070、メンバー決め

「それじゃあ、シレノワ君。君の条件を聞かせてもらおうか」

「んー」


 気を取り直して。――いや、フラットに戻って彼女に聞く。

 基本的なやり方で行くことにする。つまりは、彼女の条件を聞き、こちらで調整できるところを調整し、合わせていく形だ。


 気を付けなければならないのは、この場にはいないゼセウスの意志が、けれど、この場には影響しているということだ。

 本来なら、シレノワには一人で現場を見てもらって判断等々をしてもらいたかったのだが、この情況はその局面ではない。もう一段階――つまり、彼女の進退判断を踏まえた次の行動を起こそうとしている。


 『門の部屋』もその一つだしおそらくは、大工たちの仕事領分をもっと進めたいという意見も出てくるだろう。これはまぁ、間違いなく、ゼセウスの意図だと思われる。

 推測できることは少ないが、まず間違いないとして言えることは、ゼセウスは状況を早く前に進めたいのだろう、ということだ。どういう目的意識からなのかはわからない。もしかすると、こちらには見えていないだけで迷宮事業をすぐにでも始めなければ邪魔が入るという情報があるのかもしれないし、あるいはもっと単純に、商人としての本能のようなもので短い時間に利益を出したいのかもしれない。


 他にも幾つものパターンがあるし、可能性としてだけで言うなら、プレッシャーをかけたいとか、嫌がらせであるというのだって無いといえる根拠はない。


「そうですねぇ」


 急に聞いたからか、それとも焦らしてでもいるつもりなのか、シレノワはゆっくりとした動作を取る。

 こちらとしては、まだ聞いていないシレノワの条件において、判断を先延ばしにしたいという意見は受け入れがたいのだ。これが通常の三者でのやり取りなら、シレノワの要求に傷がつくだけで問題にならないが、この場合はそうではない。


 現時点においては三者のやり取りであっても、こちらの目標達成の折には、シレノワはこちらの陣営になる。つまり、彼女の瑕疵はこちらの瑕疵だ。


「とりあえず、情報がまだまだ足りませんのでそのあたりですね」


 それを彼女が踏まえているかどうかというと、感覚としてはそういう感じではなさそうだ。


「それじゃ、迷宮入り口の実物を見てもらってそれから決めようか」



 というわけで、子供たちに留守番を頼んだ。

 同行者は……。


「ニコ、クヌート」


 二人にお願いする。すると、言いにくそうにしながら手を挙げてきた存在がいた。


「あたしたちもついていきたい」


 手を挙げてきたのは年中組の数名だ。理由を聞いてみると、先ほどのやり取りに原因があるようだ。つまり、シレノワが一人で一つの立場を持ってしまっているから、その助けになりたいと、そういうことらしい。


 たぶん、あれは駆け引きのために出してきただけで彼女本人はそんなに気にしていないと思う。

 実際に、そう発案されたシレノワは嬉しいという表情ではあるが、申し訳なさそうな感情も籠っているように見える。


 こちらにプレッシャーを与えるのは想定通りなのだろうが、子供たちにも何かをさせなければという気持ちにさせたことに関しては思い通りではないらしい。

 先ほど、彼女の肉を切ってあげていた男の子もいれば大工の話を聞いていた女の子も手を挙げている。とはいえ、この院にいて小さい子の面倒を見てもらう手も必要だから。


「クヌート、頼みがある」

「……どんな感じの人数にします?」


 連れていくつもりでも全員は無理だ、とか、そのあたりを細かく言わなくても察してくれるのは助かる。最終的には、年中組から男の子と女の子を一人ずつ連れていくことにした。


 年長組は男の子一人が残る形だが、その子は年下の面倒見はいいと、ニコ、クヌートのお墨付きだ。やんちゃな男の子でもよく言うことを聞くとかなんとか。

 というわけで、院には年長1人、年中が4人、年少2人の計7人。


 迷宮の見学が大工組4人、シレノワ、俺とニコ、クヌート、年中が2人で10人。

 大工とシレノワは自分の分の用意を……つまりは水筒なり行動食なりは持っていたのでこちらは、こちらの分の用意だけを済ませる。済ませるとは言っても、昨日のうちに準備していたものの確認と装備だけだ。


 そんな時にリノが作ったという腰に回すタイプのポシェットは非常に便利だ。様々な体格のものがいるからか今あるものは結構遊びがあるが、体により密着するように作ってくれれば戦闘の動きを妨げる事もなくなるだろう。


(これはこれで売り物になるのでは……)


 そう思ったが、類似品はあるだろう。この辺りは、本人やシノリ、場合によってはゼセウスと詰めるとしよう。とりあえず、用意を済ませる。


「じゃ、行こうか」


 俺がニコに支えられて立ち上がり二人で歩くと、なんとも言えない視線を向けられた。


――なんだよ。

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