第六十三話 ためらうことなく……
「ふ、ふざけるな!!誰が、罪人だ」
リースが、怯えながら、叫ぶ。
怒りを露わにしているのだ。
自分達が、罪人呼ばわりされたからであろう。
「そうよ、貴方こそ、罪人じゃない!!」
「ハグネットを、なぜ、殺したのですか!!」
リーシアやネラの言う通りだ。
罪人は、自分達ではない。
間違いなく、カイリだ。
ハグネットを殺したのだから。
殺された理由でさえ、見つからない。
ゆえに、ネラは、カイリに問いただした。
「答えるつもりはない」
カイリは、答えるつもりは、毛頭なかった。
白をきっていると思い込んでいるのだろう。
ダリアとコーデリアの命を狙っていると、嘘を吹き込まれたのだから。
カイリは、冷たい瞳で、冷たい声で、冷たく突き放した。
「死んでもらうぞ」
カイリは、床を蹴り、リース達に迫っていく。
殺そうとしているのだ。
ダリアとコーデリアの為に。
カイリが、狙いを定めたのは、水のシャーマンであるリースであった。
「このっ!!」
リースは、とっさに、魔技・スプラッシュ・ブレイドを発動する。
殺気を感じたのだ。
カイリから。
自分が、真っ先に殺されると感じたのだろう。
だが、反応が遅かったため、カイリは、いとも簡単に、回避してしまい、リースの元へと迫った。
リースは、体が、硬直してしまう。
回避することすらもできない。
カイリは、短剣をリースの左胸へと突き刺した。
「がはっ!!」
「リース!!」
リースが、血を吐き、仰向けになって倒れる。
また一人、カイリは、命を奪ってしまったのだ。
罪のないリースの命を。
ネラは、体を震わせる。
恐怖が支配し始めたのだ。
カイリに殺されると感じて。
だが、カイリは、暗殺を止めようとしなかった。
カイリが、狙ったのは、ネラであった。
「させません!!」
リーシアは、ネラを守るために、魔技・ストーム・アローを発動する。
風の矢が、カイリに襲い掛かるが、カイリは、いとも簡単に回避した。
それでも、リーシアは、魔技を発動した始めたのだ。
ネラを守るために。
カイリは、狙いをリーシアへと変更する。
どちらでも、良かったのだ。
シャーマンを全員、殺すつもりなのだから。
カイリは、矢を切り裂き、リーシアへと迫る。
リーシアは、それでも、魔技を発動しようとするが、カイリが、彼女よりも先に行動を起こす。
彼女の首を切り裂いてしまったのだ。
「ぐっ!!」
「リーシア!!」
リーシアは、苦悶の表情を浮かべ、そのまま、前のめりになって倒れ込んだ。
ついに、残りは、ネラだけになってしまったのだ。
それでも、カイリは、容赦なく、ネラに迫ろうとしていた。
「こ、来ないで!!」
ネラは、怯えながらも、魔技・アース・インパクトを発動する。
だが、カイリは、それを回避し、ネラの背後に迫る。
ネラは、反応することもできず、背中を刺されてしまった。
「っ!!」
ネラも、前のめりになって、倒れる。
体を震わせながら。
カイリは、容赦なく、短剣を引き抜く。
ネラの背中から、血が流れ始めた。
「ごめんね……。ネロウ……」
ネラは、涙を流して、息子のネロウに謝罪する。
ネロウを残して、死んでしまう事を申し訳なく感じて。
ネラは、ゆっくりと、瞼を閉じ、息を引き取った。
ついに、カイリは、全員、殺してしまったのだ。
無残にも。
「全員、死んだな。これで……」
カイリは、確信した。
シャーマンは、全員死んだ。
ダリアとコーデリアも、狙われずに済むであろう。
任務は、完了したと、言いたいようだ。
だが、その時であった。
扉が、勢いよく、開いたのは。
「っ!!」
カイリが、驚愕し、振り向く。
扉を開けたのは、フランクであった。
眠っているはずの。
なぜ、眠り薬が入ったコーヒーを飲んだはずのフランクが、ここにいるのだろうか。
カイリは、見当もつかなかった。
「な、なんだ。これは……」
フランクは、あたりを見回す。
フランクの目には、血を流して倒れているシャーマン達が映った。
動揺しているようだ。
当然であろう。
シャーマン達が、殺されたのだ。
目の前にいる金髪の仮面の男性に。
素顔が、見えず、フランクは、まだ、気付いていない。
目の前にいる男性が、カイリだという事に。
「お前が、やったのか?」
「……」
フランクは、カイリに問いかける。
だが、カイリは、答えようとしなかった。
答えられないのだ。
予想外の事が、起こり、困惑している。
まさか、フランクが、部屋に入ってくるとは、思いもよらなかったのだろう。
