第四十七話 嫌な予感は当たる

 二日が過ぎた。

 まだ、フランク達は、帰ってこない。

 それほど、会議が長引いているのだろうか。

 今の所、妖魔の出現はない。

 消滅した妖魔も、復活していないようだ。

 だが、油断は禁物だ。

 クロスとクロウは、早朝から、巡回し、アジトに戻ってきた。


「ふぅ、大丈夫だったな」


「ああ」


 安堵したのか、クロスは、思わず、息を吐く。

 心を落ち着かせようとしているようだ。

 クロウは、いつも通り、冷静さを保ったままであった。

 と言っても、もちろん、安心はしているのだが。


「あの妖魔も、まだ、復活してないし」


「そうだな」


 クロスとクロウは、妖魔が、消滅した場所も見て来たが、まだ、復活はしてない。

 と言っても、いつ、復活するかは不明だ。

 ゆえに、油断はできない。

 帝国には、報告したが、ヴァルキュリアは、派遣されていない。

 一体、どうしたというのだろうか。

 妖魔の事が報告されれば、すぐに、派遣されるというのに。


「帝国は、どうなっているんだろうな」


「あれから、連絡はないみたいだが……」


「……」


 クロスは、帝国の事が気になっているようだ。

 帝国へ向かったフランク達やシャーマン、大精霊の事が。

 彼らの事も、連絡はない。

 戻ってくる気配もない。

 ルーニ島でも、帰ってきたら、すぐに、連絡をもらえるようにはしてもらったのだが、まだ、連絡は入っていない。

 何かあったのだろうか。

 クロウが、呟くと、クロスが、うつむいた。

 まるで、不安に駆られているかのように。


「どうした?」


「あ、ううん、何でもない」


 クロウが、クロスの様子に気付き、問いかける。

 だが、クロスは、首を横に振った。

 まるで、心情を悟られないようにしているかのようだ。


「何でもないって顔してないぞ?」


「……さすがに、ばれるか」


「当たり前だ。お前の事は、良くわかる」


「……」


 クロウは、クロスの心情を見抜いているようだ。

 何でもないというのは、嘘だと。

 クロスは、観念したかのように、語る。

 それも、苦笑して。

 もちろん、クロウは、クロスの心情を見抜いていたのだ。 

 何か、隠していると。

 クロウには、敵わない。

 クロスは、そう感じていた。


「なんか、嫌な予感がしてさ」


 クロスは、心情を打ち明ける。

 嫌な予感がしているのだ。

 妖魔を消滅させたあの夜から。

 その不安は、今も、ぬぐえずにいた。


「……お前もか」


「え?」


「実は、俺もだ」


「クロウも?」


「ああ」


 クロウも、心情を打ち明ける。 

 なんと、彼も、嫌な予感がしていたのだ。

 クロスは、あっけにとられている。

 予想もしていなかったのだろう。

 まさか、クロウも、嫌な予感がしているとは。

 クロスに問いかけられたクロウは、静かにうなずいた。


「まずいな。二人して、嫌な予感がするとなると……」


「……」


 クロウは、さらに、不安に駆られた。

 クロスとクロウが、嫌な予感がしたというのは、何か、良からぬことが起きる。

 または、起きた可能性が高いのだ。

 両親が、妖魔に殺された時もそうであった。

 二人は、嫌な予感がしたのだ。

 その直後、妖魔が、侵入して、両親は、殺されてしまった。

 今回も、何かあるのではないかと、嫌な予感がし始めたのだ。

 二人は、胸騒ぎがし始めた。


「帝国の様子、聞きに行こう。帝国兵なら、何か知ってるかもしれない」


「いや、それはない」


「どうしてだ?」


 クロスは、帝国兵に確認を取ろうとするが、クロウが呼び読める。

 帝国兵は、何も知らないと言いたいようだ。

 なぜ、知らないのだろうか。

 派遣された帝国兵は、知っていると思っているようであり、クロスは問いかけた。


「今回は、極秘だからだ」


「あ……」


 クロウは、答える。

 今回、フランク達が、帝国に向かい、緊急会議を開いたのは、極秘なのだ。

 帝国の民や島の民を不安にさせないため。

 ゆえに、帝国兵も知らない。

 フランクの部下もだ。

 どこで、何をしているかは不明なのだ。

 フランクは、見回りに行ってくるとしか言わなかった。

 それを聞いたクロスは、思い出したかのように、口を開けた。

 帝国兵に問いかけても、何も情報を得られないのだと。


「待つしかないのか……」


「そうだな……」


 クロスとクロウは、フランク達が戻ってくるのを待つしかないようだ。

 ここを離れるわけにもいかない。 

 もし、クロスとクロウも離れてしまえば、妖魔を消滅させる者がいない。

