破滅の光ー4
風祭先輩と鴻は魔導兵器に魔力を注いでいるエルフ達の救出と首輪の鍵を奪取する為に屋上へ。
俺は二人と別れ魔導兵器を遠隔操作しているという同じ階層の管制室へと向かった。
少女からの攻撃をもろに受けた俺を心配して単独は自分がすると風祭先輩が言ってくれたが俺は断った。
その場に居合わせたエルフ数人がなけなしの魔力で俺の傷口を塞いでくれたし、エルフ達と上手く合流できれば脱出できる可能性がある。
最悪、俺はここに残ろうと構わない。
俺の意志はしっかりと二人が受け継いでくれる。そう考えていたからだ。
予想通り管制室には白衣姿の研究員らしき人物が二人居た。
あいつら位なら手負いの自分でも充分抑え込めるだろう。
「今すぐあの大砲を止めろ!」
ガラス窓越しに見える巨大な大砲を指し、剣を向ければ一人は情けない悲鳴を上げた。
しかし漆黒の髪をした一人は見極めようとしているのか冷酷な目で俺を見据えた。
「04はどうした?!あの子供は侵入者の排除もできないのか!」
完全に狼狽えている研究員は声を震わせながら怒鳴っていた。
彼らの背にある大画面には世界地図が映し出され、カルツソッドからアルセアに向かって大きな矢印が伸びていた。
恐らく砲撃の進行方向を示しているのだろう。
直線状に伸びた矢印は海を越えて大陸を横断し、方角が首都はおろかアルセアの中心部分全てが攻撃対象になっている。
地図の横には魔導砲発射カウントダウンなる数字が動いているのが見える。
どうにかして発射を止める方法はないのか!?
「早く止めろ!止めなければ…!」
俺は兵器を止めることに必死でいつの間にか背後に現れていた人物に銃を突きつけられるまで気配に気が付かなかった。
銃口の冷たさが後頭部から伝わってくる。
「動くな」
「…なんでだよ。なんでお前が人を傷つけるようなことするんだよ、レツ!!」
「いいところに戻って来た、02。そいつを始末しろ!」
研究員の言葉に応えるようにレツは俺を地べたに抑えつけ銃口をこめかみに突きつけた。
レツ、お前はもうあいつらの言いなりなんだな。
あの頃の面影がまるでない機械みたいなレツに悲しさが襲う。
「俺ことなんか忘れちゃったのか…?」
レツは何も答えてはくれないが、僅かに俺を抑えつける力が緩んだ。
「お前に助けられた命だ。レツに殺されるなら構わない。だけど関係ない人間まで巻き込むな。俺達が恨んでいたのはアルセアの人達か?違うだろ!これ以上犠牲を増やさないでくれ!」
少しでも良心が残っていると賭けて説得を試みる。
レツの動きは止まり、何か考えているようだった。
「もう遅い。魔導砲のカウントダウンは始まっている、誰にも止められやしない!早くそいつを殺せ!」
「レツ!!」
止めてくれ。俺の生まれ故郷はカルツソッドだ。
だけど、アルセアは失いかけていた人としての豊かさを俺に思い出させてくれた。
第二の故郷とも呼べる場所。恩人であり父と呼べる人も馬鹿みたいに話せる友人も居る。
決して失いたくはない。
人形みたいに表情を変えなかったレツに初めて苦悩の色が見えた。
まだ残っている。昔のままのレツの心が。
別人のように変わってしまったかと思ったけど違う。
ちゃんとレツは俺を覚えていてくれている。
「放してくれよ!これ以上、俺から大切な仲間を奪わないでくれ!!」
俺の言葉に明確な反応を示した瞬間、レツの力が抜けた。
すぐにレツの手から抜け出し操作するパネルへ駆け出す。
必死に起動を止めるボタンを探すが見つからない。
魔導砲発射のカウントダウンの機械音は残り5を告げる。
同時に首筋に針を刺されたみたいな小さな痛みを感じた。
痛みの正体を突き止めるよりも先に意識が薄れていく。
後ろを振り返ればずっと平静を保っていた白衣の男が銃をホルダーに収めていた、麻酔銃か。
立っていることも出来なくなり俺はその場で倒れ込む。
「烈、お前が躊躇うなんて珍しいな」
「…すみません、博士」
レツは博士と呼んだ男に詫びると俺を悲しそうに見下ろしていた。
遠くで轟音が聞こえる。魔導砲が発射されたんだ。
止められなかった。俺のせいでアルセアが、皆が消えてしまった。
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