それぞれの戦い方ー3


『鈴音がやられた』

 理央ちゃんの短い報告に耳を疑う。

 私は未だに飛山君との戦いを決着できずに剣の打ち合い真っ最中だ。

『鷹取と古屋は旗に向かってると思う。向こうさんもエースの相手はエースに任せるみたいね』

 鈴音ちゃんが戦闘不能になり、理央ちゃんの視界は私と麻子さんの直径3kmしか見えていない。

 よって古屋君と鷹取君の姿を見失う形になった。

 だったら尚更この戦いを早く終わらせなければ。

「おい、上の空になってるぜ!」

「っ!」

  飛山君の強撃に一歩後退る。

 私がここで飛山君に負けてしまえば、試合も負けてしまうだろう。

 けど飛山君との戦いを短時間で終わらせる勝ち筋が見えない。

 焦りは判断を鈍らせる。分かってはいるのだけれど。

『旗は任せてください。お二人相手でも守り切ってみせますわ。だから千沙さんは飛山さんに集中してくださいな』

  麻子さんの声からは焦りも不安も感じられず、落ち着いていて頼もしかった。

 そうだ、私は初めから攻め込むことを任されていたじゃないか。

 私が攻撃を躊躇してどうする。

「分かった、自陣の旗は任せます!」

『任されました』

 いつもと変わらぬ穏やかなトーンに後押しされ攻撃に集中する。

 飛山君の攻撃を避け切り、速度重視で飛山君の顔目掛けて私が出せる最高速の突きを放つ。

 もちろん避けられたが軽く怯んだようで、その隙を見逃さずに一目散に走り出す。

 そして手ごろな木を見つけ一気に駆け上がり、木から木へと飛び移る。

「…猿かよ…」

 飛山君は木の下で呆然としていたが、そんなことに構っている暇はない。

 私は全速力で移動を続ける。

『千沙!?どうする気?』

「先に旗を取る!」

『相手陣営の場所はまだ特定できてないのよ?』 

「それは相手もまだ同じはず。それに理央ちゃんが言ったんだよ。最悪私が先に旗を取れば勝てるって」

『そうだけど、飛山が千沙を無視してこちらの旗を取りに向かったらどうするの!?さすがの麻子さんだって三対一は無理でしょ!』

「飛山君達が旗を取るより先に私が旗を取る!」

  理央ちゃんの大きなため息と麻子さんの楽しそうな笑い声が重なって聞こえた。

 そこから二人とも私を止めようとはしなかった。


  飛山君が私を追うのを止めない自信があった。

 彼は勝負を逃げるということが嫌いなようだ。

 だから必ず私との決着をつけたがる。

 古屋君も鷹取君も攻めに向かっているなら今相手陣営は無人のはず。

 飛山君さえ振り切れればチャンスでもある。

 あとは相手陣営をどれだけ早く見つけられるかにかかっているんだけど。

  ずっと私の後ろを付けていた飛山君が追いかけるのを止め方向転換した。

 彼の向かった先を見れば視界の片隅に森にそぐわない青色を捉える。

 見つけた!私は木を飛び降り旗に真っすぐ向かう。

「させるかよ!」

  私が自陣の守りではなく旗の奪取を選んだのは分っていたのだろう。

 先回りした飛山君は私を迎え打つ体勢だ。

  今は飛山君に勝つことが目的ではない、旗を取るんだ。

 攻撃をひたすら避け、旗へと近づこうと試みる。

 しかし、あと少しの所で旗に手が届かない。

    

     *


  北里さんを撃破した後、鷹取君と二手に分かれて相手陣営を捜索し、僕が先に見つけ通信機能で伝達。

 鷹取君が狙撃ポイントに着くまで南条さん攻略の作戦を話し合っていたのだが、やはりまとまらない。

『南条って今回の使用武器は何だろうな』

「そこなんだよね…旗取り合戦は武器を各自一種類持ち込めるんだから持ち込まない選択はないと思うけど…」

  南条さんは体術が得意で武器を使う姿を見たことがない。

 話を聞く限りでも戦闘スタイルは受け身のカウンターが多い。

 今回のトーナメント戦においても南条さんだけ武器を一度も使用しておらず、データ不足で予測も付けづらい。

『あいつも銃だとか言い始めないよな?』

  旗取り合戦における遠距離攻撃の主流武器は銃になる。

 デジタルフロンティアと違い生身で戦う旗取り合戦では銃は全て実弾ではなく人体被害の抑えられた光弾を使う銃となっている。

 弾数が多いのでチーム内の一人が銃を使うのは定番の構成とはいえる。僕らも準決勝まではその構成だった。

 けれど今回僕らは銃使用者を二人にしたし、北里さんも普段使わない片手銃を使用してきた。

 そうなると彼女が銃を使用する可能性は少なくはない。

「でも強気な南条さんが銃を選んでいたなら最初二人と一緒に攻めに来た気がする。それで北里さんと対峙している時に僕は撃たれていたんじゃないかな」

  あちらのチームは天沢さんに絶大な信頼がある。

 飛山君の相手を天沢さんに任す選択をするだろうし僕らも飛山君に天沢さんを任せている。

 だとするならば、狙撃の名手と言われる鷹取君は近くには攻めてこないと推測し、真っ先に僕を二人掛かりで潰すだろう。

 その後に二人で鷹取君か敵陣営を探し出すなり、どちらかが自陣に戻るなり選択肢が広がる。

「きっと南条さんは鷹取君に自分が狙撃されるのを一番警戒している。そしてそれを警戒し過ぎて僕に旗を取られる可能性も考えている」

『俺自身が真っ先に旗を取りに行く、勇太が南条を撃破する。この二つはないと思われてる?』

「南条さんのことだから全ての可能性を考慮はしているとは思うけど、可能性としては極めて低いと考えているんじゃないかな」

『だろうな。あのお嬢様はどうにも食えないからな…不意打ち狙って二人で旗取りに突っ込むか?』

「さすがにそれは無謀なんじゃないかな…鷹取君、近距離自信あるの?」

  冗談めかした鷹取君の案に僕は気の利いた冗談で返す余裕なんてない。

 鷹取君の身体能力は並より上だけど、それだって三人全員が体術を得意としている彼女達には及ばない。僕の戦闘能力は論外だ。

 そんな二人で武術の名家である南条さん相手では近距離戦など少しの時間の足止めが精一杯だろう。

『相手が普通の女の子ならなー…それか片手銃があれば近距離でもやりようはあるけど。二丁持ち込めればな』

 …そうか、その手もあるのか。

 最初は否定したけど、未知数の相手に正攻法で攻めても勝算は低い。

 先程のように僕が囮になって鷹取君が狙撃する方法が可能性はあるけど、南条さんにはもうその手はきかないだろう。

  なら奇策に打って出てもいいのではないか。

 北里さんに対しての作戦はある程度推測ができた上での提案だったが、今度は相手がどうでるか予測不能で下手すれば僕らは両方撃破されるので反対されるかもしれない。

 そう思いはしたが僕はひとつの賭けを提案した。

 すると鷹取君は「面白そうだ、やろうぜ」とすぐに返答してくれた。

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