 レージオ村が壊滅してしまうかもしれないため、離れられず、待つしかなかった。

 だが、その時であった。


「クロス様!!クロウ様!!」


「どうした?何かあったのか?」


 フランクの部下が、血相を変えて、部屋に入ってくる。

 何かあったようだ。

 クロウは、立ち上がり、部下の元へと駆け寄る。

 それも、深刻そうに。

 クロスも、慌てて、駆け寄った。


「た、大変です!!うちの頭が!!」


「え?」


 フランクに何かあったようだ。

 クロスは、驚き、動揺したものの、急いで、レージオ村を出て、船着き場へと向かった。

 船着き場にたどり着くと、船がたどり着いている。

 ルーニ島からの船だろう。

 その船から、ヴィクトル達が、降りてきたのだ。

 フランクを連れて。


「っ!!」


 クロスとクロウは、衝撃を受ける。

 なんと、フランクは、右腕がなくなっていたのだ。

 切り落とされたのだろうか。

 クロスとクロウは、不安に駆られた。


「フランクさん、腕が……」


「……すまねぇ。やられちまった」


 クロスは、恐る恐る尋ねる。

 フランクは、笑みを浮かべて、答えるが、痛々しく思えてならない。

 帝国で、何かあったようだ。

 フランクが、腕を斬り落とされるほどの最悪の事態が。


「何があったんだ?」


「……その事は、中で話そう」


「……わかった」


 クロウは、フランクに尋ねる。

 何があったのか知るために。

 だが、ヴィクトルは、語ろうとしなかった。

 レージオ村のアジトに入ってから、語るつもりのようだ。

 クロウはうなずき、レージオ村へと戻った。



 レージオ村のアジト内に入るクロウ達。

 フランクは、椅子に座るが、腕を抑えている。

 やはり、痛むのだろうか。


「フランクさん、本当に、大丈夫なんですか?」


「おう、ちと、痛むがな」


 クロスは、心配になったのか、問いかける。

 当然だ。

 フランクは、右腕をなくしてしまったのだ。

 当の本人は、笑みを浮かべて答えるが、やはり、痛いらしい。

 重傷を負ってしまったのだろう。


「義手、つけるしかねぇな。もう、海賊の頭は、できねぇ」


「……」


 フランクは、義手をつけるしかないと思っているようだ。

 だが、義手をつけても、以前のような力を使う事はできない。

 ゆえに、海賊の頭を引退するつもりなのだろう。

 ヴィクトル達は、心が痛んだ。

 フランクには、頭を続けてほしかったがゆえに。


「ちきしょう!!」


 ルゥは、拳をテーブルにたたきつける。

 まるで、怒りをぶつけるかのように。


「オレ達、何もできなかった」


「……あんなことになるんて」


 ルゥは、悔やんでいるようだ。

 責任を感じているかのように。

 だが、自分を責めているのは、ルゥだけではない。

 ジェイクもだ。

 ジェイクも、暗い表情を浮かべていた。

 いつもは、陽気で明るいというのに。


「お気持ちは、わかります。ですが、今は、これからの事を考えましょう」


「そうだな」


 フォルスは、ルゥとジェイクをなだめる。

 と言っても、表情は暗い。

 まるで、悔やんでいるかのようだ。

 ヴィクトルも、うなずくが、やはり、暗い。

 帝国で何かが起こったのは、間違いない。

 それも、深刻な。

 だが、何が起こったのかは、まだ、見当もつかなかった。


「おっと、俺の事は、どうでもいい。ヴィクトル、帝国で、何があったのかを、話さねぇと」


「そうだったな」


 フランクは、自分の事で、悔やんでほしくないようだ。

 彼らの責任ではないと、思っているからであろう。

 だからこそ、話を進めるべきだと考えているようだ。

 ヴィクトルは、戸惑いながらも、うなずいた。


「これは、暗殺者にやられたんだ。油断した」


「暗殺者?」


「そうだ」


 フランク曰く、右腕を失ったのは、暗殺者のせいのようだ。

 だが、暗殺者の事は、聞いた事がない。

 暗殺者は、なぜ、フランクを狙ったのだろうか。

 クロスは、問いかけると、ヴィクトルが、うなずいた。


「……地水火風のシャーマンが、暗殺者に殺された」


「っ!!」


 衝撃的だった。

 なんと、シャーマン達が、殺されたというのだ。

 しかも、暗殺者に。

 クロスとクロウは、目を見開き、驚愕した。

 信じられなくて。

 予想もできなかったのだ。

 まさか、そのような最悪の事態が、起こっていたなどと。

 クロスとクロウの嫌な予感が当たってしまった。

 残酷にも。

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