108、健全系スポンサー(甘口)
「面白いお話だが、ふむ、君は商人には向いていないようだね」
手をうつ音とともに、面白いと言いつつも不機嫌そうな声で存在感が割り込んできた。誰かが息を飲んで、そちらを見ると坊がいた。
胸の前で手を組んでいるのはシノリだ。どちらも不安そうにしている、こちらは寝かされた寝台から少しでも立ち上がろうとしているがそれは中途半端な姿勢で終わる。ニコに額のあたりを押されて別途に押し倒されたからだ。
そして、代わりに彼女が前に立つ形になる。シノリと坊が震えんばかりなのとは対象的にただ、気負いもなさそうにそこに立っている。
「いや、大丈夫だから」
そう行って右手を伸ばしてニコの手を掴む。軽く引くと、彼女はこちらを見て仕方なさそうな表情をしたあとで一歩下がって俺の隣、ベッドサイドに立った。
シレノワや薬師さんを除いた子供たちのうちで、割合平気そうなのは、二人のリアクションの意味がわからなそうにしているオーリと、困惑の表情を浮かべているクヌートだ。
他の子達は、幼いこともあってか空気そのものに緊張したような様子だ。
「お久しぶりです、ゼセウスさん」
「あぁ、なんとも痛ましい事件が起きたということで様子を伺いに来たのだけれど、ふむ、意識と体調はそこそこ平気なようだね」
言って、こちらの様子を伺いながら、坊の方にも視線を送っている。
情報の確度を上げるためだろう、商人らしい……という評価で良いのだろうか?
「お、商人さん」
「おや、可愛らしい料理人さん。いかがですか、楽しかったですか?」
「うん、短かったけど楽しかったぞ」
「それは良かったです」
と、ニコと話している間はまとっていた硬い空気が緩む。
しかし、それを終えると空気は戻る。クヌートの表情が、困惑からもっとはっきりとバツの悪そうなものに変わっている。
「少年。――ふむ、先程の話、わかってて言いましたね」
「あー、はい」
表情を見て、だろう、問うというよりも詰めるような言い方で問うとクヌートは素直に首肯した。
「では、お話をしたいところですが、少々お待ちを」
そのクヌートを待たせて次に向き直ったのは坊の方だ。
「坊、計算として数字を弾くのは良いですが、その結果、何がどうなって、ということに想像力を働かせなければいけませんよ」
「う、はい」
坊は坊で言われたことに心当たりがあるのだろう、答えを見た瞬間に解き方がわかった学徒のような顔をした。
「フツさん。あなたは大変に人を惹く性質のようですが、それがために他人が無茶をするときは、把握していないと――えぇ、後悔しますよ」
言葉を選んだような間があったが、多分、その理由については推察できる。
二人について、教導するような言葉を選んでいたが、俺に対しては対等めいた言葉を選ぼうとして、一瞬の間があったのだろう。
こちらにもの言いたげな視線を切って、クヌートに向きなおり、
「さて、おまたせしました少年。先程、向こうの少女を説得するのに、理屈を口にしましたが、さて、それをあなたは対して信じていないでしょう」
一言でゼセウスは距離を詰める。
「なるほど、前回の解体ショーは確かに、その利益は悪くないものだったと思います。少なめに見て、一体の解体で銀貨3から5枚、間をとって4として、前回は5頭。単純計算すれば銀貨20枚。一日の利益としてこれが上がれば、確かに、10日ほども働けば冬を越すことはできるでしょう」
「……っ」
クヌートは目を逸らそうとするかのように、身動ぎしたが、目をそらさないという選択をしたらしい。向かい合うかたちになる。
目元の緩まぬ笑みのまま、
「何が問題になるのか、それを挙げた上で。私の宿題を出しに来ました」
と、スポンサーが宣言した。
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