第六十一話 騙されているとは知らずに

 全ては、うまくいっている。

 これで、邪魔する者は、排除できる。

 自分の手を汚さずに。 

 ダリアも、コーデリアも、アライアも、そう思っていた。

 この計画に加担していたのは、この三人だ。

 だからこそ、カイリは、知らない。

 自分は、騙されていたなどと。

 会議の日は決まった。

 今日、決行だ。

 会議も、暗殺も。

 カイリは、そう、決意を固めて、アマリアと共に、女帝の間に入った。


「待っていたわ。カイリ、アマリア」


 カイリとアマリアを出迎えてくれたのは、ダリアだ。

 それも、優しい笑みを作って。 

 コーデリアも、カイリとアマリアを待っていたようで、微笑んでいる。

 カイリとアマリアは、頭を下げて、ダリアの元へと歩み寄った。


「あなた達を呼んだのはね、実は、会議に出席してほしいの」


「会議に、ですか?」


「ええ」


 ダリアは、カイリとアマリアを呼んだ理由を明かす。

 実は、今日、開催される緊急会議に出席してほしくて、それを頼むために、呼び寄せ他のだ。

 だが、アマリアは、問いかける。

 カイリが、出席するのは、理解できるが、自分も、出ていいのだろうか。

 アマリアの問いに、ダリアは、強くうなずいた。


「ねぇ、お母様、私は?」


「もちろん、貴方もよ。コーデリア」


 コーデリアは、無邪気に問いかける。

 もちろん、皇族であるコーデリアも、出席させる予定だ。

 皇族として。

 そして、シャーマンの命が散るのを見届ける為に。

 ダリアは、微笑んで、うなずいていた。


「会議とはいったい……」


「最近、妖魔が、増えているのは、知っているかしら?」


「はい、知っています」


 アマリアは、ダリアに問いかける。

 どのような会議を開くというのだろうか。

 ダリアは、説明し始めた。

 実は、エデニア諸島に妖魔が、出現しているのだ。 

 それも、頻繁に。

 もちろん、アマリアも、知っている。

 ヴァルキュリア達が、何度も、出動していると聞かされているのだから。


「だから、エデニア諸島のシャーマン、大精霊、騎士と会議を開くことになったのよ。彼らをこの帝国に招くつもりなの」


「そうだったんですね」


「ええ。でも、これは、内密よ。ヴァルキュリアにも。不安にさせたくないから」


 危機感を感じ、シャーマンや大精霊、騎士を呼ぶことになっているのだ。

 もちろん、そんな理由ではないが。

 しかも、暗殺の事が知られないように、極秘にしておいたのだ。

 騎士を呼んだのは、違和感を感じさせないために。

 恐ろしく、巧妙な手口であった。


「でもそれは、真実を知るための、嘘」


「え?」


 すると、ダリアが、突然、真実を打ち明ける。

 なんと、緊急会議を開く理由は、妖魔の出現が、頻繁ではないと。

 アマリアは、驚き、あっけにとられていた。

 そして、カイリもだ。

 予想もしていなかったのだ。

 まさか、アマリアに、真実を打ち明けるとは、思いもよらなかったのだろう。


「あなた達には、真実を探ってほしいの」


「真実、ですか?」


「ええ」


「……」


 ダリアは、カイリとアマリアに指示する。

 だが、真実とは一体、何だろうか。

 何も知らないアマリアは、問いかけると、ダリアはうなずく。

 カイリは、何も言えなかった。 

 ここで、止めなければならない。

 そう思っていたのだが、ダリアが、ふと、カイリに視線を送っていたのだ。

 何も言うなと。


「噂によると、大精霊が、暴走していることがあるらしいの」


「大精霊が!?」


 ダリアは、嘘をつき始める。

 なんと、大精霊がぼそうしていている事があるというのだ。

 アマリアは、驚愕する。

 そのような話は、一度も聞いた事がない。

 アマリアは、信じられなかったのだ。

 大精霊は、エデニア諸島を守ってきたのだから。


「信じられないわよね。私も、そんな事はないと思いたいのだけれど……」


 ダリアは、深刻そうな表情を浮かべる。

 だが、カイリだけは、動揺していた。

 アマリアに、何をさせるつもりなのかと、警戒しながら。

 大精霊を殺すなとは、聞かされていたが、まさか、アマリアに殺させるつもりではないだろうかと、推測し始めた。


「大精霊が暴走すると、どうなるのですか?」


「妖魔が、出現するという噂も、聞いているわ」


「そんな……」


 アマリアは、ダリアに問いかける。

 信じ込んでいるようだ。

 もし、大精霊が、暴走とするとどうなってしまうのかと、心配しているのだろう。

 ここで、ダリアは、さらに、嘘をつく。

 暴走したら、妖魔が、出現すると。

 アマリアはが、愕然とした。

