一人じゃないー7
困ってしまった。
再び公園の中心部に戻ったのはいいのだけど、誰一人先輩を見つけられない。
アルフィードの生徒は多くいるのに、最も迷惑をかけた代表選手の先輩達がどこにもいない。
選手の人達はどこか別の場所に居るのだろうか。
でも他校の選手はちらほら見かけるし…単純に私の探し方が下手なのだろう。
どうしても居場所を突き止めたいのならば電話を掛けるという手段がある。
だけど、どうにも相手の顔色が窺えない電話というものが苦手で緊張してしまうのだ。
もっぱら電話は受けるしか使わず、自ら掛けた回数は数えるほどしかない。
すっかり宴も残り半分の時間が過ぎている。
このまま会えなければ、明日になってしまう。迷っている場合じゃないかな。
取り出した携帯端末とにらめっこする。
さて、次の問題だ。一体誰に掛ければいい。
直接会わなければならない先輩は多いけど、全員に掛けている時間はないし、番号まで知らない。
私が登録している人の番号はかなり限られている。
同じ種目に出場した先輩達の番号は連絡用にと教えてもらった。
……風祭先輩かな。
悠真君を頼りたくなったが、あの人は忙しく繋がりにくいし折り返しになることが多い。
そうなると残りは月舘先輩、常陸先輩、空閑先輩なのだけど。
一番最初に顔が浮かんだのは風祭先輩だった。
後は画面をタップすれば発信、その状態で私は躊躇った。
ただ電話してどこに居るか聞くだけなのに。どうして不安になるんだ。
ええい、臆病になるのは止めるんだってば!
「やっと見つけた!」
「へ!?わっあの!?」
「付いて来てくれ!」
意を決して指が画面に触れようとした時、人混みをかき分けて突如現れたマリクさんに手首を掴まれすぐさま引っ張られる。
マリクさんはどんどんと進み会場となっている公園エリアから離れていく。
「ど、どこへ行くんですか?」
「着いてからのお楽しみさ!」
まずい。このままでは先輩の誰一人に謝罪をできず今日が終わってしまう。
流されやすいのは私の悪い癖だと理央ちゃんにも言われた。ここは断らなきゃ。
「マリクさん!ごめんなさい、私用事がありまして…」
「おや、そうなのか。誰にだい?」
「…えっと…先輩方に」
「それはアルフィード代表選手の先輩かい?」
「え、ええ。なので…」
「ならば問題ない!」
するとマリクさんは私の手を引いたまま、また歩き出してしまう。
あれ、通じてない?私の言い方が悪いのかな。
はっきり訂正しなくてはと思っている間に海岸に辿り着く。
そこには大きな飛空艇が停泊していた。
あれはたしか体育祭が始まる前に見たバルドラ学園の物だ。
迷わずマリクさんは飛空艇に向かって行く、この流れは間違いなく飛空艇に乗せられてしまう。
「待ってください、私謝りに行かなければならないんです!」
私が立ち止まるとようやくマリクさんも歩みを止めてくれる。
「謝る?どうして?」
「それは私が、先輩達に迷惑をかけてしまったからで…」
「ふむ…謝罪は必要ないのだけどな…話通りプラスよりマイナスを気にする頑固な子だね。ではこちらも強引に分からせてあげるしかない」
マリクさんは私の携帯端末を素早く取り上げ画面を二度タップした。
携帯端末は一定時間操作をしなかったので画面が暗くなっているけれど、番号表示の状態で止まっている。
一度のタップで起動し画面が点灯、二度目のタップは何かの操作を決定したということだ。
ということは…呼び出し音が鳴り出し予感はすぐに現実となる。
「返して下さ…ひゃああ!?」
勝手に電話を掛けられてしまったことに動揺してしまい、その隙にマリクさんは器用に私を抱き上げて走り出す。
「お、降ろしてください!!」
「ははは、ほら電話は返すよ」
「だから私は先輩達に謝りに行かなきゃいけないんです、降ろしてください!!」
私は必死に抗議しているのに気にせずマリクさんは楽しそうに笑っている。
『…もしもし?千沙ちゃん、大丈夫?』
手渡された携帯端末を握り締めていたら風祭先輩の声が聞こえた。
しまった、繋がる前に切ればよかった。
「あ、えっと、ごめんなさい!後で掛け直します!」
「その必要はないさ!君達の姫はもうすぐご到着だ!」
マリクさんは飛空艇へと続く階段を駆け上がり最後の段を勢いよく踏切りジャンプする。
降りるタイミングをすっかり逃した私は落ちないようにマリクさんに掴まる。
着地と同時に多くの破裂音が聞こえ驚いて目を瞑ってしまう。
飛空艇の甲板には多くの人が集まっていた。それも私の見知った人ばかり。
そして音の正体は皆が手に持つクラッカーだった。
『お疲れさま!!』
一斉に発せられた労いの言葉に私は戸惑ってしまう。
「あの…一体これは…?」
状況が全く飲み込めない。
食事を楽しんでいる筈の理央ちゃん達や古屋君に飛山君、鷹取君、笠原君。
それにバルドラ学園の人達、ずっと探していた先輩達まで居る。
クラッカーと言えばお祝いごとに使う物だ。それを皆して私に向けている。
何がめでたいのだろう。まるで分からない。
「これは君の快気を喜び、頑張りや成果を褒め讃えよう!という集まりだ。簡単に言えばお疲れさま会だ!」
「そんな私は迷惑しか…」
発言を止めるようにマリクさんは人差し指を私の唇に当てた。
「言っただろう。謝罪は必要ない。ここに集まった者は一人として君の謝罪を求めてはいない。求めているのは君の笑った顔だ。そして君が伝えるべき言葉はたったひとつで充分、分かるだろう?」
多くの人が私に注目しているのが恥ずかしかったけど、怒っている人は誰も居なかった。
申し訳なくなる程に大勢の人の優しさに包まれて涙が出そうになるのを堪える。
「……あの…ありがとうございます」
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