・・」


それから何軒も回ったがどこも満室で、完全に宿難民と化していた。

「もう、どこでもいい。どこか宿が空いていないか、みんな情報を集めてくるんだ!」


さすがに焦ったディレイが皆にそう声をかける。俺たちは宿の情報を得るために別れて町で聞き込みをすることにした。


俺もニジナや、ユキとシュラを連れて町を回って話を聞いた。

「どこか人気の無いボロ宿を知らないか?」

そう話しかけられたおばさんは、変な人を見る目で俺を見ると、何も返事をしないでどこかへ行った。

「ジンタ。聞き方が悪いよ。もう少し言い方があるでしょ」

ニジナにそう言われて、聞き方を変えた。

「豪華な宿だけど、なぜか激安で、そして泊まる人があまりいない宿は無いか

?」

「そんなのあるわけないでしょ」

俺が聞くと、そう言っておばさんはどこかへ行った。

「ジンタ。人に物を尋ねるセンス無さすぎ」

「じゃあ、お前が聞いてみろよ」

「しょうがないわね。ちょっと見てなさいよ」

そう言ってニジナは、通りかかったおじさんに声をかける。

「すみません。この辺にシーズンで忙しい中でも、なぜか部屋がガラガラの宿とかないですか」

なんだよ・・俺とあまり変わらんじゃないか。だけど俺と違って、聞かれたおじさんは良い返事をする。

「・・・・あるぞ。そこの丘の上の宿がいつもガラガラで、泊まれると思うぞ」

「ありがとうございます」


ニジナがそう礼を言うと、おじさんは手を少し上げて返事をしてどこかへ行った。

「ほら。見つかったでしょ」

「ふん。聞いた相手が良かっただけだろ」


仲間が待っている場所に戻って、ニジナが聞いた情報を伝える。するとシュラザードたちも同じ情報を得たようだった。

「ニジナもシュラザードも同じ宿の情報を持ってきたみたいだな。ということはこの町で泊まれる宿は、その丘の上の宿しかないってことだ。まあ、なぜかって疑問もあるが、そこしかないんなら悩む事もない。そこにするぞ」


俺たちはその丘上の宿へと向かった。


宿は、人気がないのが少しわかるような古い造りの宿であった。木造三階建ての建物で、雨が降ったらやばいだろって感じの雰囲気がある。


「さすがに町の人がガラガラだっていうだけのことはあるな・・」

みょうに人気の無いことを納得するその外見に、ディレイは思わず呟く。


俺たちはサポートメンバーやユキとシュラを入れて15人。恐ろしいことに、15部屋余裕で空いていた。宿の一階には何を出されるんだろうと怖くなるような酒場もちゃんとあり、飯もそこで食えそうだった。


「あらあら。大人数で冒険ですかね」

宿のおばさんがジンタにそう話しかけてくる。

「そうだ。冒険の前のひと時の休息だ。なので最高の接客を期待しているぞ」

横暴な言い回しに、宿のおばさんは笑顔で答えた。

「はいはい。最高のおもてなしをしますよ」


宿の部屋は、外見の酷さに比べると、意外のまともであった。部屋は綺麗に掃除されているし、布団もちゃんと干されているような感じがする。


「そうだな、値段も激安だし、どうしてガラガラに空いてるのか不思議でしょうがない」

思ったよりまともな宿なので、人気がないのをみんな不思議がり始めた。

「もしかして・・出るんじゃないの・・」

エミュリタがそう話し始める。

「出るって何がだよ」

「これよ」

そう言って力を抜いた手を前に出した。

「ゴーストか!」

「違うわよ。幽霊よ」

「・・・・・・ゴーストと幽霊って何が違うんだ?」

ディレイが最もな疑問をエミュリタに投げかけた。俺もそう思う。

「ゴーストは霊体がモンスター化したもので、幽霊は人の魂というか・・思いの塊みたいなものよ」

「・・・・ようはどっちも霊体だろ?」

「そうだけど、全然違うのよ」


女性陣は幽霊に恐怖を感じているようで、嫌な表情をしている。驚くことにシュラやユキも、幽霊が怖いようで、なんか微妙な表情をしていた。

「ニジナも怖いのか?」

「私はそうでもないけどね。やっぱり女の子は怖がるものよ」

「変な話だな。シュラザードなんてマスタープリーストだろ。ターンアンデットとかでゴーストなんか簡単に倒せるだろうに・・何を怖がるのだ」

「言っとくけど幽霊にターンアンデットなんて通用しないからね」

「そうなのか! なぜ通用しない!」

「えとね・・ターンアンデットってのは霊体と魔力の繋がりを断ち切る魔法だから、特に魔力との繋がりの無い霊体だけの幽霊には効果が無いの」

「そうか、よくわからんけど幽霊怖えな」

「一応、幽霊にも効果のある魔法はあるけど・・」

ニジナがそう言うと、シュラザードが話に入ってくる。

「ターン・アセンションだよね。でもあれって特殊三次職の霊媒師とかの魔法でしょ?」

シュラザードの話だとかなり特殊な魔法のようだ。アンデットやゴーストに強いプリーストでも取得できないとなるとかなりマニアックなものなのであろう。

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