第26話「告白」

「所長……」


いつの間にか小さなレムの姿は消えて、そこには優しい表情でこちらを見る双葉が立っていた。


「春日君、君はいつまで眠っているつもりだ?全く君は……うわっ」


その姿を見た瞬間、れむは双葉に抱きついていた。

懐かしい温もりがれむの心を満たす。

突然の事に双葉は戸惑い、手のやり場に困っていたようだが、すぐにその手は背中に回される。

互いの鼓動が響き合う。


「本当にあの「お兄ちゃん」なんですか?」


「何だ?そんなにあの頃と人相が変わったのかな、私は」


双葉の形の良い眉が顰められる。

れむは緩く首を振った。


「ううん……全然。でも何で言ってくれなかったんですか?」


「私も怖かったのかもしれないな。ずっと君の事は気になっていた。あの日、私は君をただ悲しませたくなくてあの事実を伝えた。だがそれが必ずしも良い結果を生むとは限らない事を、あの時の私はまだ未熟で知らなかった」


双葉は一度言葉を切って、再びれむの顔を覗き込む。

そして背に回された手を今度はれむの顔に添えた。


「あれから私は君を避け、叔父が住む京都の別宅に移った。それでも君の事を忘れる事はなかったよ。密かに人を遣ってその行方を調べたりもした」


「えっ……それって嬉しいですけれどあの…その……」


れむの脳裏に「スト〇カー」の五文字が浮かんだが、それを口に出す前に双葉に睨まれたので、危うくそれを飲み込んだ。


「実は君の面接にも少しだけ細工をさせてもらったのだよ」


「えっ……じゃあ…」


「あぁ。君も想像した通り、君以外を雇用するつもりはなかった」


れむは思い出す。

高校を卒業して、親戚の家で世話になっていたれむはどうしても就職する必要があった。

だが大卒でもありつけない職が高卒の何も出来ないれむにそう簡単に見つかるはずがない。

それがとんとん拍子に書類審査や面接をパスして採用までたどり着いたのだ。

根が単純な親戚は心から喜んでくれたが、れむにはそれがどうしても解せないでいたのだ。


……そうか…そんなからくりがあったのね。


今判明した衝撃の事実にれむは大口を開けて固まってしまった。


「まぁ、詳しい話は後だな。それよりも早くここから出るぞ。この場は君が「闇」を祓ったからもうすぐ消えるだろう。それから工藤理宇さんは黒崎さんが救出したから安心していいぞ」


「えっ、本当ですか?良かったぁぁ。あっ、そうだ。所長」


急ぐ双葉はまだ何かあるのかと顔を顰めたが、その後に続いたれむの衝撃発言に面を食らった。



「所長って、あたしの事、好きなんですか?」



「は?」


双葉は今まで見た事がないくらい間抜けた顔をしている。

全くの予想外だったのだろう。


「誰が誰を?」


「だから所長があたしをですよっ!」


すると双葉は更に今まで見た事がないくらい蔑んだ目をれむへ向けた。


「私は君のようなお子様は守備範囲外なんだ」


「え~っ、酷いっ!あたしは結構好きですよ」


「……結構ね」


「所長?」


「いいから出るぞ。稜葉の術がもうじき解ける」


見ると辺りの景色が色を失い、次第に消失していく。

双葉はスーツのポケットから取り出した呪符を中空へ放った。

すると何もない白い空間にポッカリと穴が開いた。


その先は更に眩しい光が溢れている。


「さぁ、行くぞ。しっかり捕まっていろ」


「はいっ!」


れむは力強く返事ほすると、双葉の手に自らの手を重ねた。

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