第四十五話 残った双子

「帝国に行くってことは、ここは、どうなるんだ?」


「行くのは、俺とヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイクだけだ」


「てことは、俺達は、お留守番ってことですね」


「そう言う事だ」


 クロウは、レージオ島の事が気になったようで、問いかける。

 もし、全員、帝国に向かうとなれば、レージオ島はどうなるのかと、不安に駆られたのだろう。

 結界が張られていない為、危険なのだから。

 だが、フランク曰く、帝国に行くのは、自分と、ヴィクトル、フォルス、ルク、ジェイクだけだという。

 クロスとクロウは、ここに残ることになるようだ。 

 クロスが、笑みを浮かべて、問いかける。

 茶化すように。

 フランクは、笑みを浮かべて、うなずいた。


「だが、なぜ、ヴィクトル達も?」


「実はな、地水火風のシャーマンと大精霊も、呼ばれてるらしいんだ」


「そうなのか?」


「おう」


 だが、なぜ、ヴィクトル達も、行くことになったのだろうか。

 帝国が、招集したのだろうか。

 理由が、わからず、クロウが問いかける。

 フランクは、説明した。

 地水火風のシャーマンと大精霊が呼ばれているのだ。 

 妖魔が、頻繁に出現しているからであろう。

 その対策を話し合うようだ。

 フォウ達は、今回、呼ばれていないらしい。

 その理由は、遺跡の結界を強化してもらうためだ。

 大精霊が、島を離れるという事は、結界が弱まってしまう可能性がある。

 ゆえに、フォウ達の力で、結界を強化するしかないのだ。

 もちろん、大精霊が、力を遺跡に送って。


「で、俺達は、護衛で行くのさ」


「護衛ですか?帝国は、安全だって聞きましたが」


 シャーマンと大精霊が、帝国に向かうため、護衛の為に、ヴィクトル達も共に向かうことになったのだ。

 念のため、フランクも、行動を共にするようだが。

 だが、帝国は、安全だ。

 妖魔が、出現した事はない。

 何より、ヴァルキュリアがいるのだ。

 安全と言っても、過言ではないだろう。

 だからこそ、クロスは、問いかけたのだ。


「言いたいことはわかるぜ。だがよ、最近、物騒だろ?抵抗だって、安全とは言い切れねぇぜ」


「確かにな」


 フランクも、クロスの言いたいことは理解している。

 だが、本当に、安全かどうかは、定かではない。 

 ゆえに、念には念を入れて、護衛として、帝国に向かうことになったのだ。

 帝国からも、そう言う依頼が来ている。

 それを聞いたクロスは、納得していた。


「てなわけで、そっちの事は、頼むわ」


「ああ、わかった」


「気をつけて」


「おう。お前らもな」


 フランクは、レージオ島の事をクロスとクロウに任せることにした。

 二人を把握している。

 フランクは、二人だけでも、レージオ島を守れると推測しているようだ。

 クロウは、承諾し、クロスは、フランク達の身を案じた。

 フランクは、うなずいた。



 しばらくして、フランク達の出発の準備が整った。

 フランクは、ヴィクトル達を連れて、ルーニ島行の船に乗り込もうとしていた。

 ルーニ島にある遺跡から、帝国に行こうとしているらしい。

 クロスとクロウは、フランク達を見送りに来ていた。


「んじゃ、よろしくな」


「ああ」


 ヴィクトルは、クロスとクロウに向かって、手を上げる。

 それも、笑みを浮かべて。

 信じているのだろう。

 二人なら、自分達がいなくとも、レージオ島を守ってくれると。

 クロウは、静かに、うなずいた。

 レージオ島を守ると誓って。


「レージオ島を頼みますよ」


「任せてください」


 フォルスは、クロス達に託しているようだ。

 レージオ島の事を。

 彼も、信じているのだろう。

 クロスは、笑みを浮かべて、うなずいた。

 任されたからには、守り通すつもりだ。


「そっちも、気をつけろ」


「誰に言ってんだよっ!オレが、油断するはずないしっ!」


「そうだったな」


 クロウは、ヴィクトル達の事を案じる。

 だが、ルゥは、自信があるようだ。

 シャーマンと大精霊を守れると。 

 当然であろう。 

 彼らは、騎士だ。

 それも、厳しい訓練を積み重ねて、騎士になったのだ。 

 ゆえに、ルゥは自信があり、クロウも、笑みを浮かべて、うなずいた。


「でも、残念だなぁ。ジェイクさんの料理、食べれると思ったんだけど」


「ははは、ごめんねごめんね。帰ってきたら、たくさん作るからさ」


「約束ですよ」


 クロスは、残念がっていた。

 実は、レージオ島に帰ったら、ジェイクの料理を食べたいと望んでいたのだ。

 ジェイクの料理は、プロ級なのだから。

 ジェイクも、残念がっているようだ。

 クロス達に手料理を食べさせたかったと。

 だが、帰ってきたら、食べさせると約束する。

 クロスは、笑みを浮かべた。

 楽しみにしているのだろう。

 ジェイクの手料理を。


「じゃあ、頼んだぞ」


 フランクは、改めて、レージオ島をクロスとクロウに託し、船に乗った。

 船は、出航する。

 クロスとクロウは、彼らを見送った。


