第14話「ある一つの仮説」

「…………あれだけ調べても結局不審なところなんてなかったですね」


あれから一時間ほどが過ぎ、警察の捜査制限が入っている個所を除き、あらかた屋敷の中を調べ終えたれむたちは居間の夜斗と合流した。


薄っすらと埃を被っていたゴシック調のテーブルは綺麗に拭われ、その上には稜葉がどこからか調達してきた可愛らしいティーセットが乗っている。

それを囲むようにしてリビングにはれむを始め、双葉、希州、稜葉、夜斗がそれぞれ座っている。


「ああ。だが最初に感じたあの禍々しい気は確かにここに存在している」


双葉の言葉にそれぞれが感じ入るように頷く。


「僕…………思うんだけど……」


事の次第をただ見守っていた稜葉が不意に口を開く。


「どうした?稜葉くん」


「はい。あの………これはまだ憶測の域を出ていないんですが、この気は屋敷の中に充満していますが、発生源はもしかしたらもっと別のところにあるんじゃないかって思うんですよ」


「それはどういう事だ?」


「だから、昨日この屋敷の中をダウジングしてみた時、不思議とどの場所の気も安定しているというか…調和がとれていた。つまりどこにも気の流れに強弱が感じられなかったんだ。これはどこか屋敷の外に別の発生源があって、そこから不浄な気がこの屋敷の中に入り込んでいるかもしれないと思ったんです」


「………………」


それぞれの顔に困惑が浮かぶ。

確かにれむたちと部屋を回っている中、稜葉は水晶の重りがついた振り子のようなものを持って、その揺れを丹念に見つめていた。

多分あれがダウジングなのだろう。


「あのぅ…、じゃあ行方不明になった女の子はどこへ行っちゃったんでしょう。その稜葉さんの言う「別の発生源」にいるんでしょうか?」


その気まずい沈黙を破るようにれむが口を挟んだ。


「そうだね。ざっと屋敷を見たけど人が隠れ、入り込めるような隙間は調べつくしたよね。部屋数は確かに多かったけど、僕らも警察も調べても何も見つからなかった。だとすると………」


稜葉は顎に手をやりつつ皆へ視線を送る。

すると双葉が口を開いた。


「お前の仮説が正しいとするなら、やはり春日君の言う通り彼女はその別の発生源にいる可能性が高いという事か」



「所長………」


れむが不安げに双葉を仰ぎ見た。

双葉は心配するなという風に優しい笑みをくれた。


「うん。僕もそうだと思う。じゃあこれからどうしてようか?」

「まずはその気の発生源を特定するんだ。それはダウジングが出来る稜葉と嗅覚の鋭い夜斗に頼む」


「わかったよ。兄さん」

「おう。儂らにまかせておけ」


稜葉と夜斗は力強く頷くと、すぐに立ち上がり、外へ向かった。


「それで我々はどうするんた?」


二人を見送り、希州は期待するような目で双葉を見てくる。


「私はちょっと街へ出て調べものをしてくる。アンタと春日君はベースとなるこのリビングを掃除しておいてくれ。夕方には戻る」


「え~っ、所長行っちゃうんですか?」

「不満か?」


すぐに不満の声をあげるれむ。

しかし双葉は揺るがない。


「不満も何もないですよっ!だってあたしは所長の助手なんですよ。そりゃあまだ半人前ですけど」

「ほぉ。わきまえているじやないか」

「所長~っ!」


ぷぅっと子供のように頬を膨らませて不満たっぷりのれむに、双葉は不意に近づき、その耳元に唇を寄せて小さく囁く。


「安心しろ。すぐに戻る」


「………………っ!」


直接耳朶に双葉の温かい息がかかり、れむは軽い浮遊感を味わった。


「おーい、大丈夫かい?れむちゃん」


ややして希州がれむの顔の前で手を振っている事に気づく。


「あれれれ、所長は?」

「双葉ならとっくに出て行ったぞ。なんだかんだで君たち、ラブラブじゃないか。オジサンあてられそうだ」


ガハハハッと豪快に笑う希州にれむは真っ赤になっていく顔を自覚した。


「もうっ、黒ちゃん。早くお掃除始めましょう」


わざとらしくドタドタと音を立てながら、れむは掃除道具を借りに納戸へ向かった。

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