第六十二話 暗殺の時は来た

 シャーマンであるハグネット達、大精霊であるイフリート達、そして、騎士であるヴィクトル達、海賊の長・フランクが、帝国に到着し、カイリとアマリアの元へと歩み寄る。

 これから、何が起こるのか、何も知らないで。

 だが、それは、カイリも、アマリアも同じであろう。

 ダリア達が、何を企んでいたのか、知らなかったのだ。

 彼女達を盲目的に信じていたのだから。


「よくぞ、来てくださいました」


「お心遣い、感謝いたします」


 ハグネットは、頭を下げ、カイリとアマリアも、頭を下げる。

 今は、カイリは、皇子として、ここに立っている。

 ゆえに、誰にも、悟られてはならないのだ。

 自分の心情を。


「カイリ、久しぶりだな」


「ああ」

 

 ヴィクトル達は、カイリの元へと歩み寄る。

 彼らとは、面識があるのだ。

 ヴィクトル達が、騎士になった時に、出会い、共に協力してきたのだから。

 だからこそ、カイリは、心苦しかった。

 欺かなければならないと思うと。

 だが、これも、ダリア達の為だ。

 カイリは、自分にそう言い聞かせていた。


「クロスとクロウは?」


「今回は、留守番だ」


「そうか」


 カイリは、あたりを見回す。

 クロスとクロウを探していたのだ。

 だが、どこを見回しても、彼らの姿はない。

 ゆえに、カイリは、問いかけた。

 ヴィクトル曰く、留守だという。

 それを聞いたカイリは、少々、寂しそうな表情を見せた。


「なんだ?寂しくないのか?」


「え?そんなことないぞ。だが、複雑だな」


「複雑?」


「ああ」


 フランクは、カイリに問いかける。 

 寂しそうではあるが、いつもと様子が違うと、察したのだろうか。

 カイリは、動揺しつつも、答える。

 複雑な心境だと。

 ヴィクトルが、問いかけると、カイリは、うなずいた。 

 それ以上は、答えようとせず。


――巻き込まないで済む。だが……会えないというのは、寂しいな。


 カイリは、内心、安堵していたのだ。

 クロスとクロウを巻き込まずに済むと思うと。

 彼らには、知られたくなった。

 裏の自分を。

 だが、会えないというのは、寂しいものであった。


「では、皆様、こちらへ」


 カイリは、ヴィクトル達を部屋へと案内した。



 その後、会議は、すぐに、行われた。

 ダリア、コーデリア、キウス兵長も、出席して。

 様々な議論が行われ、様々な解決案が、出たことにより、一旦、会議を終えることとなった。

 そして、その日の夜。 

 カイリは、誰にも、気付かれないように、ダリアの部屋に到着した。


「失礼します」


 カイリは、部屋へ入る。

 部屋には、ダリア、コーデリアが、カイリを待っていた。


「カイリ、こっちへいらっしゃい」


「はい」


 ダリアは、カイリを招く。

 カイリは、静かに、ダリアの元へと歩み寄った。


「いよいよ、今夜、決行ね」


「はい。ですが……」


 とうとう、この時が来てしまった。

 今夜、シャーマン達は、死ぬ。

 カイリの手によって。

 だが、カイリは、戸惑っていた。

 迷っているわけではない。

 シャーマン達を暗殺する為には、ヴィクトル達に、気付かれないようにしなければならないのだ。

 どうしたらよいかと、悩んでいた。


「大精霊と騎士の事は、安心して」


「え?」


「眠り薬を入れたコーヒーを用意させたわ。もちろん、メイドは、口封じさせたけど」


「そ、そんな事まで……」


 ダリアは、カイリの不安を取り除くように、語る。

 なんと、メイドに、眠り薬の入ったコーヒーを用意させたというのだ。

 彼らを眠らせれば、気付かれずに、暗殺を実行できるであろう。

 だが、ダリアは、衝撃的な言葉を口にする。

 眠り薬の入ったコーヒーを用意したメイドを殺させたというのだ。

 口封じの為に。

 カイリは、愕然としていた。

 そこまでしなくてもよかったのではないかと思うほどに。


「仕方がない事よ。これも、暗殺を成功させるため」


「……はい」


 ダリアは、カイリに説明する。

 まるで、惑わすかのように。

 カイリは、うなずくしかなかった。

 暗殺の為だと、自分に言い聞かせて。


「シャーマンは、部屋に呼び寄せておくわ。会議が行われた部屋にね。貴方が、呼んだことにしてね。あとは、任せたわよ」


「はい」


 ダリアは、シャーマン達を、会議が行われた部屋に呼び寄せるようだ。 

 手紙を送って。

 もちろん、差し出し人は、カイリだ。

 これで、シャーマン達は、部屋に集まるだろう。

 あとは、カイリが、彼らを殺すだけであった。


「必ずや、成功させてみせます」


「ええ」


 カイリは、右膝をついて、頭を下げる。

 忠誠を誓うかのように。

 迷いなどなかった。

 ダリアとコーデリアを守るためなら、誰であろうと殺すのみだ。

