破滅の光ー5

  ―――魔導砲発射前。


  飛山と別れた俺達は大きく開けた屋上へと辿り着いた。

 ドーム型の屋根の開けた先は硝子越しに夜空が広がっている。

 そして何よりも空間の半分以上を占め存在感を放つ大きな大砲が機関車みたいな物音を立てている。

  これが魔導兵器か。こんな物騒な物があれば確かに一掃できるだろうな。

 魔導兵器の付近に疲れ切って座り込んでいるエルフ達が見える。

 彼らもまた魔力を全て吸い取られてしまったのだろう。


「お前達、どこから入って来た!?」

 背後から現れ、俺達の侵入に気づいた兵士が声を荒げる。

「04め…これだから子供は使えない」

  不満を漏らしつつも兵士達は俺達二人を囲む。

 兵士の数は五人、か。特殊な武器は持っていなさそうだ。

「捕らえろ!!」

  隊長格と思われる男の掛け声で一斉に襲い掛かって来た。

 ところが動きは遅く、力は一般人と大差ない。戦闘能力自体がそこまで高くない。

 恐らく訓練が大してなされていない急造の兵士なのだろう。

 これなら軍事養成学校の生徒であれば誰でも対抗できる。

  難なく俺一人で兵士達を負かし、今度はこちらを恐る恐る覗き見ている視線に標的を合わせる。

 目が合えば男は小さく悲鳴を上げた。

 素早く詰め寄れば、弾みで何か落とした。

「しまった…!」

  間抜けこの上ない。

 魔導兵器の影に隠れていた研究員はエルフ達を縛り付ける首輪の鍵を所持していた。

「鴻!」

  首輪の鍵を奪い、エルフ達の傍に向かっていた鴻へ投げる。

 何も言わずとも俺の意図を理解したのだろう、鴻は鍵を受け取ると周囲のエルフ達の鍵を解錠していく。


「おい、早くこいつを止めろ!」

 俺はそのまま研究員の胸倉を掴んで脅す。 

「無理だ!魔導砲の操作は管制室で行っている。ここでは魔力の充填しかできない」

「くそっ!」

  予想していなかった訳ではないが、今も目の前でエネルギーを集約しているのが見えている兵器を止める術がないのはもどかしい。

 こうなると管制室に向かった飛山を信じるしかない。

  けれど止まるどころか、魔導砲はみるみる音を上げていく。

 そして機械音声で無情なアナウンスが聞こえる。


『魔導砲発射カウントダウンに入ります。魔導砲周囲は危険です、速やかに退避してください。カウントスタート。発射まで、10、9――』


  まずい、飛山任せにしている場合ではない。

 他に魔導砲を停止させる方法はないのか。

  発射が防げないならせめて、方向をずらすくらいはできないのだろうか。

 砲台に飛び乗り、力任せに砲身を斬りつけるがやはり人一人の力じゃ動かすどころかびくともしない。

  屋上の硝子窓が開かれ、生温い外気が入り込んでくる。

 開かれた空へ魔導砲は狙いを定めている。

 このまま砲撃を見送るしかできないのか。


『風よ、汝の怒りを集約し巨大な渦となりてつるぎに力を与えよ!』

  詠唱の詩が聞こえたかと思うと俺の持つ大剣が風に包まれ、やがて音を立て始めみるみると大きくなる。

 力強い風に気を抜けば剣が手から離れ飛んで行ってしまいそうだ。 

  魔法の詠唱者は特に人間を嫌っていた佳祐の祖母、レナスさんだった。

 両手でしっかりと大剣を握り、構える。

「小僧、そのまま薙ぎ払え!」

「うおおおおおおおおおお!!」

  俺は風の大剣を力の限り薙ぎ払った。

 すると更に威力を上げた疾風は剣から離れ、竜巻のようにうねりを上げ大砲に襲い掛かった。


  風圧に押され大砲は向きを少し変え、巨大な赤い光線を発射させた。

 轟音で全身が震え、凄まじい勢いで体勢は崩され壁まで吹き飛ばされる。

 大砲から放たれた光線のあまりの眩しさに目も開けられない。

 明るさが落ち着き、音が止むと辺りは静まり返った。

 

  どうなったんだ…。

 事態を把握するより先に次なる来訪者が現れる。

 動きを止めた魔導砲の音も無く、静寂な空間に靴音が嫌に響いた。

 歩んで来る赤い髪の男が絶望を宣告しに来たかのように見えた。

 今度はフードで顔を隠していないがコートや動きからしてこいつは間違いなく俺達をティオールから連れ去った銃の男だ。

  友好的な空気はまるで感じられない。俺達を始末しに来たのだろうか。

 俺は真っ先に動き出し斬りかかって男を牽制し距離を取らせる。

「転移魔法は使えますか!?」

  先程魔法で手助けしてくれたレナスさんに望みを賭けて訊ねる。

「ああ…しかし今の魔力ではここに捕まっている全員は無理だ。数人が限度だろう」 

「充分です。この場にいる皆さんだけで脱出してください!鴻、お前も一緒に行って状況を伝えろ!」

  この様子じゃカルツソッド側の増援も時間の問題だろう。

 ならば今逃がせる人だけでも逃がすのが優先だ。

 すかさず男は銃を使って後ろで輪になって詠唱を始めたエルフ達を封じようとしているがそうはさせない。

 俺は隙を与えないように攻撃し続け、エルフ達に向かった流れ弾は鴻が弾き落としていた。

「待ってください!それじゃあ風祭先輩や他のエルフ達は…」

「今お前達が残っても全員捕まるのがオチだ。皆さんをきちんと保護して魔導兵器の存在を説明しろ!」


  正直、魔導砲が発射されてしまった以上、アルセアがどうなっているか想像もつかない。

 方向をずらせたとはいえ無傷ではない筈だ。

 国はどのような状態に陥っているか。防戦に徹するのか、はたまた――。

  どちらにしてもこちらに救援を望めない可能性だってある。

 それでもここで全員が捕まってしまう選択はない。


「…分かりました。必ず助けに戻ってきます!」

  三人のエルフ達は輪唱して転移魔法を発動した。

 そして鴻を含めた四人は光の粒子となって消えた。

  男は何故だか険しい表情を浮かべながらもどこか安堵した様子で光を見送っていた。

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