第11話「小休憩」

「はわ~っ、美味しい。幸せ~」


お店に入った二人は早速ソーキそばを頼んだ。

熱々の沖縄ソバはコシが強く、独特のコクがあった。

れむは大きなどんぶりを掲げ、スープまでごくごくと飲み干し、満足そうに一息ついた。



沖縄ソバとはうどんの一種で、きしめんとラーメンの中間に分類される麺で、非常にコシが強い。

豚骨などで出汁を取ったスープはあっさりとした塩味で、具にはソーキ(豚の骨付きあばら肉)を乗せたソーキそばが有名である。


「うん。ここへ来てようやく沖縄らしいご飯を食べた気がするな」


双葉もこれには満足した様子で、フランス料理でも食べた後のように上品にナフキンで口元を拭っている。


「さぁ、腹ごしらえも済んだ事だ。そろそろ本題へ移ろうか」

「はい。じゃあ先ほど理宇ちゃんから預かった屋敷の図面を見てみましょう」


食べ終わった食器を片付けてもらい、食後のコーヒーを飲みながられむはいつもの重そうなリュックの中から図面と風水羅盤を取り出した。

理宇から預かった図面は肝試しをするという事で佐穂子が事前にネットで調べてプリントアウトしたものらしい。

準備をする中、幽霊屋敷という事で知名度が上がり、こういった個人情報まで簡単に入手出来る世の中をれむは内心恐ろしいと思った。


机一面に広げられた図面の中央には風水羅盤。

その時、羅盤の中心の「天池」と呼ばれる方位磁針が微妙な揺れを生じさせた。


双葉はそれを見て顔を顰める。


「むっ……、これは凄いな。どれを取っても「凶相」だ」


思わず深く唸りだしてしまう。

そんな双葉を見てれむは首を傾げる。


「えっ、それってどういう事なんですか?所長」

「まずここを見ろ。入って廊下を二分する場合は家族がバラバラになり、トラブルが相次ぐ。そして階段が家の中心にある。これは思いもよらない災難に見舞われる。水場の位置といい……これは意図的にこうしたとしかいえないくらい酷い家相だぞ。このような凶相、私も初めて見た」


そして双葉は更に深刻そうに深いため息を吐いた。

繊細な指先が図面の外周を滑るように辿る。


「しかし最も良くないのがこれだ。春日君、わかるかい?」


飴色をした不思議な色合いの瞳が探るようにれむを見つめる。

瞬間試されていると感じたれむは必死に解を求めて図面をのぞき込む。


「あっ、これって一階よりも二階の方が総面積が大きいんですね」

「そう。それだよ。春日君。よく勉強しているようで感心したよ」


双葉は満足そうに微笑み、よく気付いたというようにれむの頭をポンポンと撫でた。

それがちょっと誇らしく、くすぐったい。


(適当に言ってみただけだったんだけどね……)


「春日君の言う通り、この屋敷は二階部分が突出している為、風水では非常に良くない。「欠け」を意味し、凶相になる。このような家は見た目もアンバランスだし、二階の屋根に腐敗した空気が淀み、家の中を流れる正常なエネルギーが変化するんだ」


「そうなんですか……。でもこうすると建蔽率ってのに引っかからないから敷地の有効利用になるんじゃないんですか?」


すると双葉は忌々しそうに鼻を鳴らし、コーヒーを一口飲んだ。


「よく知っているじゃないか。まぁ、昨今家相など気にしないという輩が増えてそのような物件も増えているのは確かだ。だがそんなのは人間の都合に過ぎない。私はお勧めしないな」


そう言って双葉は再び図面をチェックする。

屋敷はちょうど二階部分が出窓のように張り出している。

こういった家を建築用語でキャンティレバー方式という。


「さて。これからどうするかだな。この屋敷は思ったよりも広い。だが人間一人姿を消すには手狭でもある。この程度の広さならば今頃とうに警察が全て調べつくしているだろう。それでも見つかっていないんだ。これは何かこの家に悪いエネルギーが溜まっていてそれが影響しているんだろう。……厄介だな」


「屋敷にもう一度行ってみますか?」


道具をしまいながられむはゆっくりと双葉の秀麗な顔を見上げる。

その顔は何か考えているようだ。


「そうだな。しかし我々は黒崎さんたちとは別行動だという事を忘れるな」


そし馴れ合うなよと釘を刺しておいて双葉はオーダーメモを手に立ち上がり、レジカウンターへと向かった。


「もう…。何でそんなに頑なになるのかなぁ」


午後三時。

二人は店を後にし、例の屋敷へと再び車をして走らせた。


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