第16話「オジサンと少女」

「ふぁ~ぁ。やっと片付きましたね。黒ちゃん」


舞台は変わって再び巳波邸。

指示されたベースとなるリビングが片付く頃には辺りはすっかり日も落ち、夕闇が広がっていた。

途中で昨日顔を合わせた巳波氏が差し入れの軽食を持参し、様子見がてらやって来た。

この女子高生行方不明事件から警察の事情聴取や地元テレビのインタビューに追われて、幾分やつれた感のある巳波氏は現在この近くのホテルに宿泊している。

彼は事件が落ち着き次第、この屋敷を引き払う事を決めたと言っていた。


せっかく手に入れたマイホームをこのような形で手放す事になり、悔しそうだったが、このような物件を売った不動産屋は全額返金すると自ら申し出てきたそうだ。


その巳波氏はまだ事情聴取の続きがあるとかですぐに出て行った。

早く全てが落ち着いて平穏な生活に戻れる事を願わずにはいられない。


掃除を終えたれむが疲労感が残る肩を上げ下げしていると、キッチンから希州がビールの缶をちらつかせながら出てきた。


「ほい。労働者へのご褒美」

「あ、びーるだ♡どうしたんですか?これ」


冷たいビールの缶を受け取り、れむは上目遣いに横でビールをゴクゴクやる希州に問いかけた。


「稜葉くんのおごり。さっきダウジングが終わったんで、ちょっと近くのコンビニで調達してきて貰ったんだよ。あ、コレの事は双葉にはナイショね。後数か月で二十歳といえども未成年に酒勧めたとあっちゃ色々まずいからね」


「…………確かに。やっぱり黒ちゃん、今回は遠慮しておきます」


れむはそっとビールをテーブルに戻した。


「ははは。カタイなぁ。れむちゃんは。んじゃ、ウーロン茶でも飲む会かい?」

「そうさせていただきます」


後ろの袋から取り出されたウーロン茶の缶はまだ冷たく、れむはプルタブを起こすと一気に煽った。

独特の香味と苦みが喉を滑り落ちていく。


「そういえば所長はどうしたんでしょうね。何も連絡はないし…。もう夕方ですよ」


テーブルの上のスマホを眺めてれむがため息を吐く。


「双葉?そういや、さっき稜葉くんのスマホに連絡が入って、もう少し時間がかかるって言ってたっけ」

「え~っ!何であたしに連絡してくれないんですかぁ」


明らかに落胆した様子のれむを見て、希州は一人ニヤニヤしている。


「そーかい、そーかい。そんなにさびしんぼさんなら、このオジサンがハグハグしてあげようか?」


「結構です」


「そ……即答かいっ!」

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