新たなる飛び立ち-4
アルフィード学園での生活が始まり二週間。
ついに僕が待ち望んでいた授業が始まっている。
人類初、操縦者の思考を読み取って運転する飛行鎧。
"WingAutomaticAssistArmar"、通称"W3A"。
国防科では"W3A"の操縦は必須授業として取り扱われている。
複雑な地形での飛行も可能、飛行機にはない機動力があるので軍では機動隊で主力として用いられている為だ。
本来は人命救助の目的で開発された"W3A"だが、今では軍の華と言ってもいい。
国の科学技術の集大成とも呼べ、軍が行うパレードや式典でもよく演舞飛行が行われる。入学式前にも優秀な先輩達によって歓迎の演舞飛行は行われたのも記憶に新しい。
自由自在に飛び回るには高い操縦技術が求められる乗り物なうえに集団での演舞となるとより繊細な飛行技術が求められる。
苦も無く飛び回る姿は華麗でそれが大勢の人で行われれば圧巻。
さらに派手な演出も加われば一斉に多くの人を魅了できる。国や学園の威厳を主張するには打ってつけの乗り物だ。
わざわざ演舞飛行を見る為に他国から旅行に来る者も多い。
僕自身も演舞飛行に魅せられた一人だ。自分もいつか空を自由に飛び回りたい。
それが夢でアルフィードに進学したのだから。
しかし理想と現実は違う。
飛行授業が座学から実践に入って数回、僕は授業中にうまく飛べたことがない。
飛ぶはいいが練習コースを完走する前に墜ちてしまったり、制御できなくなったりと失態続き。
それなのに今度は誰かと組んで飛行しろというのだ。
今までは決められた直線のコースにある規則的に並べられたチェックポイントを正確に通り抜ける飛行を単独でしていた。
今日から始まる二人のペア飛行だとコース上のチェックポイントの配置が複雑になり、より高度な飛行技術が要求される。
求められるのは正確さと速度、相方との連携技術である。
チェックポイントを通過した個数とゴールした際のタイム、飛行の美しさの三点で採点される。
二人の場合、チェックポイントの通過はどちらか片方が通過すればクリアと見なされるが、チェック出来なかったポイントの個数×10が減点される。
さらに二人共が通過、通り過ぎてからの逆走して通過するのは個数×20の減点。
相方との衝突も回数×10の減点。
飛行の美しさは飛行時の安定感を"W3A"が計測している。
不安定でブレた飛行時間の秒数単位×1が減点。
以上を統計しスコアが二人で合わせたものに、タイムが短く点数が高い程好成績になる。
一組の持ち点は1000点で加点がなく減点される一方なので最高得点は1000点となるわけだ。
タイムには点数評価はなく、二人目がゴールした時点で完走タイムとなる。
なおタイムと点数の優劣があり、得点が優遇される。すなわち速いタイムを取ろうが高得点のほうが上の順位と見なされる。
同点数を獲得した場合はタイムが短いスコアのものが順位が上になる。
当然これらの評価は完走できたらの話だ。
どちらか片方でも完走ができなければ共に失格扱いとなる。
このままでは僕がペア相手の足を引っ張ることになるだろう。
単独飛行の時も実技試験があった。今回のペア飛行も当然実技試験がある。
自分はともかく相手に迷惑はかけたくない。なんとしても完走をしなくては。
入学式の日に僕が二度ぶつかってしまった国営科の彼、
彼とは学科が違うものの、この授業だけは同じに分けられてしまった。
鴻君が優秀な飛行を終え、先生から軽く講評を受けると生徒達が待機している場所に戻ってきて僕を見つけ立ち止まる。
「せいぜい衝突事故なんか起こさないように気を付けることだね」
入学式前の一件以来どうやら僕は鴻君に目を付けられてしまったようで、事あるごとに嫌味を言われるようになってしまった。
僕の飛行授業での数々の失態はクラス中が知っている。周囲の空気も鴻君に同調しているように見えた。
悔しくても何も言い返せない。
間違いなく僕はこのクラスで一番最低の操縦技術だ。それは事実だ。
国営科は必須授業でもないのに何で彼はこの授業をとっているんだ。
そんなの個人の自由だと分かっているのにそれすらも疎ましく思えてくる。
「古屋君は衝突なんてしないよ」
僕の隣に居る今回の授業の相方、天沢さんが毅然と答えた。
一見大人しそうに見える天沢さんが鴻君に反論するのが意外で驚いてしまう。
「そうかい?それは楽しみだな。残念ながら僕は眼鏡の彼がまともに飛べているところを見たことないものでね。君も気を付けるといい、下手したら巻き添えだ。ま、眼鏡同士頑張るといいさ」
鴻君が立ち去っても僕は言い返すこともできなかった。
僕はどうしようもない意気地なしだ。
「…ごめんね天沢さん。僕のせいで嫌なこと言われて」
「なんで古屋君が謝るの?何も悪いことしてないし、悪いのは嫌なこと言う人なんだから。私は古屋君が頑張ってるの知ってるから、信じてるもの。大丈夫だよ!」
天沢さんは僕に呆れも怒りもせず、純粋に鼓舞してくれた。
鴻君の高圧的な態度は大抵の人が恐れをなすか関わりを持たないよう遠ざけるかするのに彼女は真っ向から受けていく。
それでいて媚びもせず自分を強く持っていて主張できる。羨ましい。
『次、天沢古屋ペア!』
「「はい!」」
先生に呼ばれ思考を中断し慌てて発進位置に着く。
フルフェイスのヘルメットを被り視界が外の景色と隅に電子文字が映る。
高度や燃料、パワーの出力数、搭乗者の心拍数などが表示されている。
何回も練習しているんだ、大丈夫。今度こそ飛べる。自分にそう言い聞かせる。
『――3、2、1、GO!!』
合図とともに二人同時に空へと飛び立つ。
天沢さんは綺麗に勢いよく上昇していく。
僕は追いかける形で上昇していくが次第に離されてしまう。
彼女の足を引っ張るわけにはいかないんだ。
いつもは怖くてあまり速度を出さないでいたがそうは言っていられない。
追い風が吹いている。風に乗ってエンジンの出力を八割まで上げれば追い付けるはずだ。
夢中でエンジンの出力を上げると速度が見る見ると上がっていく。
しかし勢いに耐えかねて身体のバランスが取れなくなる。
制止しようとするがエンジンの出力が弱まることは無い。制御できない…!
