それぞれの戦い方ー4
『千沙が相手陣営を発見、尚も飛山と混戦状態。助太刀は期待できそうにないけど大丈夫?』
「わかりました。大丈夫、私は自分の務めを果たすだけですわ」
先程からこちらを窺っている人が一人。恐らく古屋さんでしょう。
彼が私の気づく位置に居るということは鷹取さんが狙撃可能な位置についたとみていい。
鈴音が察知できない距離からも狙撃を行える鷹取さんの狙撃技術は脅威。
私も理央さんも彼がどこに潜んでいるかを察知できる範囲内ではない。
やはり鷹取さんはお得意のライフル銃を使用。古屋さんはハンドガン。
どちらかを探しに動けばどちらかに無防備な自陣の旗を取られてしまいます。
お二人とも銃ですし近距離戦に持ち込めれば勝てる自信はあるのですが、どうしたものでしょう。
悩みつつも待っていると木陰から古屋さんが姿を現し、銃を構えることもせずにこちらに向かってただ歩いてきた。
「…私には鈴音と同じ手は通じませんよ?」
どのようにして鈴音が撃破されたかは理央さんから通信で聞かされていたので、彼がどんなに無防備だろうと鷹取さんの気配が未だに察知できなかろうと油断は致しません。
古屋さんの表情は緊張で強張っており、これから実行に移す作戦を上手く遂行できるかを不安に思っているのがよく分かりました。
やはり古屋さんはあまり演技がお上手ではなさそうですね。
そこが彼の人の好さなのかもしれませんが。
さて、どう攻めてくるでしょうか。
一歩、一歩と古屋さんはこちらに近づいてくる。
至近距離でもない限り銃の経験が浅いあなたの銃弾は全て防げます。
あと一歩。彼がこちらに踏み込んだら攻撃をしかけようと思ったタイミングだった。
光弾が古屋さんの頬すれすれを通り抜け私のライフサークル目掛けて飛んできた。
すかさず光弾を弾き飛ばすと、その一撃が合図だったのか古屋さんは一気に走り出した。
古屋さんを止めようと身構えれば今度は鷹取さんが銃を乱射してきた。
恐らくこの乱射の間に旗を取る作戦でしょうが、そんな威嚇で乱発している銃撃は当たりません。
突進してきた古屋さんの手首を掴み捻り上げて前に立たせる形で抑え込む。
彼の痛みに耐える呻きが聞こえましたが今は構っている暇はありません。
すると仲間を撃たないように銃撃はぴたりと止んだ。
ここで古屋さんを撃破してもよかったのですが、相手はまだ私のライフサークルを狙ってくるはず。
しかし彼が生きている間は無暗に撃ってくることもない。
ならば古屋さんには少し盾になっていただきましょう。
私が旗を守りきるというのは決してお二人を撃破することだけではありません。
お二人を足止めするのも守る手段のひとつ。
千沙さんが旗を奪取するまで私はその時間稼ぎができればいいのです。
銃撃が止んで間もなく銃が放たれていた方向から鷹取さんが現れ、両手を上げてこちらに向かって歩んできた。
「どうされたのですか?ライフルを目で見える場所から撃たれれば必ず避けられますわ。それに、私は躊躇わずにあなたの仲間を盾にします」
「いやいや。俺だって銃には自信あるけど、こんな姿丸出しで当たるなんて思っちゃいないよ」
あろうことか鷹取さんはライフル銃を手放した。
一体何を考えているのでしょう。
まさか素手で私に勝負を挑もうとしているのでしょうか。
潜み続ければ狙撃のチャンスはまだあったでしょうに。
「ではどういったご用件でしょうか?わざわざ姿まで見せてただやられに来たわけではないでしょう」
「もちろん。負ける気はないぜ」
耳の端に微かなサラサラと何かが崩れ次第に大きくなる音を捉えた。
旗は膝の高さにも満たない土で作られた山に支えられている、決して頑丈な作りではない。
先ほどの乱射はこれが狙いでしたか。
銃撃で山は崩れ旗がバランスを保てなくなり倒れ始めていた。
旗が倒れようが直接相手が手にしなくては勝敗に影響は一切ない。
けれど私が気を取られてしまった僅かな隙を鷹取さんは見逃さなかった。
目の前に放り捨てたライフルを前方へ蹴り飛ばし、腰に装着していたハンドガンで鮮やかな早撃ちを繰り出してきた。
なるほど、古屋さんは自分のハンドガンを鷹取さんに託していたのですね。
鷹取さんの動きを予め把握していたようで、銃撃とほぼ同時に古屋さんは力いっぱい私から逃れようともがき始める。
放たれた二発の光弾は私の動きを封じるように両頬すれすれで通り抜ける。
一瞬力が緩んでしまい、私は古屋さんを手放してしまう。
転がりこみつつライフル銃を手にした古屋さんは続け様に私のライフサークルに向けて光弾を放ってきた。
素早い連携に迷いのない動き。
私と古屋さんの距離は1m未満。ですが、彼を手放してしまった以上撃たれる予測は出来ています。当てさせはしない。