「行っちゃったな」


「ああ」


「不安か?」


「まさか。大丈夫だ」


 フランク達を乗せた船が遠ざかり、クロスは、寂しがる。

 二人で、レージオ島を守るというのは、初めてだ。 

 不安に駆られているのだろうか。

 クロウは、問いかけるが、クロスは、首を横に振った。

 不安ではないようだ。


「けど、帝国が、緊急招集するってことは、それほど、危機が迫ってるってことなのかな?」


「どうだろうな」


 クロスは、自分達の事よりも、気になっている事があった。

 それは、帝国の事だ。

 帝国は、シャーマン、大精霊、騎士達を招集した。

 それも、緊急で。

 エデニア諸島、帝国に危機が迫っていると感じているからなのだろうか。

 クロウも、気になってはいたが、見当もつかなかった。

 どうなるのかは、二人には、わからない。

 ゆえに、二人は、レージオ村に戻り、やれることをやるしかなかった。


「お帰りなさい」


「ただいま」


 クロスとクロウがアジトに戻ると、フランクの部下達が、出迎えてくれる。

 彼らは、ここに残ったのだ。

 クロスとクロウを援護する為に。

 出迎えられたクロスは、穏やかな表情を浮かべた。


「フランクさん達、行ってしまいましたね」


「ああ」


 部下達は、寂しがっているようだ。

 当然であろう。

 帝国に呼ばれた理由を彼らも、推測しているようだ。

 何か、危機が迫っているのではないかと。


「何があったんでしょうか?」


「わからない」


「ですよね……」


 心配になったようで、部下は、問いかけるが、クロウは、首を横に振る。

 クロウでさえも、見当もつかないのだ。

 だからこそ、答えられない。

 部下達は、ますます、不安に駆られてしまった。

 フランク達の身を案じて。


「心配しなくても、すぐ、戻ってくるよ」


「ああ」


 クロスは、部下達の不安を取り除くように、語りかける。

 どうなるかは不明だ。

 だが、信じているのだろう。

 フランク達なら、無事に戻ってきてくれると。

 クロウも、静かにうなずいた。

 やはり、クロスがいてくれてよかったと、思いながら。



 時間が経ち、あたりが暗くなる。

 フランクの部下達が、見回りに行ってくれているが、今の所、妖魔は、出現していない。

 妖獣もだ。

 だが、油断は、禁物だ。

 クロスとクロウは、いつでも、出動できるように、部屋で待機していた。


「……静かだな」


「ああ」


 やけに静かだ。

 何もない証拠なのだろうが、逆に、不安に駆られてしまう。

 自分達の知らないところで、何か起こっていないかと。

 クロスは、そわそわしているようだ。

 当然であろう。

 二人で、レージオ島を守らなければならないのだから。

 だが、クロウは、冷静であった。

 いつも通り。


「見回り、行ってくるか」


 クロスが、クロウを誘う。

 念のため、と言ったところであろう。

 クロウは、静かに、うなずく。

 こうして、二人は、見回りに行くことになった。



 アジトの外に出て、見回りをするクロスとクロウ。

 やはり、夜は、静かだ。

 妖魔と妖獣が、侵入する可能性があるため、外に出ている者が圧倒的に少ない。

 だが、今の所は、妖魔と妖獣は侵入していない。

 安全のようだ。

 クロスとクロウは、入口の方へと向かった。


「入口も、大丈夫だな」


「うん」


 入口も、安全のようだ。

 扉は、破壊されていない。

 妖獣も、妖魔も侵入した形跡がない。

 気配もないとなれば、安全なのだろう。


「クロス、お前、先に寝てていいんだぞ」


「大丈夫。クロウの方こそ、いいのか?」


「問題ない」


 クロウは、クロスに先に休むよう勧める。

 念のために、クロウは、起きているつもりなのだろう。

 警護を続けるつもりのようだ。

 クロスを休ませるために。

 クロスは、大丈夫だと告げる。

 逆に、クロウの事を心配しているようだ。

 クロウは、いつも、無理をしているからであろう。

 だが、クロウも、大丈夫だと告げた。

 見回りを続けようとするクロスとクロウ。

 だが、その時であった。


「ん?」


 クロウが、何かに気付いたようで、立ち止まり、後ろを振り向く。

 クロウの様子に気付いたのか、クロスも、立ち止まり、クロウの方へと視線を向けた。


「どうした?クロウ」


「近くに、妖魔がいる」


 クロスは、クロウに問いかける。

 何か、見つけたのではないかと、予想して。 

 クロスの予想通りだった。

 クロウは、気付いたのだ。

 近くに、妖魔がいると。


「もしかして、闇属性か?」


「だろうな」


 クロスは、確認するかのように、問いかける。

 気配を感じなかったからだ。

 だが、クロウが、気配を感じたという事は、闇属性の可能性が高いと推測したのだろう。

 クロウは、静かに、答えた。

 確信はないようだが。


「見に行ってみるか?」


「ああ」


 クロスは、クロウと共に、レージオ村の外に出た。

 妖魔を消滅させる為に。

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