第四十六話 二人だけの戦い
クロスとクロウは、外に出て、進み始める。
だが、妖魔は、どこにもいない。
妖獣もだ。
あたりは静かではあるが、逆に不気味でもあった。
「ここにいるんだな」
「ああ」
クロスは、クロウに尋ねると、クロウは、うなずく
やはり、この近くに妖魔はいるようだ。
クロウが言うのなら、間違いないのだろう。
クロスは、クロウを信じていた。
「でも、すごいな。クロウは、さすがだ」
「何がだ?」
クロスは、クロスの事を褒めるが、何が、すごいのだろうか。
クロウは、見当もつかないようで、問いかける。
自分は、特に何もしてないと言いたいのだろう。
「ほら、妖魔の気配に気付いただろ?だから」
クロスは、妖魔の気配に気付いた。
だからこそ、すごいと思っているようだ。
クロスは、まったく、気配に気付かなかった。
もし、気付かないまま、見回りをしていたら、妖魔は、レージオ村に接近していたかもしれない。
クロウのおかげだと、クロスは思っているのだろう。
「……同じ属性だからだろう。ただ、それだけだ」
「それでも、すごいよ」
「……ありがとう」
クロウは、謙遜する。
ただ、同じ属性の可能性が高く、そのおかげで気付いただけだという。
もし、異なる属性であれば、クロウでさえも、気付かなかったと言いたいのだろう。
クロスは、それでも、クロウの冷静さを羨ましく思っているのだろう。
自分では、同じ属性でも、気付かなかったかもしれない。
そう思っているのだから。
クロウは、穏やかな表情を浮かべて、お礼を述べた。
クロスがいてくれてよかったと、心の底から思いながら。
「この近くにいるんだったな」
「そうだ」
クロスは、警戒し始める。
闇属性の可能性が高いという事は、影に潜んでいる可能性が高いのだ。
「気をつけないと……」
クロウは、警戒しながら、前に進んだ。
だが、その時だ。
クロウの前の影が異常に濃い。
クロスが、その違和感に気付いたのは。
「待て!!クロウ!!」
クロスが、即座に、クロウの腕をつかみ、後ろへと引き寄せる。
その時だ。
影が、クロウのいた場所から、手が伸び始めたのは。
「っ!!」
クロウは、目を見開く。
まさか、すぐ近くにいるとは思いもよらなかったのようだ。
さらに、影から、人の姿をした何かが、現れる。
その者は、黒髪に、黒褐色の肌だ。
妖魔が、クロスとクロウの前に現れた。
「へぇ、やるじゃん。光の騎士は」
「まぁな」
妖魔は、笑みを浮かべて、クロスに問いかける。
甘く見ていたようだ。
クロウは、自分の気配に気付いたが、クロスは気付いていなかった。
だからこそ、クロウを仕留めてしまえば、クロスも、殺せると思っていたのだろう。
妖魔にとっては、予想外だったという事だ。
「よくわかったな」
「影が、濃かったからな」
「なるほど」
妖魔は、知りたいようだ。
なぜ、自分の気配に、クロスが気付いたのか。
簡単であり、意外であった。
影が濃いと感じたのだ。
光の騎士であるがゆえに、影が異常に濃いように感じたのだろう。
妖魔は、納得していた。
対になる属性だからこそ、逆に、気付かれてしまったのだと。
「ここには、お前らしかいないんだろ?楽勝だな」
「なぜ、知っている?」
「教えると思ってるのか?」
なぜなのかは不明だが、妖魔は知っていた。
このレージオ島には、クロスとクロウしかいない事を。
どうやって知ったのだろうか。
クロウは、問いかけるが、妖魔は、答えるつもりはないらしい。
「ほら、遊ぼうぜ」
妖魔は、構える。
余裕だと、思い込んでいるのだ。
クロスとクロウだけなら、自分だけでも、殺せると。
「クロス、頼んだぞ」
「任せろ」
クロスとクロウは、古の剣を引き抜き構える。
ここで、死ぬつもりなど毛頭ない。
妖魔が、殺しに来るというのであれば、消滅させるだけだ。
クロスとクロウは、地面を蹴り、妖魔に向かっていく。
妖魔は、余裕なのか、笑みを浮かべたまま、構えていた。
クロスは、クロウの前に出る。
自分が、妖魔に斬りかかるつもりのようだ。
クロウは、クロスを信じて、託した。
固有技・レイディアント・ベローズを発動する。
蛇腹剣に変化した古の剣は、妖魔を捕らえようとした。
だが、妖魔は、影に潜んでしまう。
それも、ギリギリのところで。
「ちっ!!」
クロスは、苛立ったように、舌打ちをする。
まるで、ほんろうされているように感じたからだ。
甘く見られているのだろう。
妖魔は、クロスとクロウだけなら、勝てると思い込んでいるのだから。
だが、クロウは、固有技・ダークネス・ツインを発動する。
二本の古の剣は、影を突き刺した。
