第五十一話 暗殺者の正体は

「さて、どうすればいいんだろうな」


「カイリに会えれば、良いんだがな」


「どこにいたかなんて、聞けないしな」


 クロスは、困惑しているようだ。

 これから、どうやって、暗殺者を探すか。

 クロウは、カイリに問いかけようとしているようだ。

 直接。

 もちろん、カイリが、暗殺者だとは決まっていない。

 だが、二人は、疑っていたのだ。

 カイリが、暗殺者ではないかと。

 もちろん、信じたくはないが。


「王宮に行ってみないか?」


「え?」


「俺達は、騎士だ。王宮に入れると思う」


「状況を確認するしかない、か」


「うん」


 クロスは、クロウに、王宮にはいる事を提案する。

 研究所は、入れなかったが、王宮は、入れない事はないのではないかと、推測したようだ。

 騎士であるなら、問題ないのではないかと。

 王宮に入り、部屋の中を調べようとしているのだろう。

 もちろん、手掛かりが残っているとは限らないが。



 クロスとクロウは、王宮の入り口に到達した。

 帝国兵は、クロスとクロウを見るなり、すんなり、通してくれたのだ。

 どうやら、立ち入り禁止と言うわけではないようであった。


「入れたな」


「うん。良かった。入れなかったら、どうしようかと思った」


「そうだな」


 クロスとクロウは、安堵しているようだ。

 当然であろう。

 もし、入れなかったら、手掛かりをつかむことはできないのだから。


「さて、例の部屋に行ってみるか」


「うん」


 クロスとクロウは、事件が起こった部屋へと向かう。

 真相を知るために。

 しばらくして、二人は、例の部屋にたどり着いた。


「ここなんだよな?」


「フランクが、言ってた。間違いない」


 クロスは、確認するように問いかける。

 どこも、似たような造りの為、迷いかけたのだ。

 だが、クロウは、確信を得ていた。

 フランクから、聞かされていたのだ。

 事件が起こった場所を。

 帝国兵はいない。

 配置できなかったのだろう。 

 もし、見張りを配置したら、事件の事が知られてしまうと推測して。

 クロスは、扉を開けようとする。

 だが、扉には鍵がかかっており、開かなかった。


「開かないな」


「ああ」


「何か、手掛かりがあればいいんだけどな……」


「……」


 部屋に入れないとなると、手掛かりを探すことはできない。

 他の部屋も、鍵がかかっているだろう。

 ゆえに、他の部屋から侵入する事も、不可能だ。

 一つでもいい。 

 手掛かりが、欲しい。

 だが、そう簡単に見つかるはずもない。

 クロスとクロウは、どうするべきなのか、迷っていた。

 その時であった。


「あなた達は……」


「ん?」


 女性の声が聞こえる。

 自分達に語りかけているようだ。

 クロスは、静かに振り向く。

 クロウも、振り向くと、二人の背後には、女性が立っていた。

 彼女は、金髪で、品のある高貴な女性だ。

 皇族の者なのだろうか。


「騎士、ですか?」


「あ、はい」


 女性はクロス達に問いかける。

 一目見て、騎士だとわかったようだ。

 もちろん、古の剣を見たからであろう。

 どうやら、ただ者ではないらしい。

 クロウは、そんな気がしてならなかった。


「貴方は?」


「私は……アマリアと申します」


 クロスが、女性に問いかけると、女性は、自己紹介をした。

 「アマリア」と言うの名は、クロスとクロウも、聞いた事がある。

 聖女と呼ばれる女性の名だ。

 まさか、こんなところで、会うとは思うもよらなかったのだろう。


「私は、クロスです。光の騎士です。で、こっちが……」


「闇の騎士・クロウだ。クロスの双子の兄だ」


「そうですか、あなた方が……」


 クロスとクロウが、自己紹介をする。

 騎士であり、双子である事を。

 すると、アマリアが、何かを悟ったかのような反応をした。

 騎士だから、当然なのかもしれない。

 だが、何かが違う気がした。

 アマリアは、それ以上、語らなかったが。


「あなた方は、知っているんですね。ここで、何が起こったのか」


「はい」


 アマリアは、クロスとクロウに問いかける。

 察してのだろう。

 二人が、ここを訪れた理由を。

 事件の事を知っているのだと。

 クロスは、正直に、うなずいた。

 嘘偽りなく。


「あんたもか?」


「クロウ」


「いいですよ、お気遣いなく」


 クロウは、ため口で、アマリアに問いかける。 

 しかも、アマリアの事を「あんた」と呼んで。

 これには、さすがのクロスも、慌てて、クロウを止める。

 アマリアは、聖女と呼ばれる方であり、身分は、皇族同然だ。

 ゆえに、焦燥に駆られたのだろう。

 だが、アマリアは、気にも留めていないようだ。

 アマリアの反応を目にしたクロスは、少々、安堵していた。


「私も、あの時、いました。その部屋で、暗殺者を目撃しました」


「顔は?」


 アマリアは、正直に語る。

 事件の真相を。

 なんと、アマリアは、見てしまったのだ。

