第五十話 狂い始めた運命

「元気にしてた?」


「あ、うん」


 クロスは、ルチアに問いかける。

 もちろん、何気ない会話だ。

 再会して、喜んでいるのだ。

 だが、ルチアは、戸惑いながらも、返事をしている。

 一体、どうしたのだろうか。


「どうした?」


「何でもないよ」


 クロウは、ルチアの様子に気付き、問いかける。

 だが、ルチアは、笑みを浮かべて、答えた。

 何でもないと。

 それでも、クロウは、ルチアの事を気遣った。

 何か、隠しているのだと察して。


「二人も、ヴァルキュリア候補を探してるのか?」


「うん。話は聞かせてもらった」


「だから、ここに来た」


 ヴィオレットは、二人に問いかける。

 ここにいるという事は、ヴァルキュリア候補を探しているのではないかと、推測したようだ。

 やはり、自分達が、ここを訪れている事は、聞いているのだろう。

 ヴィオレットの問いに、クロスは、うなずいた。

 事情は、全て、聞いたと。

 もちろん、暗殺者がシャーマンを殺したことは、隠して。

 言えるはずもなかった。

 だが、ヴィオレットは、違和感を覚えているようだ。 

 そんな気がしてならなかった。


「それに、気になる事もあるしな」


「気になる事?」


「ああ」


 クロウは、静かに語る。

 ここに来た理由は、ヴァルキュリア候補を探すだけではないらしい。

 気になる事があると。

 だが、詳しくは語らないつもりではあるが。

 ルチアは、問いかけるが、クロウは、うなずくだけだ。

 答えるつもりはなかった。

 どうしても。

 ルチアは、悟ったのか、それ以上は、問いかけなかった。


「しばらくの間は、帝国に滞在することになるから、よろしく」


「うん」


 クロスは、ここに滞在する事を話す。 

 ヴァルキュリア候補を見つけ出しても、ここに残る事を話したのだ。

 もちろん、理由は、語らなかったが。

 何かを察したのか、ルチアとヴィオレットは、問いかけず、うなずいた。


「行くぞ」


「うん」


 クロウは、ルチア達を連れて、歩き始める。 

 聞き込みをする為であろう。

 ルチアは、うなずき、クロウについていった。

 もちろん、ヴィオレットとクロスも。



 その後、クロス達は、聞き込みを開始した。

 レジスタンスのアジトにいる可能性があるが、もう少し、聞き込みをしてから出も、いいかもしれないと判断したようだ。

 だが、有力な情報は、中々得られなかった。

 ゆえに、レジスタンスの事を説明した。

 詳しく話してしまった為、どこから、聞かされたのかと、問いかけられたが、「ある人」と言ってごまかしたのだ。

 何とかして。

 その後、レジスタンスのアジトへと向かったクロス達。

 すると、ヴァルキュリア候補達が、酒場から出てきた。

 尾行するクロス達。

 ヴァルキュリア候補達に気付かれてしまったが、彼女達を捕らえ、問い詰めようとしたのだが、彼女達は、反撃を開始した。

 それでも、追い詰めたクロス達。

 だが、その時であった。

 なんと、彼女達が、妖魔に転じてしまったのだ。

 形勢逆転となり、クロス達は、追い詰められたが、ルチアとヴィオレットが、殺してしまった。

 すると、混乱してしまったのか、ルチアが倒れてしまったのだ。

 クロウは、ルチアを抱きかかえ、すぐ、王宮エリアにある研究所へ向かった。


「ルチア、しっかりしろ!!ルチア!!」


 ルチアに呼びかけるクロウ。

 だが、ルチアは、目を覚まさなかった。

 研究所にたどり着いたクロス達。

 すると、研究者達が彼らの元へと駆け付けた。


「どうされました!?」


「ルチアが、倒れたんです!!」


「わかりました。彼女は、私が」


 ヴィオレットが、研究者にルチアの事を話すと、研究者は、ルチアは自分が抱きかかえると告げ、クロウは研究者に託す。

 そして、研究所に入った研究者。

 ヴィオレットも、研究所へ入った。

 クロスとクロウも、続けて、入ろうとする。

 だが、その時であった。


「お待ちください。ここは、ヴァルキュリアと関係者以外は、立ち入り禁止です」


「え?」


 研究者は、クロスとクロウの前に立つ。

 なんと、二人は、研究所に入れないというのだ。

 クロスは、戸惑ってしまった。


「俺達、騎士だが。それでもか?」


「はい」


「わかった……」


 クロウは、問いかける。

 騎士であっても入れないのかと。

 研究者は、静かに、うなずいた。

 それも、冷たく。

 どうやら、入る事はできないようだ。

 クロウは、そう、判断し、うなずく。

 すると、研究者は、踵を返し、研究所へと入っていく。

 クロスとクロウは、取り残された気分となっていた。


「あいつ、大丈夫なのか?」


「わからない……」


 クロスは、クロウに問いかける。

 ルチアの事が心配なのだ。

 だが、クロウは、答えられなかった。

 彼でさえも、わからなかったのだ。

 ルチアの事が。


「ずっと、無理してたよな?」


「ああ。何も、言わなかった……」


「言えなかったのかもしれない……」


 クロスも、クロウも知っていた。

 ルチアが、無理をして、笑っていた事は。

 具合が悪いという話ではない。

 何か、隠し事をしている。

 それだけは、わかった。

 だが、ルチアは、頑なに答える事を拒んだ。

 笑って、ごまかしながら。

 クロウは、不安に駆られていた。

 本当に、ルチアは、大丈夫なのかと。


「ここで、待つか?」


