第四章 双子の騎士編・後編
第四十四話 緊急招集
クロス達が、騎士になってから、一年の月日が経った。
当然ながら、妖魔や妖獣達との戦いは終わらない。
それは、クロスも、クロウもわかっている。
だからこそ、戦い続けるのだ。
島を守るために。
クロスとクロウは、フランクの命令で、ファイリ島を訪れていた。
ファイリ島に潜んでいる妖魔を見つける為に。
偶然、妖魔と遭遇した二人は、妖魔と対峙していた。
攻防戦は続くが、劣勢を強いられているわけではない。
クロス達は、次第に、妖魔を追い詰めていた。
だが、妖魔も、しぶとく、隙を伺いつつ、襲い掛かってきた。
「もらった!!」
クロスに襲い掛かる妖魔。
だが、クロスは、気配を察したのか、固有技・レイディアント・ガード
を発動して、妖魔の攻撃を防いだ。
「何!?」
「同じ手は通用しないぞ!」
妖魔は、あっけにとられているようだ。
当然であろう。
同じ戦い方で、クロスを追い詰めようとしていたのだ。
クロウに止められたが、クロウは、妖魔と距離を取っていた為、防ぐことは不可能だと思い込んでいたのだろう。
だが、妖魔は、彼らを甘く見ていた。
クロスとクロウは、一人でも、強いことに。
「せいやっ!!」
「なっ!!」
クロスは、大剣へと変化した古の剣を振り回す。
まるで、弾き飛ばすかのように。
妖魔は、吹き飛ばされ、体勢を崩された。
隙が生まれたのだ。
「クロウ!!頼む!!」
「わかった」
クロスが、クロウに懇願する。
妖魔を倒すなら、今がチャンスなのだ。
クロスは、クロウの方向へと妖魔を弾き飛ばしたのだ。
完全に妖魔を消滅させるために。
クロウは、妖魔の元へと迫り、構えた。
「はあっ!!」
「ぐあああっ!!」
クロウは、固有技・ダークネス・サークルを発動させる。
自身の周辺に、古の剣を何本も、出現させ、妖魔を次々と切り裂いたのだ。
回避する事も、防ぐこともできなかった妖魔は、体を切り裂かれ、光の粒となって消滅した。
「ふぅ。何とか、倒せたな」
クロスは、額の汗をぬぐう。
安堵しているようだ。
当然であろう。
一時は、どうなるかと、ひやひやしたのだ。
妖魔を相手にするのは、至難の業であり、警戒が必要であったため。
何度も、妖魔とは、戦った事があるが、それでも、緊張感は、ぬぐえない。
妖魔は、それほど、驚異的なのだ。
「ああ、クロスおかげでな」
「そんなことないって。クロウのタイミングが良かったからだよ」
クロウが、クロスの元へと歩み寄る。
クロスのおかげで、妖魔を消滅させることができたと思っているようだ。
だが、クロスは、クロウのタイミングのおかげだと思っているらしい。
お互いの強さを認めているようだ。
「とりあえず、妖魔は、消滅させたが……」
「また、復活するんだよな……」
クロウは、不安に駆られる。
確かに、妖魔は、消滅させた。
だが、ほんの一時しのぎにしかならない。
なぜなら、妖魔は、時間が経てば、復活してしまうからだ。
クロスも、不安に駆られていた。
もし、ヴァルキュリアが、来る前に、妖魔が、復活したらファイリ島が、どうなってしまうのかと。
「問題ない。一度、消滅すれば、弱まるだろうからな」
「イフリート様」
彼らの不安を取り除くかのように、一人の赤い髪の男性が現れる。
彼は、精霊であり、それも、大精霊の力を持つ者・イフリートだ。
イフリートが来た事に気付いたクロスは、振り向き、頭を下げた。
もちろん、クロウも、静かに頭を下げた。
「だが、結界だけでは完全には、消滅しないんだろ?」
「ああ。だから、あとで、ヴァルキュリアに頼むんだ。彼女達の力なら、完全に消滅するからな」
「そうか……」
クロウは、イフリートに問いかける。
結界だけでは妖魔は、消滅しないのだ。
完全に倒せるのは、やはり、ヴァルキュリアだけだ。
イフリートも、わかっている。
だが、復活しても、結界の力により、弱まっているのだ。
ゆえに、危険性は低くなる。
島の民も、命を奪われることはないだろう。
あとは、ヴァルキュリアに任せるだけだ。
話を聞いたクロウは、納得し、安堵していた。
ルチア達や島の民の事を心配していたのだろう。
「本当に、助かった。私の家で体を休めるといい。歓迎するぞ」
「歓迎はありがたいですけど、戻ります」
「なぜだ?」
イフリートは、クロスとクロウを招き入れようとしている。
妖魔を倒し、体力を消費しているはずだ。
ゆえに、彼らを休ませたいと、思ったのだろう。
だが、クロスは、丁重に断った。
なぜなのかは不明だ。
イフリートは、クロスに問いかけた。
「レージオ島が、心配だからな」
「そうか」
クロウは、代わりに答える。
心配なのだ。
レージオ島は、結界が張られていないのだから。
