123、枕の上に言葉を投げる

 目をつむって頭を撫でられていると、なんだか眠くなってくる。

 だが、何か話したいことがあったのではなかったのか。


 なんとなくだがまぶたを開くと負けという感じがしたので、目をつむったまま、

 沈黙は、気まずさはあるものの居心地が悪いというものではない。


 恥でも照れでもない情動が頬に熱を貯める感じの沈黙だ。

 その情動は多分、高揚という――。


「では、あの変態の人、レアン・マクギット。彼に聞いた話を確認したいです」

「あのー」


 口をはさもうとした坊は、お気になさらずと切り捨てられる。


「その話の後に、別で確認したいこともあります」

「――わかった」


 いつの間にか止まっていた撫でる手を惜しいと思うこともできないままに、俺は暗闇の視界の中でうなずいた。まぶたを通してそこにある明かりのゆらめきが見える。



「一部は貴方にも聞いたことです。両親に捨てられた赤子はフツ・カミゾノという名前を手に入れ、優しい保護者と暮らしていた、と」


 あれが優しいのかどうかは、俺には判別のつかないところであるが、語り手、受け取り手のどちらかがそんなふうに感じた、とそういうことなのだろう。


――ところで、ざりっ、と不吉な鉛筆の先で髪を破るような音がしたのは、坊だろうか? 彼女は大丈夫だろうか。


「そして、その赤子が捨てられた理由……、それが、子供の守護者であるリトルリトルの神様の加護がなかった、とそういうことでしたね」


 紙を破く再びの音を背景にその言葉の意味を噛みしめる。

 少女の姿をしていると言われているリトルノノ、少年の姿をしていると言われているリトルロロ、この二柱一対の神様は子供の守護者だ、と言われている。


 加護の内容としては、病気になりにくく、健やかに育つ、あとは、なんとなく幸運に恵まれる。とそういうもの。

 わかりにくいが、結果が顕著に出る神様だと言われている。そして、ほとんど全ての赤ん坊が生まれつきどちらか一人の加護を受ける。


――そう、ほとんど全てだ。


 例外はある。数万人に一人くらいだと言われているが、はっきり数えられているわけではない。場合によっては、生まれたことすら周囲に知られずしんでいったり、生まれたことがなかったことになったり、そんな子もいるかも知れない。


 例えば俺が森の中に捨てられて動物に食われていれば誰にも知られることはなかっただろう。――そういうことだ。


「ちなみに」


 暗い妄想に割り込んだのは、ニコの声。そう言えば、と思って彼女の声を反芻すれば、彼女の語りは重い物を語っているにもかかわらず、平静なままだ。


 いや、平静というのも少し違うか。

 押し殺したようなものではなく、そのままに近い声。


 ただ、落ち着いていて上下がない代わりにいつもより強い、そんな感じがする。


「リトルリトルの神の加護はさっき言った健康で幸運でという以外にもあるけど……知ってる?」

「――え?」


 いや、知らない。まず、それを受けることができないということであまり調べなかったからなのだろうか、それともレアン、レアン・マクギットのようにリトルリトルの神官にでもならなければ公開されないことなのだろうか。


「わからない」


 俺の答えに、軽く息を飲む音がした。

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