第15話「怪異の発端」
北方位は「冬」、「真夜中」を示し、十二支では「子」の方位。
子は動物のネズミではなく種子が寒中、薄氷を割って芽を出した状態を示す。
この静寂であり、ものの静かな発展を示す方位である。
東方位は人生では「幼年期」、万物萌え出でる春。朝日の昇る朝、全ての面で物事の活発な第一歩を示す方位である。
ここは那覇市から北上した名護市。
そこからレンタカーを走らせ、双葉は図書館に降り立った。
車を降りると午前中と変わらぬ熱気が肌を焼く。
沖縄は昼と夜の寒暖の差が小さいのも特色の一つである。
さすがに図書館内は多少は空調が効いていて、双葉はホッと一息ついた。
ここへ来てから暑さの苦手な双葉には試練の連続である。
だがそれをれむに気取られるわけにはいかない。
人一倍自尊心が高い双葉にとって、他人に気遣われるという事態はあってはならないのだ。
中に入ると、すぐに目的の資料のいくつかを探し当て、日光のたっぷり入る窓側は避けて、廊下側の席に腰を落ち着けた。
そして重厚感のある資料を開く。
………南方位は「夏」、「青年期」、正午、強運を象徴する。
西方位は人生で功成り名を得た「熟年期」、豊年を示す「秋」。
全ての面で安定を示す方位………。
双葉は巳波邸の配置図と平面図を交互に鑑定し、齟齬がないか丹念に調べる。
「うむ……。土地としてはそう悪くないのだが……やはり家相が良くないな。何かを隠しているという事か?」
土地、家と丹念に鑑定したが、差し迫った問題は特にない。
家相というものは全体の約七十パーセント程度が良い家相であれば良しとしているのだ。
巳波邸の家相は作為的なものを疑うくらい大きく乱れた家相ではあるが、これはまだ改善可能な範囲だ。
「だが、何故あの家は「人を喰う?」」
屋敷に蔓延するあの厭な気の流れ。
あれは何も問題のない家相ならば発生するはずのないものだ。
それにあの気からは何か薄暗く強い意志のようなものを感じる。
恐らくは怨恨。
そこに住まう者を貶める暗く陰鬱な気だ。
「やはり家ではなく「庭」かっ!」
双葉は長い睫毛を伏せ、屋敷の庭を思い起こす。
白い洋館に不似合いな、濁りきった苔だらけの池。
そしてその端には傷んだ石灯籠。
「石……水場に石か。うむ。ならば…………」
その時、何かが双葉の脳裏を掠めた。
そしてそれに突き動かされるようにして双葉は席を立った。
「そうかっ!何となくわかってきたぞ」
双葉は早速、書架の一端に走り寄った。
その瞳は強く輝いて見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます