第四十八話 全て、仕組まれていた

「シャーマンが、殺された?」


「……」


 クロスは、衝撃を受けている。

 信じられないのだろう。

 シャーマンが殺されたなど。

 信じたくなかったのだ。

 だが、ヴィクトル達は、黙っている。

 まるで、肯定しているように思えてならなかった。

 信じるしかないのだと。


「何かあったか、説明してくれるか?」


「ああ」


 クロウが、問いかける。

 それも、冷静に。

 まずは、何があったのか、知るべきだと思ったのだろう。

 ヴィクトルは静かにうなずいた。

 もう、沈黙してはいけないのだと。

 クロスとクロウに、真実を伝えるべきだと考えたのだろう。


「会議は、順調に進んでいたんだ。結界を強め、俺達やヴァルキュリアが、各地に派遣する事で、妖魔を減らそうと」


「同時に、妖魔がなんで、出現するのかも、調べるつもりだったんだ」


 ヴィクトルが、静かに、語った。

 彼らが、帝国に到着し、しばらくしてから、会議が行われたのだ。

 騎士、シャーマン、大精霊、フランク、そして、ダリア、コーデリア、カイリ、キウス兵長が、会議に参加した。

 ヴァルキュリア達は、参加していないようだ。

 彼女達には、まだ、教えていない。

 会議を開くことを。

 つまり、これは、本当に、極秘だったのだ。

 深刻な状態ではあったが、次々と対策が提案された。

 ルゥは、帝国の研究者と協力して、妖魔が出現する理由を調べるつもりだったのだ。

 会議は、本当に順調に進んでいた。

 だが、事件が起こったのは、その日の夜であった。


「なのに、シャーマンが殺された」


「部屋でか?」


 ジェイクは、悔しそうに語る。

 彼らは、シャーマン、大精霊の護衛をする為に、帝国に来たのに、シャーマンが、殺されてしまったのだ。

 自分を責めているのだろう。

 クロウは、心が痛んだが、真実を知るために、問いかけた。

 彼らは、各部屋で殺されたのか。

 すると、フォルスが、静かに、首を横に振った。


「いいえ、違います。シャーマンは、会議が行われた部屋で殺されていたんです」


「その時、皆は、どこに?」


 フォルス曰く、シャーマンは、会議が行われた部屋で殺されたのだ。

 会議室で行われたわけではないらしい。

 当然であろう。

 極秘のなのだから、会議室では、行えなかったのだ。

 だが、なぜ、シャーマンが、その部屋で殺されたのかは不明らしい。

 その時、フランク達は、どこにいたのだろうか。

 クロスは、恐る恐る問いかけた。


「眠っていた。急に眠気が襲ってきてな」


「こいつらのコーヒーに眠り薬が入ってたんだろうな」


「そう言う事か」


 ヴィクトルは、静かに答える。

 なんと、眠らされたのだ。

 フランク曰く、コーヒーに眠り薬が入っていたらしい。

 急に眠気が襲ってきたのだ。

 その可能性が高いのだろう。

 確信は得てないが。

 クロウは、話を聞いて納得していた。


「俺は、コーヒーは苦手でな。飲まなかったから、起きてたんだがな……」


 実は、フランクは、コーヒーを飲んでいなかったのだ。

 苦手であった為。

 だからこそ、眠気が襲ってこず、起きていられたのだろう。


「見回りに行ったら、こいつらと大精霊は眠ってるし、シャーマンはいなくなってたんだ」


 何も知らないフランクは、深夜、見回りをしに行ったのだ。

 だが、違和感を覚えたのだ。

 各部屋を訪れたが、騎士と大精霊は眠っており、シャーマンは、いなくなっていた。

 大精霊も、眠り薬を飲まされた可能性が高いだろう。

 護衛を任された騎士が深い眠りに入ったのは、何か、仕組まれたのではないかと、予想したのだ。

 フランクは、危険を察知したのか、シャーマンを探しに出かけた。


「探しに行って、部屋に向かったら、間に合わなかった……。金髪で、仮面の暗殺者に殺されてたんだ」


「金髪で、仮面の暗殺者?」


 フランクは、各部屋を探した。

 見回りをしていた帝国兵からも、情報を得て。 

 そして、会議が行われた部屋にたどり着いたのだ。

 だが、時すでに遅し。

 シャーマン達は、全員、殺されてしまっていた。

 金髪の仮面の暗殺者と遭遇したようだ。

 クロスは、驚愕していた。

 一体、何者なのかと、不安に駆られて。


「俺は、そいつと戦った。心臓を仕留め損ねてな。このざまだ」


 金髪の仮面の暗殺者と遭遇したフランクは、すぐさま、暗殺者と死闘を繰り広げた。

 暗殺者の心臓を捕らえたかに見えたが、暗殺者は、とっさに、身を翻し、左腕を斬られたのだ。

 そして、反撃に出て、フランクの右腕を切り落とした。

 フランクの剣を奪って。

 なんて、恐ろしい事が起こったのだろうか。

 クロスとクロウは、衝撃を受けた。


「大精霊は、どうなった?」


「……暴走して、行方不明になった」


「え?」


 クロウは、声を震わせる。

 動揺しているのだろう。

 衝撃的な話を聞かされて。

 そして、大精霊はどうなったのかも気になっているようだ。

 ヴィクトルが、静かに、告げた。

 なんと、行方不明になったというのだ。

 クロスは、さらに、衝撃を受けた。


「その前に、シャーマンが殺された後、暴走したんだ」


「暴走?」


「ああ。シャーマンを殺されて、感情を制御できなかったんだ」


 シャーマンが、殺され、フランクが、右腕を切り落とされた直後、大精霊は、暴走を起こしたのだ。

 深い眠りについていたのだが、パートナーであるシャーマンが殺されたことにより、つながりがなくなった事に気付いたのだろう。

 怒りを爆発させてしまったのだ。

 そして、暴走が起こった。

 その時だ。

 ヴィクトル達が、目覚めたのは。

 大精霊を止めようとしたヴィクトル達であったが、暴走の直後、大精霊は、行方不明になったのだ。

 ヴィクトル達の目の前で。


「でも、なんで、行方不明に……」


「わからない……」


 何が起こったのだろうか。

 クロスは、混乱しているようで、問いかけるが、ヴィクトル達でも、不明なのだ。

 なぜ、突然、彼らが、行方不明になったのか。

 ヴィクトルは、うつむき、静かに、首を横に振った。


「皆になんていえばいいんだよ……」


「ネロウ、許さないだろうな……」

 

 ルゥは、拳を握りしめた。

 悔やんでいるのだ。

 島の民達に、期待されて、自分も、騎士であるがゆえに、彼らを守れると思っていた。

 だが、それは、浅はかだったのかもしれない。

 うぬぼれていたのかもしれない。

 各島には、まだ、行っていない。

 それゆえに、どう、説明すればいいのかと、ルゥは、悩んでいた。

 ジェイクは、自分を責めている。

 ネロウの母親は、地のシャーマンだ。

 まだ、幼い彼は、自分を許すはずがないだろう。

 自分が、守ってくれると信じていたのだから。

 彼らの事を思うと、クロスとクロウは、暗殺者が許せなかった。


「その暗殺者は、帝国にいるんだな?」


「だと思うがな。あいつは、帝国に所属する暗殺者だからな」


 クロウは、怒りを露わにしながら、問いかける。

 感情をコントロールできないのだ。

 暗殺者に、シャーマンを殺されたと思うと。

 許されることではない。

 フランクは、正直に答えた。

 なんと、その暗殺者は、帝国に所属しているという。

 これには、さすがのクロスとクロウも、驚きを隠せなかった。


「なんで、帝国の暗殺者だってわかったんだ?」


「紋章が見えたんだ」


「紋章?」


 クロスは、問いかける。

 なぜ、わかったのだろうか。

 その暗殺者が、帝国に所属していると。

 フランク曰く、紋章が見えたという。

 おそらく、死闘を繰り広げている時にであろう。


「ああ、帝国のな。あいつ、落としたからな」


 クロスに問いかけられたフランクは、静かにうなずいた。

 帝国の紋章が、死闘を繰り広げていた時に、落ちたというのだ。

 懐に入っていたのをフランクが、切り裂き、その衝動で落としたのだろう。

 だからこそ、フランクは、気付いたのだ。

 シャーマンを殺したのは、帝国に所属している者だと。 

 それも、幹部クラスの。


「帝国は、今、どうなってる?」


「暗殺者を探すとは言っているが……」


 クロウは、問いかける。

 今、事件が起こった帝国では、どうなっているのかと。

 ヴィクトルは、正直に答えた。

 だが、信じていないようだ。

 その暗殺者は、帝国に所属していた。

 しかも、帝国の提案で、会議は極秘で行われていた。

 ヴィクトル達は、全て仕組まれていたのではないかと、予想していたのだ。

 全て、仕組まれていたというのであれば、本当に、探すとは到底思えないのだろう。

 つまり、暗殺者を見つけ出す事は、不可能と言う事だ。

 そう、察したクロス達。

 その時であった。

 帝国兵が、慌てて、部屋に入ってきたのは。


「た、大変です!!」


「どうした?何があった?」


 帝国兵は、血相を変えている。

 何かあったようだ。

 暗殺者が、捕まったのだろうか。

 その可能性は低いと思いながらも、フランクは期待しながら、問いかけた。


「た、たった今、キウス兵長から、報告がありました」


 帝国兵は、慌てながらも、報告する。

 なんと、キウス兵長が帝国兵に告げたらしい。

 何を告げたのだろうか。

 クロス達は、息を飲んだ。


「ヴァ、ヴァルキュリア候補が、行方不明になったと!!」


「っ!!」


 さらに、衝撃的な事が起こった。

 なんと、ヴァルキュリア候補が、行方不明になったというのだ。

 クロス達は、驚き、動揺した。

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