だが、その時だ。
妖魔が、影から、現れ、魔法・エビル・シャドウを発動したのは。
「くっ!!」
クロウは、ギリギリのところで回避した。
そのまま、後退して、距離を取る。
妖魔は、追いかけようともせず、ただ、立ったままであった。
「やっぱり、お前らだけなら、楽勝だな。絶対に、勝てる」
妖魔は、確信を得ているようだ。
クロスとクロウに負けるはずがない。
余裕で、勝てると。
クロスとクロウは、歯噛みをした。
追い詰められているようだ。
そう思うと、妖魔は、笑みを浮かべていた。
笑いが止まらなかったのだ。
「死ね!!」
妖魔は、再び、影に潜む。
すると、影が伸び始めた。
まるで、クロスとクロウを飲みこんでいくようだ。
影は、瞬く間に、広がっていく。
クロスとクロウは、影から逃れることもできなくなった。
その間に、妖魔は、影の中から、魔法・エビル・シャドウを発動しようとする。
だが、その時だ。
クロスとクロウが、古の剣で、影を突き刺したのは。
「なっ!!」
妖魔は、目を見開き、硬直する。
なんと、クロスとクロウの剣は、妖魔を捕らえていたのだ。
それも、確実に。
妖魔は、剣を無理やり、引き抜き、影から、現れる。
何が起こったのか、理解できないまま。
「甘く見られたものだな」
「本当にな」
クロウは、ため息をつく。
本当に、甘く見られていたと感じたのだろう。
クロスも、思わず、ため息をついて、呆れていた。
「俺たちだけだからって、奇襲をかけるつもりだったのか?」
クロスが、構える。
妖魔を仕留めるつもりのようだ。
しかも、妖魔の目的を見抜いている。
妖魔は、奇襲をかけるつもりだったのだ。
レージオ村には、クロスとクロウしか戦えるものがいない。
ゆえに、忍び込み、殺すつもりだったのだろう。
だが、気付かれてしまい、追い込まれている。
全てが、計算外であった。
「こ、このっ!!」
妖魔は、狂ったように、クロスとクロウに襲い掛かる。
冷静さを見失ってしまったのだろう。
逆に追い詰められたのだから。
だからこそ、クロスとクロウは、冷静さを保ったまま、妖魔の攻撃を回避することができた。
そして、そのまま、固有技・レイディアント・ツインとダークネス・ツインを発動して、妖魔を切り裂いた。
四回斬りつけられた妖魔は、そのまま、仰向けになって倒れた。
「俺達の強さを知ってから、来るべきだったな」
「ち、ちきしょう……」
クロウは、妖魔に告げる。
奇襲をかけるなら、自分達の強さを知るべきだったと。
本当に、その通りだ。
妖魔は、歯を食いしばり、光の粒となって消滅した。
「何とか、なったな」
「ああ、あいつが、油断してくれたおかげでな」
クロスは、古の剣を鞘に納め、額の汗をぬぐう。
油断していたとは言え、厄介な相手だったからだ。
もし、油断していなかったら、追い詰められていた可能性も否定できない。
クロウも、心を落ち着かせるため、息を吐いた。
油断してくれて、本当に良かったと。
「入口は頑丈にしておいた方が、よさそうだな。帝国には、俺から、伝えておく」
「うん、ありがとう」
クロウは、今夜は、入口を頑丈にしておくべきだと判断した。
妖魔は、消滅したとはいえ、いつ、復活するかは不明だ。
明日の朝には、復活してしまうかもしれない。
ゆえに、油断できないのだ。
クロウは、レージオ村に、滞在している帝国兵に伝えるつもりであった。
クロスは、お礼を言い、そのまま、クロウと共に、レージオ村に戻ろうとする。
その時であった。
「ん?」
クロスが、立ち止まり、空の方へと視線を向ける。
何かに気付いたかのように。
クロウは、クロスの様子に気付き、立ち止まって、クロスの方へと視線を向けた。
「どうした?クロス」
「ううん、何でもない」
クロウは、クロスに問いかけるが、クロスは、何でもないと、答えて、クロウの方へと歩き始めた。
――嫌な予感がしたきがしたんだけど……。
クロスは、一瞬だけだったが、嫌な予感がしたのだ。
だからこそ、帝国の方へと視線を向けたのだろう。
――気のせい、だよな?
気のせいだと思いたかった。
何もあるはずがないと。
フランクやヴィクトル達がいるのだ。
何かが起こっているはずがない。
クロスは、そう、自分に言い聞かせていた。
だが、その予感は、的中していた。
帝国では、最悪の事態が、起こっていたのだ。
「これは……」
「うそ、だろ?」
帝国にいたヴィクトル達は、呆然と立ち尽くしている。
なんと、地水火風のシャーマンが、血を流して、倒れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます