第29話「終章・怪異は解かれる」
「れむさん、どうでしたか?」
一夜明け、正午。
理宇たちが双葉の泊まるホテルのラウンジまで訪ねてきた。
若いからか、彼らの顔色はかなり良くなっている。
双葉はそれに満足した様子で彼らに席をすすめた。
「ああ、流石にあれを見て失神したようだが、もう朝は自力で回復して何事もなかったかのように朝食を摂っていたよ。全く、食欲だけは一人前なのだからな」
「ふふふっ。でも良かったです。あの池に埋まった大量の骨を見た時、れむさんお人形のように動かなくなっちゃって、心配したんですよ」
とんでもない事態だというのにそれをさらりと言ってしまう理宇も大したものである。
あの後、好奇心に負けたれむが池の中を覗くと、そこには理恵によって集められた沢山の白骨と化した「お友達」が埋められていた。
それは今まで行方不明になった者たちだろうという事で、現在身元の照合が警察の手によって進められている。
その事はすぐに全国のニュースで取り上げられた。
双葉は手元のセンセーショナルな見出しの踊る新聞に目を向けてため息を吐いた。
れむが意識を失った後で、警察と消防、救急車が到着し、真っ先に佐穂子が搬送され、残った面々は事情聴取を受けた。
特に勝手に池を掘り起こした希州は徹底的に絞られたようだが、そこは双葉の知ったところではない。
気を失ったれむはそのまま高校生チームと一緒に帰され、一応の収拾がついたのは明け方の事だった。
「佐穂子も二週間もすれば退院出来るみたいで、本当にありがとうございました。一歩間違えたら佐穂子もあの人たちと同じ事になっていたかもって思ったら……」
救出された佐穂子は、その後すぐに意識を取り戻したのだが、不思議な事に行方不明になっていた間の記憶を失っていた。
彼女の記憶は理宇たちと肝試しに行く直前で途切れていたらしい。
それはそれで彼女にとって良かった事ではないかと双葉は思った。
「いや、礼には及ばないよ。これでも正式に君たちから依頼された仕事だったからね。幸い大きな怪我人も出なかったし、川瀬さんも無事だった」
「あっ、そういえば依頼のお金持ってきたんですけど……」
そこで理宇と崇、千紘が揃って頷き合う。
そして茶封筒を机の上に乗せた。
「足りない分は皆でバイトして払いますから」
すると双葉は緩く首を振る。
「いいや。君たちからはお金は取らない。後で黒崎さんから搾り取るつもりなので心配せずに」
「でも……」
「今回君たちは怪異に巻き込まれただけだ。だからいいんだよ。後の事は大人たちに任せて甘えなさい」
そして双葉はゆっくりと席を立つ。
「あの……」
最後に理宇たちも席を立った。
双葉は歩みを止めない。
その背中に向けて、彼らは揃って頭を下げた。
「本当にありがとうございました!」
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