第四十一話 帰還

「華と雷のヴァルキュリアが?」


「はい」


 クロウは、驚きつつも、部下に問いかける。

 予想もしていなかったのだろう。

 まさか、フォウが、自分達だけでなく、華と雷のヴァルキュリアも、指名していたとは。

 なぜなのかは、見当もつかないのだが。


「そいつらも、新人だろ?フォウの奴、何を考えてるんだ?」


 フランクは、理解できないようだ。

 華と雷のヴァルキュリアも、クロス、クロウと同様に、覚醒したばかりだ。

 新人と言っても過言ではない。

 そんな彼女達だけをなぜ、指名したのだろうか。

 ルーニ島は、危険な状態かもしれないというのに。


「フォウは、知ってるんじゃないのか?」


「何をだ?」


「その二人が、誰なのか」


「なるほどな」


 ヴィクトルは、フランクに語る。

 フォウは、知っているのかもしれない。

 華と雷のヴァルキュリアが、誰なのか。

 おそらく、クロス、クロウと同様に、ルーニ島出身者なのだろう。

 だからこそ、あえて、指名したのではないないだろうかと、ヴィクトルは、予想しており、フランクは、納得していた。


「まぁ、何か、考えがあってのことだろうな」


「そう言う事だ」


 もちろん、出身者かどうかは不明だ。

 フォウは、何か、考えがあるのかもしれない。

 これも、推測ではあるが。

 ヴィクトルも、同じことを思っていたようで、うなずいた。


「で?いつ、行けばいいんだ?」


「準備ができたらで構わないようです。休ませてから、旅立たせてくださいと言われました」


 フランクは、問いかける。

 いつ、ルーニ島に行けばいいのだろうか。

 もちろん、早くいかなければならない事はわかっている。

 だが、クロス達は、今先ほど、帰ってきたばかりだ。

 休息も必要であり、フランクは、その事を懸念しているのだろう。

 だが、フォウは、急かしているわけではないようだ。

 クロスとクロウの事を考えているらしく、十分に休んでから、来てほしいと、伝言していた。


「どうする?明日、出発するか?」


「いや、今すぐ、出発する」


「気になる事があるんだ」


 フランクは、クロス、クロウに問いかける。

 彼らの意思を聞くかのように。

 フランクの問いに、クロウは、首を横に振った。

 待ってなどいられなかったのだ。

 それは、クロスも、同じであった。

 なぜなら、気になる事があったのだ。

 どうしても。


「わかった。けど、しっかり、休めよ」


「わかってる」


 フランクは、彼らの意思を尊重し、承諾した。

 彼らの事を気遣って。

 船の中で、しっかりと、休んで、任務に挑めと忠告したのだ。

 もちろん、クロウも、わかっている。

 ここからは、自分達だけで、挑まなければならない。

 今までとは違うのだ。

 ヴィクトル達の力を借りずに、戦わなければならないのだから。

 それでも、クロスとクロウの意思は、変わらなかった。


「行ってきます」


 クロスは、笑みを浮かべて告げる。

 こうして、クロスとクロウは、ルーニ島行の船に乗り、ルーニ島に向かった。



 船は、ルーニ島へと向かっていく。 

 と言っても、時間は、かかる。

 クロスとクロウは、船の中で体を休めていた。


「まさか、爺さんが、俺達をご指名するとはな」


「うん、驚きだな」


 クロウは、正直、驚いているようだ。

 なぜ、フォウが、自分達を指名したのか、見当もつかないからであろう。

 孫の顔が本当に、見たくなったのだろうか。

 それだけではない気がする。

 と言っても、理由は、不明だ。

 クロスも、静かに、うなずいた。


「でも、カイリは、来ないのかな?」


「忙しいかもしれないな。カイリは、皇子だし」


「そうだよな」


 クロスは、ふと、カイリの事を思い出したようだ。

