第36話 旅の途中で

荷馬車に全員は乗れないので、残りのメンバーは歩いてついていく。もちろん荷馬車の方もスピードを出すこともなく、その歩く速さに併せて馬を進ませる。


街道はモンスターポータルを避けて整備されている為に、敵と遭遇することはそれほど多くはない。俺たちは順調に先へと進んだ。


キリア洞窟までは3日の行程である。初日は無理をせず、日が暮れたらすぐにキャンプの準備をすることになった。それぞれ薪を集めたり、火を起こしたり、水を汲みに行ったりと準備をする。俺はニジナと一緒に薪を集めに行った。


「ジンタ。こんなのでいいのかな」

ニジナはぶっとい木の幹を持ってそう聞いてきた。

「いや・・もっと細い方がいいんじゃないか」


ニジナはあまり薪を集める経験がないので、よく分かってないようだ。手際も悪い。それでも一生懸命集めているのは好感が持てる。褒めてやる代わりにニジナの薪も持ってやることにした。



ジンタは私の集めた薪も一緒に持ってくれた。いつもは変な言動ばかりする彼だが、こういうとこは男の子している。私も冒険者だから身体的な加護を受けている。なのでこれくらい全然重たくないので平気なんだけど、それでもその気遣いは嬉しかった。いつもこんな感じの彼でいてくれたら、もっと私も素直になれるかもしれない・・そう思ったけど考え直す。やっぱり変なことを言うジンタにも側に居て欲しかった。


やっぱり私はジンタが好きなのかもしれない・・でも、そんな気持ちがあっても、それは許されないことだから・・だって私は・・・


「ニジナ。もうこれくらいでいいだろ。みんなのとこに戻ろうぜ」

「あっ、そうだね。戻ろう」

そう言って先に進むジンタの背中を見つめながら、ニジナをこう思った。


今はこのまま・・今まで通りでいい。それで十分だから・・・



キャンプに戻ると既に大きな鍋が用意されていて、そこに食材が入れられているとこであった。二人は薪を置くと、早速鍋を覗き込む。野菜や肉が大量に煮込まれていた。良い匂いが辺りに漂っている。


やはり鍋はキャンプ時の人数が多い時の定番メニューである。調理が簡単で、大きな鍋があれば一度に大量の量を作れるのも魅了であった。鍋ができると、ヴァルダが専用のデカイ器を持ってきた。鍋の食材の半分近い量がその器に消えていく。


食事が終わると、いつものごとく飲み会が始まる。暴れる連中が今日はいないので、いつもよりは大人しい感じではあるが、それでも騒ぎは静かな森に響き渡った。


キャンプした場所は街道にも近く、比較的安全な場所であるのだけど、一応交代で見張りをして就寝することになった。まあ、この辺に出るモンスターはレベル10前後の低レベルモンスターである、寝込みを襲われてもそれほど問題ではないのだが・・


十分な睡眠を取って朝起きると、ほとんどの仲間が起きていた。火の周りに思い思いに座ると、朝食を食べている。メニューはパンと干し肉と目玉焼きと、朝食定番のものであった。


「ジンタ。何飲む?」

ニジナが起きてきた俺に聞いてくる。もちろん大人な俺は炭豆茶一択である。

「炭豆茶、黒で」

「またそんなの飲んで、苦いだけでしょ」

「ふっ・・苦い中にも芳醇な香りと、深い味わいがあるんだよ」


ブツブツ言いながらもニジナは炭豆茶を淹れてくれた。炭豆茶を堪能していると、主人である俺より長い睡眠を堪能したシュラとユキも起きてきた。この二人は多分、食べ物の匂いにつられてきたのだろう。


「ジンタ。腹減った」

ユキがそう言ってきたので、パンの上に目玉焼きを乗せて渡した。シュラは自分のカスタマイズしたパンを完成させているようなのでほっといても大丈夫だろう。


みんな朝食を食べると、準備をしてすぐに出発する。今日はキリア洞窟までの中間地点にある町で宿を取る予定である。日が暮れるまでに町に到着する為に先を急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る