第24話「記憶の中の君は今も……」
「ずっと謝りたかった。お兄ちゃんに……お兄ちゃん、ごめんなさいって」
いつの間にかれむの瞳からは透明な雫が幾つも頬を伝い落ちていった。
これは「あの日」の記憶だ。
れむが心の奥底にずっと閉じ込めていた悲しい記憶。
「あの日」、れむは彼を深く傷つけてしまった。
心無い言葉で誰よりも優しく、いつも自分の味方でいてくれた彼を傷つけてしまった。
ずっとその事がれむの心に棘のように深く突き刺さり、今も胸を抉っている。
場面は早送りのように流れていく。
やがてれむが最も畏怖する「あの日」がやってきた。
れむはただ見ているしか出来ず、無理やり映像を見せられている状態だった。
あれはいつものようにお兄ちゃんのお屋敷に遊びにいった日だった。
その日のお兄ちゃんは何故か元気がなくて……。
今日もいつと同じようにお兄ちゃんと二人の楽しいお話が待っていると思っていたのに……。
お兄ちゃんは辛そうな顔でれむに告げたのだ。
………「あの言葉」を。
「レムちゃん、よく聞いてくれ。今日これから君の家で火事が起こる。台所の火の不始末でね。そこで君のお父さんとお母さんは命を落とす。だけど君は……君だけは……」
お兄ちゃんのお話はれむの想像をはるかに上回るものだった。
当時のれむが抱えられる許容量を超えていた。
でも彼のれむを気遣う気持ちは十分に伝わったはずだ。
鉄格子からそっと手を伸ばしてみた。
出来る事ならこのまま、その小さな身体を抱きしめてあげたかった。
大丈夫だと。
絶対に守るからと。
だがれむはまだほんの小さな子供だ。
そんな言葉の機微に気付く余裕もない。
伝えたいのに伝わらないもどかしさに彼は唇を噛み締めた。
伸ばした手は冷たい鉄格子に阻まれ、れむに触れる事すら叶わない。
やがてれむの小さな唇から紡がれた言葉は彼の心を深く傷つけた。
「嘘っ!どうしてそんな事言うの?パパもママも死んじゃうなんてっ!お兄ちゃんの意地悪っ。大嫌いっ!」
幼いれむの瞳にうるうると玉のような涙が盛り上がり、一気に決壊する。
ついにワッと泣き出して、そのまま走り去ってしまった。
「レムちゃん……」
彼は悲し気にその後ろ姿を目で追った。
初めて出来た「友達」失った。
その心の痛みはそのまま現実の痛みとなって彼を打ちのめす。
「この力はやっぱり悪い力なんだ。この力があるから僕は他人を傷つける。僕は他人と関わってはいけないんだ……」
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