それぞれの戦い方ー5
試合の余韻もそこそこに、係員に退出を促される。
すぐ2年生の代表決定戦が始まるからだ。
退出した先の廊下には既にチーム全員が集まっていた。
「ごめんなさい、旗取るのに手間取って」
二人が信じてくれたのに飛山君を撃破するどころか旗も取れなかった。
飛山君との勝負に負けた悔しさよりもそちらが私にとって申し訳なかった。
「私のほうこそ、ごめんなさい。自陣を守りきれませんでしたわ」
「そんな、お二人はご立派でした。元はといえば私が最初に撃ち取られてしまったのが敗因です。申し訳ありません」
「いい試合だったし惜しかったよ。あえて敗因をあげるなら私らは個々の力に頼り過ぎたかもね」
「そうですわね。チームでしたのに細かい連携はあまりできなかったですものね…負けてしまいましたけど、とても楽しかったですわ」
「うん、皆で試合に挑むのは楽しかった」
「今度はもっと連携を意識したスタイルで戦いたいですわね。ぜひ来年も出ましょう」
負けたことはたしかに悔しかったけど、精一杯戦った達成感もあり、試合の後を前向きに居られたのは皆のおかげだ。
私達全員は早くもリベンジに燃えていた。
一方、横の飛山君達は優勝を果たしたはずなのに喜びを分かち合うというよりは、消化不良だの、あそこは失敗しただのと健闘を讃え合うこともせず感想や反省を言い合えば、早くも改善点やより良い戦術を編み出そうと話し合いに入っていた。
勝ちにこだわるすごいチームだ。
きっと彼らなら体育祭でもいい試合を見せてくれる。
微笑ましくも少し様子を見ていたら、いつの間にかこちらも連携の提案を始めていて、性格はバラバラなのにやっぱり皆勝負事が好きなのだなーと思う。
壁に取り付けられている画面に2年生の部の決勝戦が映し出されると、そのまま映像を見つつ討論が行われる。
先輩達のほうが連携の技術は数段上で、様々な攻撃手段が次々と繰り出され、味方へのフォローの手際の良さを見るのは参考になった。
班行動で任務に出たりもするけど、やはり咄嗟の行動は個々で動いてしまいがちだ。
たった一言や目配せ、仲間の動きに合わせて連携攻撃を決められるのは長い付き合いで得た勘や合わせる技術と経験が物を言うのだろうな。
試合は強気に三人一斉で攻めの姿勢に出たチームが勝ちを決めた。
「やっぱり会長チームが勝つかー」
代表に決まったのは優勝最有力候補と言われていた生徒会長である悠真君が率いるチームだ。
この結果に驚いた人など誰もいないだろう。
今回、優勝を決めたチームメンバーを一通り映し、興奮醒めぬ前に体育祭の代表選手の発表を行う特設ステージの中継映像に変わる。
カフェテリアに作られた特設の舞台に体育祭の広報委員として紹介された花宮先輩が登壇する。
画面越しからでもカフェテリアに居るまだ詳細を知らない生徒達が歓声に溢れかえっていたのがざわめきに変わったのが分かる。
『今年も大盛り上がりの中、旗取り合戦の代表選手が決まりましたね。花宮さん、いかがでしたか?』
『そうですね、1年生2年生共に良い試合ばかりでした。今年も実力のある生徒が代表の座を勝ち取ったと思います。優勝し代表選手となったチームの皆さんには体育祭での活躍も期待しています』
特設舞台での司会を務める生徒に話題を振られると花宮先輩は慣れた様子で答えていく。
『昨年の旗取り合戦、我が校は1年生が優勝、2年生が惜しくも3位という結果でしたね』
『ええ。けれど今年は二学年とも優勝を勝ち取りますよ。もちろん総合優勝も狙っています』
『総合優勝…!ここ近年、総合はルイフォーリアム学院が連覇しています。今年は期待充分と…?』
『今年の選手は大変優秀な生徒ばかりです。必ず成し遂げてくれますよ』
『大いに楽しみですね!それでは…いよいよ、気になる今年の体育祭各競技の代表選手の発表に参りましょうか』
花宮先輩が携帯端末をおもむろに取り出すと生徒や観客達は自然と静まり返る。
先ほどまで旗取り合戦代表決定戦を映し出していた大画面に予め用意されていた選手紹介用映像が流れ出す。