 カイリは、そんな危険な意思を抱いていた。 

 自分でも、気付かないほどに。

 カイリが、部屋を出た後、ダリアとコーデリアは、微笑んでいる。

 それも、不気味に。


「これで、シャーマン達は、死ぬわね。そして、大精霊も」


「ええ」


 コーデリアは、確信を得ていたのだ。

 カイリの手により、シャーマン達が、死ぬと。

 そして、大精霊も、アマリアの力で、封印されるだろう。

 全ては、計画通りだ。


「あともう少しで、世界は、私達のものよ」


「ふふ、楽しみだわ」


 コーデリアは、ダリアに抱き付く。

 まるで、無邪気な子供のように。 

 ダリアも、コーデリアの腕に振れ、微笑んでいた。

 うれしくてたまらないのだろう。 

 もうすぐで、世界が手に入るのだと思うと。

 なぜなら、カイリをシャーマンに殺させる理由は、ただ一つ。

 あと、もう少しで、魔神が復活する予定だったからだ。

 魔神が復活すれば、ダリアも、コーデリアも、世界を手に入れられる。

 そう思っていた。



 その頃、アマリアは、部屋で待機していた。

 ダリアの命令が来るまで。


「そわそわしてしまうわ……」


 話を聞かされたアマリアは、そわそわしている。

 本当は、待ってなどいられないのだ。

 大精霊が、いつ、暴走するのか、わからないのだから。

 そう思うと、アマリアは、居てもたっても居られなかった。


「大精霊の様子を見に行ったほうがいいかしら……」


 まだ、ダリアの命令は、来ていない。

 だが、アマリアは、思わず、部屋から出てしまったのだ。

 大精霊の事が気になって。

 


 アマリアは、大精霊とシャーマンの部屋を周り、ノックするが、返事がない。

 どの大精霊も、シャーマンも。


「誰も、返事をしない。眠っているの?」


 返事がないという事は、寝静まったのではないだろうか。

 アマリアは、そう、推測する。

 眠っているという事であれば、暴走は、起きるはずもない。

 アマリアは、安堵しかけた。 

 だが、その時だ。

 仮面をつけた金髪の男性を見かけたのは。


「あれは、誰?」


 アマリアは、仮面の男性を不審に思ったのだ。

 明らかに、異常だ。

 仮面をつけているのだから。

 アマリアは、気付かれないように、仮面の男性を尾行した。 

 だが、角を曲がると、仮面の男性は、姿を消していたのだ。


――いなくなった。どこにいったのかしら?仮面をつけていたけど……。


 アマリアは、あたりを見回す。

 周辺は、暗くて、良く見えない。 

 自分が、尾行した事に、気付いてしまったのだろうか。

 不安に駆られるアマリア。

 彼は、一体、何者だったのだろうか。

 アマリアは、思考を巡らせた。


――まさか!?


 アマリアは、ある事を思い出した。

 それは、噂で聞いた暗殺者の話だ。

 まさか、彼は、その暗殺者なのではないだろうか。

 アマリアは、焦燥に駆られ、走り始めた。

 仮面の男性を捕らえる為に。



 その頃、シャーマン達は、会議が行われた部屋に集まっていた。

 手紙を読んだのだろう。

 手紙の内容は、話があるから誰にも、気付かれないように来てほしいという、短い文であった。

 だからこそ、シャーマン達は、不安に駆られながらも、部屋に来たのだ。

 何か、深刻な話があるのではないかと、推測して。

 その時であった。

 ノックの音が部屋に響いたのは。


「はい。どちら様ですか?」


「私です。カイリです」


「おお、カイリ様でしたか。お待ちしておりましたぞ」


 ハグネットが、扉の前に立ち、問いかける。

 警戒しているようだ。

 だが、カイリの声を聞いたハグネットは、安堵し、扉を開けた。

 すると、目の前にいたのは、仮面をつけた金髪の男性・暗殺者となったカイリであった。


「なっ!!」

 

 ハグネットは、驚き、動揺する。

 他のシャーマン達もだ。

 だが、時すでに遅し、仮面をつけた金髪の男性・カイリは、ハグネットを押し、強引に部屋に入り、鍵をかける。

 そして、すぐさま、短剣を取り出し、ハグネットの左胸を刺した。


「かはっ!!」


 ハグネットは、血を吐き、仰向けになって倒れる。

 一瞬の出来事であった。 

 ついに、カイリは、ハグネットを、火のシャーマンを殺してしまったのだ。

 ダリア達の事を疑うことなく。


「な、何者だ!!」


「私は、暗殺者だ」


 他のシャーマン達は、構える。

 身が硬直しそうになりながらも。

 戦おうとしているのだ。

 そうでなければ、殺されてしまうからであろう。

 カイリは、自分が何者なのかを、明かした。

 暗殺者であると。


「覚悟しろ、罪人どもよ」


 カイリは、構え、シャーマン達をにらみつける。

 彼らの事を罪人と呼んで。

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