 クロスが、クロウに問いかける。

 気遣ってくれたのだ。

 ここで待てば、ルチアの容態がわかるかもしれない。

 だが、クロウは、首を横に振った。


「ヴィオレットに任せる。俺達は、やるべきことがあるからな」


「いいのか?」


「……ああ」


 クロウは、ルチアの事をヴィオレットに任せることにしたようだ。

 本当は、知りたい。

 ルチアの事を。

 だが、今は、暗殺者の事を探らなければならない。

 シャーマン達の仇を取るためにも。

 クロスは、再度、確認する為に、問いかけるが、クロウは、うなずいた。


「その前に、報告しないとな。ヴァルキュリア候補の事を」


「そうだな。でも、なんていえば……」


 暗殺者の事も、気になるが、今は、カレンにヴァルキュリア候補の事を報告したほうがいいと、クロウは、判断したようだ。

 ルチアとヴィオレットの事を気遣ってのことだろう。

 だが、クロスは、苦悩していた。

 ヴァルキュリア候補が妖魔になった事を告げたほうがいいのか。

 ルチアとヴィオレットが、彼女達を殺してしまった事は、絶対に言えるはずがない。

 そもそも、なぜ、彼女達が、妖魔に転じてしまったのかも、不明だ。

 どうすればいいのか、クロスは、迷っていた。


「クロス、提案があるんだ」


「え?」


 クロウは、意を決したかのように、クロスに告げる。

 提案とは、一体、なんだろうか。

 クロスは、驚きつつも、クロウの話を聞いた。

 クロウの提案を聞き終えたクロスは、彼の提案を受け入れた。

 ルチアとヴィオレットの為に。

 その後、偶然、カレンが、研究所を訪れたのだ。

 ルチアの事を聞いて、心配になったのだろう。

 クロスとクロウは、カレンに報告した。

 ヴァルキュリア候補は、突然、襲い掛かり、ルチアとヴィオレットを殺そうとしたため、自分達が、正当防衛の為、殺してしまったと。


「あ、あの子達が……」


 カレンは、衝撃を受けているようだ。

 信じられないのだろう。

 まさか、ヴァルキュリア候補が、ルチアとヴィオレットを殺そうとしていたなどと。

 クロスとクロウは、正直、心が痛んだ。

 ルチアとヴィオレットを守る為とは言え、ヴァルキュリア候補を、悪人のようにしてしまったのだから。


「それは、本当なの?」


「ああ」


 カレンは、確認するように、問いかける。

 信じられるはずもない。

 だが、クロウは、感情を押し殺して、うなずいた。


「ごめん。捕らえるべきだとはわかっていたんだけど……」


「説得もしたんだが、どうする事もできなくて……」


 クロスとクロウは、嘘を重ねていく。

 その度に、心が痛んだ。

 だが、これも、彼女達の為だ。

 そのためなら、二人は、感情を押し殺し、偽った。


「あなた達のせいじゃないわ。ごめんなさいね。あの子達を守るためだったんでしょ?」


「……」


 カレンは、二人の話を信じたようだ。

 だからこそ、彼らを責めようとはしなかった。

 ルチアとヴィオレットを守ってくれたのだと、思い込んで。

 クロスとクロウは、これ以上、何も言えなかった。

 嘘をつきたくなくて。


「それで、ルチアは?」


「わからない。ヴィオレットがついてくれてるから、大丈夫だと思うんだけど」


「そう」


 カレンは、ルチアの事を尋ねる。

 ルチアが倒れたと知り、不安に駆られたのだ。

 だが、クロス達も、わからなかった。

 二人は、研究所に入ることさえ、許されなかったのだから。

 状況を察したのか、カレンは、それ以上、問う事はなかった。


「あなた達は、これから、どうするの?」


「調べたいことがあるんだ。少し、ここにいさせてほしい」


「泊まる所は決めてある。迷惑はかけない」


 カレンは、二人の事が気になったようだ。

 これから、どうするつもりなのか。

 クロスは、正直に答えた。

 調べたいことがあると。

 もちろん、宿屋は、確保してある。

 クロウは、そう、カレンに告げた。


「わかったわ。でも、泊まる所なら、用意できると思うけど」


「ありがとう。でも、大丈夫ですから」


「そう。本当に、ありがとう」


 二人の話を聞いたカレンは、うなずいた。

 二人の事を気遣って、泊まる所も用意しようとした。

 ありがたい事だ。

 だが、クロスは、丁重に断った。

 ヴァルキュリアの事は、信用できるが、帝国の事は信用できないのだ。

 シャーマンを殺したのは、暗殺者だが、帝国も同罪なのだから。

 カレンは、うなずき、お礼を言って、王宮へと戻っていった。

 ヴィオレットがいてくれるなら安心だろうと。

 だからこそ、自分は、待機室で待つことを決めたのだ。


「これで、良かったんだよな?」


「ああ。あいつらを守るためにはな」


 クロスは、クロウに問いかける。

 嘘をついてよかったのかと。

 クロウは、静かに、うなずいた。

 これも、ルチア達を守るためだと、自分に言い聞かせながら。


「クロス、わかっていると思うが」


「うん。調べに行こう。シャーマンを殺した暗殺者をな」


 クロスとクロウは、研究所から遠ざかった。

 暗殺者を見つけ、捕らえる為だ。

 本当は、すぐさま、仇を取りたいところではあるが、帝国が罠を仕掛ける可能性がある。

 だからこそ、二人は、捕らえる事を決意したのだ。

 罪を償わせるために。

 だが、この時、二人は、まだ、知らなかった。

 真実は、残酷である事を。

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