腕に仕込んでいた短剣を取り出しライフル銃から放たれた光弾を弾く。
防がれるのを読んでいたのか次は私の足目掛けて片手銃の光弾が飛んできた。
それをジャンプで避け、身体を捻らせ自分のライフサークルを庇いつつ短剣を鷹取さんのライフサークルに目掛けて投げつける。
この距離なら決して外しはしない。
私の動きを見て鷹取さんは短剣を必ず避けるか防ぐ選択をすると思ったのですが、彼は銃を真っ直ぐに構え、私のライフサークルにのみ狙いを定めていた。
相撃ち覚悟でしたか。私と鷹取さんのライフサークルがほぼ同時に破裂する。
そしてライフルを撃ち込んだ後、即座に走り出していた古屋さんが私達の陣営の旗を滑り込む形で手にし、試合終了のブザーが鳴り響いた。
冷静さを保て、寸分の狂いなく狙い通りに銃を撃ち込め、遠距離からの狙撃も近距離の早撃ちも遜色なくこなす圧倒的な技量。
身を以て鷹取さんの銃のセンスを体感させられました。
アルセアは古くから体術や剣術など近距離の武術が主流となっている。
そもそも世界中探しても銃を扱う人間は多くない、技能ある者は希少だ。
「お噂は伺っていましたが、鷹取さんは本当に素晴らしい銃の腕前をお持ちですね」
「いやいや、今回勝てたのは勇太の作戦のおかげだからさ…勇太ー勝ったぞー」
旗を掴み上げ、茫然と旗を見上げていた古屋さんはまだ勝ちを実感できずにいたのか、こちらに振り返って目をぱちくりと瞬きさせていた。
「あ…うん、僕らの勝ち…で、いいんだよね?」
「お前が今手に持ってるのが証明だろ。自信持てよ!」
「そうですわ。おめでとうございます、古屋さん」
「ありがとう…でも勝てたのは飛山君と鷹取君がすごかったからで…僕は何も…」
「何言ってんだよ、勇太の作戦勝ちじゃないか。ちゃんと南条抑えて旗取れただろ」
「でも僕すぐ南条さんに捕まったし、本当だったら注意を逸らして鷹取君が狙撃で南条さんを撃ち取るのが理想だったのに」
「ちゃんと捕まった後の作戦も立ててそれが成功したんだから、もうちっと胸張れよ!」
「鷹取君の腕前があればこそ成功する作戦で、僕は特に役に立ってはないよ…」
「そのネガティブ思考やめようぜ。勇太が居たことで選択肢が増えたし、連携で攻めてそれがきちんと結果として出た。もっと堂々としろ、俺達代表なんだからな!」
鷹取さんは古屋さんを鼓舞していたが、それでも古屋さんの眉は下がったままだった。
古屋さんもなかなか頑固な方ですね。
「では、鷹取さんの腕前と古屋さんの仲間への信頼が勝ちに繋がった。それで納得できないですか?古屋さんの強い信頼があったからこそ作戦が立ち、鷹取さんや飛山さんは安心して行動に移せた訳ですし」
するとようやく古屋さんはぎこちなく笑った。
「もちろん私も作戦がよかったと思います。それに全て作戦通りに行くことなんて少ないですわ。大切なのは臨機応変です。お二人とも息の合った動きでしたし、私達の負けです」
試合に負けてしまったのは残念ですが、とても楽しい時間を過ごせました。
こうして友達と真剣に競い合うというのは良いものですね。
*
試合終了のブザーが鳴り響き、実況が飛山君達のチームの勝利を告げた。
私は間に合わなかったのか。悔しいけど仕方ない。
まだ息が整わなかったけど飛山君に「おめでとう」と一言伝える。
生身でここまで動き回ったのは久しぶりだ。
動きを止めてようやく呼吸の浅さと身体に伝う汗を実感した。
同じく息が上がっていた飛山君は不満そうに旗を持つ私の手を睨んだ。
「全然勝った気がしない」
視線の理由に気づき私は笑って誤魔化す。
「でも負けたのは私達だし…優勝は飛山君のチームだよ」
「試合に勝って、勝負に負けた。俺が嫌いなパターンだ」
機嫌を損ねた子供みたいにそっぽを向く飛山君。彼もなかなかの負けず嫌いだ。
競り合ってようやく手にした相手陣営の旗ではあったけど、私は手にするのが遅かったみたいだ。負けは負けである。
けれど、飛山君は私との一対一の勝負に勝ちたかったのだろう。
きっと私に自分のライフサークルを撃破されてチームが勝つなり、自分が旗を守り切って勝つなりすれば悔しさはあるもののチームの勝ちを素直に受け入れられたのかもしれない。
一対一の決着に白黒もつかず、おまけに旗を取られるという数秒違えばチームとしての敗北を決定づけられた事態が勝利と言われても納得できないのだろう。
私からすれば数秒差とはいえ結果的に飛山君は旗を守り切れたのだから、チームとしても個人としても負けた気分なのだけど。
どうやら飛山君にとっては満足のいく勝ちではないみたい。
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