 暗殺者が、シャーマンを殺してしまったのを。

 クロウは、冷静な態度で、アマリアに問いかける。

 だが、アマリアは、首を横に振った。


「見ていません。仮面をつけていましたから」


 アマリアは、見てないようだ。

 暗殺者は、仮面をつけていた。

 だから、何者なのか、不明なのだろう。


「最悪の事態となりました。シャーマンは殺され、フランクは右腕を切り落とされ、カイリも腕に怪我を負ったのですから」


「え?」


 アマリアは、さらに、事実を語った。

 本当に、最悪の事態だ。

 だが、最後の言葉を聞いたクロスは、驚いた。

 クロスとクロウが、聞いたのは、シャーマンが殺されたのと、フランクが右腕を切り落とされた事だ。

 大精霊が行方不明になった事も、聞かされたが、アマリアは知らないらしい。

 目にしていないからだろうか。

 いや、それよりも、衝撃的な言葉をアマリアは、口にした。

 なんと、カイリも怪我を負ったというのだ。


「カイリが?腕に?」


「え?ええ」


 クロスが、アマリアに尋ねる。

 信じられないのだろう。

 そのような話を聞いていなかったのだから。

 アマリアは、戸惑いながらも、正直に、うなずいた。

 どうやら、本当のようだ。


「それは、暗殺者にですか?」


「そう言っていました。剣で斬られました。この目で見ましたから」


「……」


 クロスは、さらに問いかける。

 暗殺者に腕を斬られたというのだろうか。

 アマリアは、語った。

 なんと、剣で斬られたというのだ。

 しかも、アマリアは、目にしているという。

 まぎれもない事実なのだろう。


「短剣ではなく?」


「はい。剣を奪われたと言っていましたから」


 暗殺者は、短剣を所持していたとフランクから聞かされていた。

 だからこそ、違和感を覚えたのだ。

 なぜ、アマリアは、剣で斬られたと語ったのか。

 アマリア曰く、剣を奪われたというのだ。

 フランクのように。

 これは、一体、どういう事なのだろうか。


「もう一つ、聞きたいことがある」


「なんでしょうか?」


「紋章は、誰が持てるんだ?」


「皇族と私、兵長クラスですね」


「貴族は持てないのか」


「そうですね」


 クロウも、アマリアに問いかけた。

 紋章の事が気になったのだ。

 紋章は、皇族や兵長クラス、そして、貴族が持てるという話を聞いていた。

 だが、どうやら、アマリアの話によると、貴族は持てないらしい。

 代わりに、アマリアは、持っているというのだ。

 紋章の話は、カイリから聞いた事がある。

 カイリが、嘘をついていたというのだろうか。

 だが、これで、誰が、暗殺者なのか、絞られることとなった。


「じゃあ、この事件を知っているのは?」


「あの会議に出席した者です。全て、極秘でしたから」


「じゃあ、貴族は知らないのか?」


「ええ」


 シャーマンが殺されたのを知っているのは、会議に出席した者のみのようだ。

 護衛をしていた兵士達も、含まれているのだろう。

 何しろ、極秘で行われた事だ。 

 ゆえに、ごく一部の者しか知らない。

 貴族も知らないようだ。

 クロウが、確認するように問いかけると、アマリアは、うなずいた。


「他の方は、怪我をしていなかったんですか?」


「ええ。そのようですね」


「そうですか……」


 クロスは、確認するように尋ねるが、やはり、怪我を負ったのは、フランクとカイリのみのようだ。

 アマリアが、嘘をついているとは思えない。

 嘘をついても、デメリットがないのだ。

 アマリアは、暗殺者の事を知らない。

 ゆえに、かばうはずがなかった。


「あの、カイリ皇子はどこに?」


「部屋にいると思います。療養するようにと女帝・ダリア様に言われていましたから」


 最後に、クロスとクロウは、カイリの居場所を尋ねた。

 その理由は、たった一つだ。 

 暗殺者の正体を見抜いてしまったからであろう。

 何も気付いていないアマリアは、正直に答えた。

 どうやら、カイリは、自室にいるらしい。

 ダリアの指示だと言うが。


「ありがとうございました。では、失礼いたします」


「はい」


 クロスは、お礼を言って、頭を下げる。

 クロウも、不器用に、頭を下げた。

 彼らの反応を目にしたアマリアは、何も、気付くことなく、頭を下げて、去っていく。

 静かに。

 だが、彼らは、まだ、知らなかった。

 去った後、アマリアの表情が暗いことに。


「気付いたな?」


「うん」


 クロウは、問いかける。

 まるで、確認するように。

 暗殺者が、誰なのか、気付いたのかと。

 もちろん、クロスは、気付いてしまった。


「暗殺者は……カイリだ」


 衝撃的だった。

 シャーマンを殺した暗殺者は、カイリだったのだ。

 クロスとクロウが慕っていた人物が、自分達を裏切っていた。

 そう思うと、クロスとクロウは、体を震わせていた。

 怒りを抑えきれなくて。

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