第18話「迷コンビの推理劇」

「ふむ…。そうか………」


ここはれむ達のいる巳波邸より程近い市街地にあたる。

あれから双葉は彼らと別行動を取り、単独でこの辺りの調査をしていた。


沖縄独特の住居が立ち並ぶ通りを双葉は丹念に調べ上げる。

家屋敷と呼ばれるこの住居は気候、地理的な条件から台風や暑さへの対策が巧みに取り入られている。

これは風水学的見地から見ても非常に興味深いものがある。

時間がある時に是非じっくりと調べたいものだと双葉は思った。


全体的に軒が低く、屋敷の周囲は石垣や生垣を巡らせ、風や直射日光を遮っている。

双葉はそれらに目をやりながらも風水羅盤を手に丁字路までゆっくり歩いてみる。


やがてその行き止まり…丁字路にコンクリート製の石碑のようなものが現れた。


「これは……石灯籠か?」


じわりと首筋に浮かんできた汗をハンカチで拭いつつも双葉は、その見慣れない石碑をじっくりと観察する。


半ば風化し、ざらついた石の表面には「泰山石敢当」と刻まれているのが微かにわかる。


「石敢当じゃな」


「うわっ!夜斗っ。お前一体どこから……」


その時、不意に石碑の影から細身の少年が突然姿をした。よく見ると彼は希州の狗神、夜斗だった。


「双葉のやつが困り果てていると心配じゃあと希州のやつが儂を遣わせた」


夜斗は双葉の顔を覗き込むようにしてニヤニヤと笑った。

彼は一見高校生くらいの少年に見えるが、実際は何百年もの間生きているれっきとした神だ。

従って本来の夜斗の口調はやや爺臭い。

それを隠蔽するかのように、彼は細身のブラックジーンズに白地にハードなチェーンをプリントしたシャツとラフな黒地のジャケットを纏って「今風」を気取っているのだ。

長めの萌木色の髪は首の後ろの方でまとめている。


「ふん。全く…余計な世話だと言いたいところだが、丁度良いところに来た。夜斗、先ほどの石敢当とは何だ?」


双葉が聞く姿勢をとったので、夜斗は得意そうな顔で石敢当に手を添えて説明モードに切り替える。


「何だお主、風水師ともあろう者が石敢当も知らぬか。まぁいいだろう。教えてやろう。この石敢当とはな、平たく言えば魔除けの一つじゃ」


「魔除け?シーサーのようなものなのか?」


「ああそうじゃ。あれは屋根の上に置く。この石敢当はな、こういう丁字路にある家によく置かれる。昔は邪気、悪鬼、悪霊の類は直線的にしか進めないと信じられてきた。よって丁字路の正面の家はそんな悪鬼の類がまともに入り込んで来る事になるのさ。それを防ぐのがこの石敢当なのじゃよ」


石敢当に得意そうに説明する夜斗に、双葉は何か気付いたかのように記憶を巡らせる。


「ほぉ………」


やがて双葉は石敢当にある「繋がり」を見つけた。


「そうかっ!これか」


「ん?どうかしたのか双葉よ」


きょとんとした表情を浮かべる夜斗に、双葉はやけに爽やかな顔でその手を取った。


「お前、役に立つなぁ。うちの春日君とは大違いだ」

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