コースなんて関係なく暴走機関車のように全速力であても無く飛び回る。
「古屋君落ち着いて!一回止まろう!」
「分かってる!分かってるけど止まらないんだよー!」
僕はすっかり混乱状態に陥ってしまった。
『古屋!安全装置を起動させろ!そうしたら止まるはずだ!』
僕の状態を危険と判断したのか通信で先生から警告が発せられた。
先生は何度も説明してくれていた、いざという時は強制停止ボタンを押せ。
そんなことは自分でも理解しているのだが、手首に備えられているボタンを風圧や自分の力のなさで思う様に押せない。
「古屋君!危ない!」
天沢さんの悲鳴にも似た叫びでふと前を向くと地面が映った。
すなわち僕は今一直線に地面へと突進しているのだ!
ボタンを押すことに無我夢中になっていたせいか進行方向などまるで気にしていなかった。
「うわああああああああ!」
衝撃が怖くて目を瞑った。
ところが痛みはやってこなく、何故か動きが止まった。
ゆっくり目を開けるとまだ宙を浮いていた。
そして隣には僕の腕を掴んで今にも泣き出しそうな天沢さんと反対側には同じく腕を掴んでため息をついている同じ国防科の飛山君の姿があった。
ヘルメットを被っていないあたり急いで飛び出して来てくれたのだろう。
人の危険を見て咄嗟に行動できるなんて。
1年の国防科で一番の成績優秀者と言われる飛山君、流石だなあ。
「良かった、怪我はない?」
「ったく危ないな」
どうして無事かがいまいち飲み込めないがとりあえず僕は二人のおかげで助かっているようだ。
するとすぐに先生も飛んできた。
「何が起きても冷静に対処する。基本中の基本だぞ!それができなくてどうする!」
「…すみません…」
「お前たちの今日の飛行は終わりだ。どうしてこうなったかよく反省し対策を考えて来い」
元の場所に戻った途端、鴻君の嫌味まで飛んできた。
「危ない危ない。本当に事故が起きるところだったね。その眼鏡はお飾りなのかい?」
彼はあくまで他人からの僕の評価を下げたいようだ。
鴻君に何と言われようが自分の不甲斐無さにただ歯を食いしばることしかできない。
「その調子じゃ将来せいぜいなれても軍の事務職員くらいだろうな。君には才能がないよ。 才能の無い者はこの学園には合わない。悪い事は言わないから早めに自主退学することをお勧めしておくよ」
飛行士を目指してアルフィードに来たのに。
その為に高校時代は形振り構わず勉強もしたし、運動は苦手だったけどトレーニングもした。
でもどんなに努力したって、才能がなければ役に立たないのだろうか。
「…やっぱり僕には無理のかな…」
「そうだよ、ここは君みたいな凡人が来る場所じゃない」
「さっきから失礼なことばかり言ってきて、あなたには恥というものがないの!?」
怒った天沢さんの言葉に今にも零れ落ちそうだった涙が留まる。
「何?」
「誰が古屋君に才能がないと決めたの」
「彼はまともな飛行すら危うい、現に今も大怪我するところだったじゃないか。それのどこに才能があると言えるんだい?」
「失敗なんて誰にでもある。数回の失敗だけで才能を決めつけるなんて間違ってるよ」
「じゃあ僕にもわかるように彼に才能があるところを見せてくれよ」
「なら来週のこの授業のペア飛行試験であなた達よりいいスコアを私達が取る。そうしたら古屋君に対する暴言の撤回、それと今後古屋君に対して失礼な態度を取らないと約束して!」
「へえ…面白い。それじゃあ僕らが勝ったら君達二人に校舎前の広場で土下座をして謝罪してもらおうか」
「分かった、気が済むまで土下座でも何でもする。約束よ!」
二人のやり取りをただ呆然と見ることしかできなかったが、たった数十秒の間にとんでもないことになってしまったのではないか?
僕達が鴻君のペアより良いスコアを出す…?それも来週の実技試験で…!?
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