イフリートは、納得し、うなずいた。
「無理はするなよ」
「はい」
イフリートは、クロスとクロウを気遣った。
心配しているのだろう。
彼らは、無理をしていないかと。
クロスは、うなずき、イフリートと共にファイリ村へ向かった。
船に乗るために。
ファイリ村に入ったクロス達。
すると、ファイリ島の民が、クロス達を出迎えた。
島の民は、笑みを浮かべている。
うれしいのだろう。
妖魔を彼らが、消滅させてくれたのだから。
安心して、過ごせるのだ。
「騎士様!!ありがとう!!」
「助かったよ!!」
「また、来てくれよな!!」
ファイリ村を出て、船に乗る際、島の民が、手を振って、見送ってくれる。
イフリートもだ。
クロスは、手を振り、クロウは、笑みを浮かべながら、ファイリ島を出発した。
イフリートは、彼らを見送っていた。
その時であった。
「イフリート」
「どうした?」
黒い髪の男性が、イフリートの元へ歩み寄る。
シャーマンだ。
火のシャーマンであり、イフリートのパートナーだ。
先ほどまで、彼の姿は見当たらなかった。
クロスとクロウが、島を出るというのに。
一体、どうしたのだろうか。
イフリートは、彼に問いかけた。
「帝国兵が、これを渡しに来たぞ」
火のシャーマンは、イフリートにある物を渡す。
それは、手紙だ。
それも、帝国からの。
火のシャーマンは、帝国兵を招き入れ、それを受け取っていた為、見送りに出られなかったのだ。
イフリートは、静かに、受け取り、手紙の内容を読み始めた。
レージオ島へと戻るクロスとクロウは、いつまでも、ファイリ島を見ていた。
「皆、嬉しそうだったな」
「ああ。本当に、良かった」
クロスは、思い返していたのだ。
島の民の笑顔を。
妖魔に命を奪われるかもしれないという過酷な状況の中で生きているからであろう。
自分達では、妖魔を消滅させることも、倒すこともできないのだ。
だからこそ、ヴァルキュリアや騎士達の力が必要だ。
彼らが来てくれる度に、島の民は、安堵し、喜んでいるのだろう。
クロウも、そう思うと、本当に、安堵していた。
島の民が、無事でよかったと。
「妖魔、倒せてよかったな」
「そうだな。だが、お前となら倒せると思ったがな」
「ありがとう」
本当に、妖魔を倒せてよかった。
クロスは、そう思っているようだ。
クロウは、クロスと一緒だからこそ、消滅させることができたと、思っている。
それは、クロスも一緒だ。
クロスとクロウは、微笑んでいた。
「でも、最近、妖魔の出現、多くないか?」
「ああ、俺も、そう思っていた」
クロスは、ふと、気になる事があったようだ。
それは、妖魔の出現が、頻繁になってきたことだ。
気のせいではない。
クロウも、同じことを思っていたのだから。
何かの前触れなのだろうか。
二人は、不安に駆られていた。
「何も、なければいいんだけどな」
「……そうだな」
クロスは、不安を取り除くように、言い聞かせる。
だが、それでも、不安だ。
クロウも、静かに、うなずいた。
本当に、何もなければよいのだが、と。
半日が経ち、船は、レージオ島に到着する。
クロスとクロウは、船から降りて、ドーム内のレージオ村に入り、自分達のアジトへと到着した。
「ただいま帰りました」
クロスとクロウは、アジトに入る。
だが、誰もおらず、反応もなかった。
「誰もいない」
「どうしたんだ?」
奥へと入り、あたりを見回すクロスとクロウ。
だが、本当に誰もいない。
どこかへ出かけたのだろうか。
「誰かいないのか?」
クロウは、呼びかける。
本当に、皆、出かけたのだろうかと。
何かあったのではないだろうか。
不安に駆られるクロス。
だが、その時であった。
「おお、すまんすまん。いるぞ」
フランクが、慌てて、クロスとクロウの元へと駆け寄る。
どうやら、何か、準備をしていたようだ。
手に、荷物を持ち、身なりも整えていたのだから。
「どうした?そんなに慌てて」
「実はな、緊急招集がかかってな」
「緊急招集?」
クロウは、フランクに問いかける。
何かあったのではないかと推測して。
フランク曰く、緊急招集がかかったとのことだ。
一体、どういう事だろうか。
見当もつかないため、クロスは、フランクに問いかけた。
「そうだ。帝国から依頼があってな。帝国で、緊急会議を行いたいんだとさ」
「え?」
意外だった。
まさか、帝国が、緊急会議を開きたいと申し出るとは、思いもよらなかったのだ。
妖魔が、頻繁に出現していることと、関係があるのではないだろうか。
クロスとクロウは、そう思えてならなかった。
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