 すでに、ダリアの話を信じているようだ。


「だから、貴方達には、大精霊が、本当に、暴走しているのか、探ってほしいの」


「も、もし、本当に、暴走してしまったら、どうすれば……」


 ダリアは、アマリアに、依頼した。

 大精霊の事を探るようにと。

 すると、アマリアは、恐る恐る尋ねた。

 仮に、大精霊が、暴走したとなれば、どうすればいいのか。

 アマリアも、困惑しているのだろう。


「残念だけど、一度、封印するしかないわね」


「そうですか……」


 ダリアは、アマリアの問いに答える。

 封印するしかないと。

 これが、ダリアの目的だったのだ。

 一度、大精霊を封印させようとしている。

 どうやってかは、不明だ。

 アマリアも、深刻そうな表情を浮かべていた。

 心が痛んでいるのだろう。

 大精霊を封印しなければならないと思うと。


「アマリア、お願いできるかしら?」


「え?」


 残酷だ。

 ダリアは、アマリアに、大精霊を封印させようとしているのだ。

 これには、さすがのカイリも、驚きを隠せない。

 そして、アマリアの方へと視線を向けた。

 気になるのだろう。

 アマリアが、なんと答えるのか。


「……はい」


「ありがとう」


 少々、黙っていたアマリアであったが、決意を固めたようで、うなずく。

 アマリアの決意を聞いたダリアは、笑みを浮かべていた。

 まるで、安堵しているかのように。

 だが、カイリは、困惑していた。

 アマリアの事を想うと、心配なのだろう。



 アマリアが、女帝の間を去った後、カイリは、ダリアの元へと歩み寄った。


「母上、なぜ、アマリアに、あのような事を、依頼したのですか?」


「仕方がない事なのよ。だって、アマリアにしかできない事だもの」


「ですが……」


 カイリは、ダリアに問い詰める。

 しかも、珍しく怒りを露わにしているようだ。

 当然であろう。

 大精霊をアマリアに封印させるなど、残酷な事だ。

 手を汚すのは、自分だけで、十分なはずなのに。

 ダリアが、何を考えているのか、カイリには理解できなかった。

 だが、ダリアは、平然と答える。

 確かに、大精霊を封印できるのは、アマリアしかいないのだ。

 なぜ、そのような力を持っているのかは、不明だが。


「なら、カイリが何かしてくれるって言うの?大精霊は、殺しても、精霊が、新たな大精霊になるだけよ?」


「そ、そうですが……」


 反論しようとするカイリに対して、コーデリアが、問いかける。

 コーデリアの言う通り、仮に、カイリが、大精霊を殺したとしても、新たな大精霊は、生まれる。

 他の精霊が、大精霊の力を受け継ぐのだ。

 大精霊を食い止めるには、大精霊を封印するしかない。

 コーデリアは、そう言いたいのだろう。

 それでも、カイリは、納得できなかった。

 アマリアを巻き込みたくなくて。


「わかってちょうだい、カイリ。これは、私達の為でもあり、帝国とエデニア諸島の為なのよ?」


「……はい」


 ダリアは、カイリに懇願する。

 世界を守るためなのだと。

 致し方ないと言いたいのだろう。

 もはや、カイリは、反論もできなかった。

 大精霊を食い止める方法すら、見つからず。



 昼頃なると、カイリとアマリアは、裏口の立つ。

 シャーマン、大精霊、そして、騎士を出迎えるためだ。

 極秘の為、裏口で迎えることになっていた。


「そろそろ、来る頃ですね」


「ああ」


 アマリアは、カイリに声をかける。

 緊張しているようだ。

 当然であろう。

 ダリアから、極秘に命じられているのだから。

 だが、カイリは、どこか、上の空であった。

 アマリアの事を想うと、何も、考えられないのだろう。


「どうされましたか?」


「……なんでもない」


「そうですか」


 アマリアが、心配したのか、カイリに声をかける。

 だが、カイリは、何でもないと、答えてしまった。

 アマリアに悟られないように。

 アマリアは、それ以上は、問う事はなかった。

 何か、隠している気がしたが、カイリは、答えないだろうと、悟って。

 その時であった。


「シャーマン様、大精霊様、騎士様が、到着されました!!」


 共に待機していたキウス兵長が、報告しに来る。

 なんと、シャーマン、大精霊、騎士が、姿を現す。

 とうとう、彼らが来たのだ。


――あいつらが……。


 シャーマンと大精霊を目にしたカイリは、怒りを露わにした。

 許せないのだ。

 ダリアとコーデリアの命を狙っていると思うと。

 それも、全て、嘘だというのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る