『まず、飛行演舞の代表選手発表です――』
映像には名前を読み上げられ、代表に選ばれた生徒の写真が順に映し出され、私でも分かるような有名な2年生達が名を連ねていった。
やはり1年生が選ばれることは早々ないのだな。とどこか他人事のように発表を聞いていた。しかしすぐに他人事ではいられなくなる。
『続いてはW3Aリレーレースの代表選手です。2年風祭将吾、2年月舘佳祐、2年常陸龍一、1年天沢千沙。以上四名です』
ゆっくりと明瞭に名前を読み上げる花宮先輩の言葉に自分の耳を疑った。
けれど映像には自分の写真が大きく映っている。耳も目も異常は無いはずだ。
私は心底驚いているのだけど、一緒に映像を眺める皆は「おめでとう」「やっぱり出てきたな」「頑張って」など驚きの色ひとつなく、応援してくる。
それでも私はやっぱり間違いではないのかと疑いたい気分だった。
次の種目の選手発表はシューティングの四名。
2年生で埋め尽くされる中たった一人、1年生の鷹取君が名前を挙げられた。
これには私達は全員納得した。
そして、残すはデジタルフロンティアの代表選手の発表だった。
常日頃行われている人気の競技種目であり注目度も高い。
『最後はデジタルフロンティアの代表選手発表です。2年空閑徹也、2年月舘佳祐、2年常陸龍一、1年天沢千沙。以上四名となります』
選ばれた代表は現在ランク戦においてSランクの主力選手ばかりだった。
その中に何故だかまた私がいた。これはリレーレース以上に私は驚かされた。
大画面に映し出されている紹介映像はそれぞれのランク戦での風景で、最後は間違いなく自分だった。
人気種目であるデジタルフロンティアに1年生が選ばれるのは確率として一番低いそうだ。
本来なら入学して3ヵ月の1年生が高ランクに居ることは滅多にないからである。
そのせいもあるがリレーレースでも代表として名前を挙げられ、1年生でありながら二種目選ばれたという事実が信じ難かった。
カフェテリアに居る人達もざわざわと騒めいている。
申し訳ないけど誰よりも動揺しているのは私だ。
旗取り合戦の決勝戦後よりも冷や汗が全身を伝う。
「なに引き攣った顔してんのよ。さっき花宮先輩に勝って千沙もデジタルフロンティアでは最高位のSランク選手なのよ?選ばれても不思議じゃない、堂々としな」
「で、でも…私がSになったのは今日の話だし…それに花宮先輩や風祭先輩が出たほうが人気もあるし皆さんも喜ぶのでは…」
「あら、千沙さんはもう生徒の間では充分有名人ですわよ。デジタルフロンティアでは着実にファンの方も増えていらっしゃいますし」
そんなことは知らなかった。
いちいち客席をそんなに気にしていないし、授業中は努めて大人しくしていたというのに。
旗取り合戦に出た以上、少しは知られてしまうとは覚悟していたけど、それ以前に予想を超える認知度が私にはあったというのか…。
「もう日陰での生活は諦めたほうがいいわね。あ、辞退するとか言うのなしね。選ばれたくても選ばれない生徒が沢山居るんだから。選ばれた以上しっかり取り組むことだね」
頭では理解しているが拒み続けている現実を理央ちゃんが追い打ちのように口にする。
『旗取り合戦は先ほど優勝した各チーム。1年生の部、飛山隼人、鷹取隆弥、古屋勇太。2年生の部、鳥羽悠真、月舘佳祐、加地大河。今年の体育祭代表選手は以上17名になります。続いては控え選手の発表になります』
控え選手の中には飛山君と麻子さんの名前が挙げられていた。
旗取り合戦をしている時は、麻子さんや鈴音ちゃんと一緒にこの競技の代表になりたい。そう思ってはいたけれど、自分が単独で代表選手に、それも二種目もなるなんて全く想像もしなかった。
私は選ばれた動揺と責任で頭がパンクしそうだった。
そして思考を巡らせるうちにあるひとつの結論に行きつく。
試験勉強がしたい!なんて言っている時間は私にはもうないんだ…。
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