第8話「予期せぬ再会」

「やぁやぁ、おはよう。兄さん、れむさん。沖縄の夜ばどうだった?よく眠れたかな?」

「……………」


一夜明け、早朝だとは思えないほど溌剌とした稜葉とは対照的に、昨日の疲れがありありとわかる双葉とれむは、半覚醒状態で宿泊先のホテルのロビーに突っ立っている。

双葉の白皙の美貌も今日は病的な域に達していた。


「おやおや。二人ともどうしたのかな?それとも昨夜はお二人さん何かあった?」

「戻りが深夜でそんな余裕、一体どこにあるというんだ」

呆れたという顔つきで双葉は乱暴に前髪を掻きあげた。

「ふ~ん。ふむふむ。じゃあ余裕があったら「する」んだね」

それを聞いた稜葉は更にお得意の意地の悪い笑みで切り返してきた。

れむとしては冷や汗タラタラである。


「バカな。それよりさっさと行くぞ」

しかし双葉の方はその挑発には乗らず、れむの肩を軽く押して出口へと向かう。

「もぅ、照れ屋さんだね。兄さんは」

「……そ…そうなんでしょうか」

お気楽に笑いながら稜葉も歩き出す。

今日の稜葉のスタイルは昨日のカジュアルなジャケットとジーンズではなく、全身黒ずくめの牧師スタイルだった。

その姿を見ているだけで、れむは何となく懺悔したい気分になる。


那覇市内を車で移動する事20分。

沖縄独特の赤い石を積み立てた家々を抜けた先にその問題の巳波邸はあった。

一見する限りとても幽霊が出るような雰囲気の家には見えない。やや西洋に傾倒した古い洋館といった印象の家だ。

まぁ、いかにも「幽霊屋敷」という風体の外観ではとても買い手はつかないだろうから、そこは綺麗にリフォームされていた。

その建物をぐるりと囲むように南国の植物が群生し、時折その木々の間からは多分警察の車両が出入りしているのが見えた。

三人はそんな彼らの邪魔にならぬ場所に車を止めると、ゆっくりと屋敷に近づいた。

「おい、稜葉。本当に大丈夫なんだろうな?」

「は?何が」

フンフンと鼻歌まで歌っている稜葉に苛立ちを覚えたのか、双葉はムッとした顔で弟を睨む。

「そんな怖い顔しないでよ。大丈夫だって。根回ししたって昨日言ったじゃないの」

「あの……、稜葉さん。その根回しってもしかして…」

気付けばれむが前方を見据えたまま固まっている。

心なしかその表情は引きつっている。


「どうした?春日君」

双葉がれむの異変に気付き、彼女の視線の先を見やる。

するとやはりその表情が固まった。

「おい…、稜葉。根回しというのは「アレ」のことか」

「二人とも察しがいいなぁ。あ、何だもう来ているじゃないか。お~い。狗神先生~っ」


「所長、狗神先生って……」

「……ああ。言うまでもないな」

二人は揃って顔を見合わせた。


「まさかこんなところであの人と再会する事になるとはな」


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