彼が、部屋に入ってこなければ、シャーマン達は、カイリのまがまがしい力によって、消滅していたというのに。
「答えろ!!」
フランクは、声を荒げる。
怒りを露わにしているのだ。
許せないのだろう。
カイリの事が。
「そうだ。私が、殺した」
「なんでだよ!!お前は、誰なんだ!!」
カイリは、静かに、答える。
あくまで、暗殺者として。
フランクに悟られないように。
答えを聞いたフランクであったが、ますます、理解できない。
なぜ、シャーマン達が、殺されなければならないのか。
そして、目の前にいる男性は、一体に、何者なのか。
「……私は、暗殺者だ」
「暗殺者?」
カイリは、正体を明かした。
暗殺者であると。
フランクは、問いただした。
なぜ、暗殺者が、ここにいるのか。
だが、カイリは、これ以上、答えようとしなかった。
「見られてしまっては、仕方がない」
カイリは、決意を固めてしまったようだ。
本来なら、シャーマン達を消滅させて、姿を消すつもりであった。
だが、フランクに見られてしまったのだ。
となれば、カイリが、取るべき行動は、たった一つしかなかった。
「お前も、殺す」
カイリは、フランクを殺すことにしたのだ。
真実を闇に葬り去るつもりなのだろう。
そのためには、フランクを殺すしかなかった。
カイリは、構えた。
暗殺者として。
「なめるなよ、小僧が!!」
フランクは、剣を鞘から引き抜く。
カイリの事を、自分よりも、若い小僧だと思い込んでいるようだ。
島を守る海賊の長として、妖魔や妖獣と戦い続けてきたフランク。
ゆえに、正体不明の暗殺者に負けるはずがなかった。
カイリは、すぐさま、床を蹴り、フランクに向かっていく。
だが、フランクは、体をよじらせ、カイリの短剣を回避したのだ。
そして、そのまま、懐に入り込み、カイリの胸へと剣を刺そうとする。
殺すつもりなのだ。
カイリを。
だが、カイリも、強引に、体をよじらせる。
完全には、回避できず、右腕を斬られてしまった。
「ぐっ!!」
「もらった!!」
カイリは、苦悶の表情を浮かべる。
カイリの表情を目にしたフランクは、再び、カイリに斬りかかろうとする。
だが、カイリは、肘で、フランクの手を殴りつける。
フランクは、手に痛みを感じ、剣を手放してしまった。
「なっ!!」
フランクは、あっけにとられる。
予想もしていなかったのだ。
まさか、自分が、剣を手放してしまうとは。
フランクが、呆けているうちに、カイリは、フランクの剣を手にする。
剣を奪ってしまったのだ。
フランクは、手を伸ばし、剣を奪い返そうとするが、時すでに遅し。
カイリは、フランクの右腕を斬り落としてしまった。
「ぎゃああああああああっ!!」
フランクが、絶叫を上げる。
血しぶきが飛び、激痛が走っているだろう。
想像つかないほどの。
それでも、カイリは、冷酷な表情を保っている。
まるで、フランクを敵とみなしているようだ。
うずくまるフランクに対して、カイリは、迫る。
それも、容赦なく。
「悪いが、死んでもらう」
カイリは、剣を振り上げる。
フランクを殺すつもりなのだ。
激痛に耐えられないフランクは、ただただ、顔を上げることしかできなかった。
抵抗する事もできないまま。
カイリは、容赦なく、フランクに向かって、剣を振り下ろした。
その時であった。
「フランクさん!!」
「っ!!」
なんと、アマリアが、部屋に入ってきたのだ。
これには、さすがのカイリも、驚きを隠せず、剣を手放してしまう。
予想もしていなかったのだ。
アマリアだけには、知られたくなかったのだ。
こんな自分を。
剣は、床にたたきつけられ、カランと音を立てた。
「こ、これは……」
アマリアは、体を震わせる。
見てしまったのだ。
血を流して倒れているシャーマン達。
右腕を切り落とされたフランク。
そして、血を浴びた冷酷な暗殺者を。
仮面のせいで素顔が見えない。
ゆえに、まだ、気付いていない。
暗殺者が、カイリだとは。
「貴方が、やったのですか?」
アマリアは、声を震わせて、問いかける。
だが、カイリは、答えようとしない。
答えられなかったのだ。
カイリは、思わず、アマリアとフランクに背を向け、そのまま、走っていく。
そして、腕を顔の前に出し、窓を割って、逃げてしまった。
「待ちなさい!!」
アマリアは、叫ぶが、すでに、カイリの姿は見えない。
これは、カイリにとっても、アマリアにとっても、最悪の事態となってしまった。
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