4.1 命題は必ず真偽のいずれかである

【トモヤ@現実世界:帰り道】

 リョウのやつ、えらく熱が入ってるじゃないか。面白くなりそうだぞ———

 トモヤは帰り道にクラスチャットのリョウの発言を見てそんなことを考えていた。普段は周囲との距離を保っているようなリョウが、今回の事件についてはなぜか積極的になっている。僕はなるべく面倒ごとには関わり合いにはなりたくないけど、親友のリョウが何か動くというのなら手伝ってやらないこともない。クラスでの立ち位置はリョウよりも上だと自負しているし、情報収集力は彼よりも上だ。きっとユウコのIDだって手に入るだろう。それにしてもこんなにリョウが積極的になるのは珍しい。もしかしてリョウはユウコのことが好きだったんじゃないかな。いや、そんなことはないはずだ。だってリョウは———


「あ、トモヤくん!途中まで一緒に帰ろうよ」

 後ろからミキが追いかけてくる。彼女は彼女でリョウと関わり合いになりたいだろう。今までとは別の意味で。

「さっきまでユウコのこと考えてたんだ。昨日リョウがクラスチャットで言ってただろ?ユウコのIDが手に入れば何か分かるかもしれないって。だから僕も協力してユウコのIDを手に入れようと思うんだ。」

「たしかに言ってたよね。でもそんなことできるのかな?IDってふつう自分しか知らないよね?そしたらユウコに聞くしかないんじゃないかな?」

 それができたら苦労しない。というよりユウコに聞けば犯人までわかるはずだ。「現実の」ユウコに「ネット上の」ことを聞ければ万事解決なのだ。しかしトモヤを始めきっとクラスの誰もユウコへの連絡手段を持っていないだろう。LINEやSNSが普及して久しいが、ユウコがそれらをやっていると聞いたことはない。 (聞いたことはないだけでやっているのかもしれないが。)それにE-schoolのDMがあるので学校の誰かと連絡を取るにはそれで十分で、ユウコのメアドや電話番号など知らなかった。彼女がネット世界でしか僕らと関わっていなかった以上、もう「会えない」と考えても差し支えないのだ。

「んー、それは難しいんじゃないかな。誰もユウコの家を知らないし、連絡手段もない。それに学校側は知ってるかもしれないけど、リョウが言ってたように、学校側は100%協力してくれるかはわからない。だから自分たちでIDを手に入れる方法を考えなきゃ。」

「たとえばどんな方法があるかな?」

「んー……。たとえばハッキングとか?」

 ユウコには冗談と受け取られたようだが、あながち冗談ではない。このご時世、やってできないことなどないのだ。まあバレたときにはどうなるかわからないけど。

 ※


 アキト:@リョウ ユウコのIDのことなんだけど、E-schoolにはスーパーバイザーがあるって聞いたことがあるぞ。もしものことがあった時のように、全ユーザーの情報が見られるアカウントがあるって。だからそれをハッキングすればユウコのDMも見られるんじゃないか?[10/21 18:53]


 ※


【アヤカ@現実世界:帰り道】

 リョウったら急に探偵気取りしちゃって、クラスで浮いたりしないかな?まあもともと

 少し浮いてたけど。アヤカもまた帰り道にユウコのことを考えていた。本格的に「捜査」って感じになってきた。これはヤバそう!学校側に内緒で動くなんて、きっとムリだろう。でもなんだかワクワクしてくる自分もいた。不謹慎なのは分かってるけど。

 自分にも何か協力できることはないだろうか?とアヤカは考えた。あの事件についてもう一度思い出してみる。

 ユウコは10月10日の深夜に体育館に呼び出されて、そこで殺された。口論の末の殺害、とかいうやつだったのか、はたまた隙をついて一気に、という感じだったのか。とにかく体育館に二人でいたことは確かだ。


 体育館に二人……????


 あ!!!!!!!!!!!!!

 脳天を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。私はその現場を「見た」かもしれない。

 10月10日の夜遅く、アヤカは学校に残っていたのだ。気がついたら日付が変わるギリギリになっていて、急いで校門へ向かう途中に、体育館に誰か二人組みがいるのを見たのだ。その時は告白をしている最中かなとか甘い妄想をしてスルーしてしまったが、もしかしたらその二人がユウコと犯人だったのかもしれない……

 これはヤバイよ、これって「証拠」になるのかな!?でも特に何を見たってわけでもないし……。とにかくリョウに伝えなきゃ!

 アヤカは急いでリョウにDMを送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

語リ得ヌ殺人 宇曽川 嘘 @Lie-Usokawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