 帝国でも、協力を求められていたのならば、皇子であるカイリも、知っているのではないかと。

 だが、クロウは、推測する。

 カイリは、忙しいのではないかと。 

 彼は、皇子だ。

 自分達の為に、時間を割くのも、大変だったはず。

 そう思うと、クロスは、納得していた。


「ヴァルキュリアか……。やっぱり、あの子達なのかな?」


「……かもしれないな」


 クロスは、予想する。

 華と雷のヴァルキュリアは、試練に挑んでいた少女達ではないかと。

 もちろん、クロウも、同じように、予想していた。

 だが、クロウは、うつむいてしまう。

 何か、複雑な感情を抱いているかのように。


「どうしたんだ?」


「え?」


「なんか、悩みでもあるのかなってさ」


 クロスは、クロウに問いかける。

 悩みを抱えているような気がしたのだ。

 表情だけで、クロスは、読み取ったのだろう。

 クロウは、あっけにとられていた。 

 同時に、クロスには、敵わない気がした。

 自分の心情の変化に、気付いてしまうのだから。


「……そう言うわけじゃない。ただ、複雑なだけだ」


「え?」


 クロウは、正直に答えた。

 悩みとは少し違う気がした。

 複雑な感情を抱いていたのだ。

 それは、どういう事なのだろうか。

 クロスは、驚き、尋ねる。

 クロウの心情が気になって。


「俺達は、ヴァルキュリアの力を借りないと、妖魔を倒せないんだからな」


 クロウは、悔やんでいるようだ。

 騎士は、妖魔を倒せない。

 消滅させることはできるが、時間が経てば、復活してしまうのだ。

 それは、完全に、倒せるというわけではない。

 ヴァルキュリアは、妖魔を倒す力を持っている。

 だからこそ、彼女達の力を借りなければならないのが、悔しいのだろう。


「守る力だけじゃなくて、あいつらを倒せる力も、欲しかった」


「そうだよな」


 騎士は、ヴァルキュリアを守るために、力を与えられた。

 だが、クロウは、彼女達を守るだけでなく、妖魔を倒せる力も、欲していたのだ。

 そうすれば、彼女達を確実に、守れる。

 そう言いたいのだろう。

 クロスも、うなずいていた。


「だったら、全力で守ろう」


「え?」


 クロスは、ある事を提案する。

 守る力を得たのであれば、全力で、彼女達を守ればいいと。

 クロウは、あっけにとられていた。

 簡単に言うが、簡単ではないというのに。


「ヴァルキュリアを守れば、支えられる気がするんだ。違うか?」


 クロスは、守るだけでなく、支えることもできるのではないかと、考えているようだ。 

 クロウの心情を察したからであろう。

 ヴァルキュリアは、妖魔を倒せる力を得ることができるが、同時に、宿命を背負うことになる。

 過酷な運命を受け入れなければならないのだ。

 だからこそ、クロウは、悔やんでいた。

 自分達も、背負うことができたら、と。


「……そうだな」


 クロウは、ふと、笑みを浮かべた。

 クロスには、敵わないと思いながら。

 自分の心情を読み取り、答えを出してくれるのだから。



 一日が経ち、船は、ルーニ島に到着する。

 一か月ぶりに、クロスとクロウは、帰還したのだ。

 二人は、ルーニ島に降り立った。


「帰ってきたな」


「ああ」


 クロスとクロウは、あたりを見回す。

 たった、一か月、離れていたというのに、懐かしい気がしたのだ。

 だが、何も変わっていない。

 穏やかな風景も、島の民の笑顔も。

 大切な場所は、まだ、残っているのだ。

 そう思うと、二人は、うれしかった。

 また、帰ってこれたと。


「もう、ヴァルキュリアは、来てるかな?」


「だろうな」


 クロスは、クロウに尋ねる。

 ヴァルキュリア達は、来ているのだろうかと。

 クロウは、答えた。

 推測だが、自分達よりも、先に、到着しているだろう。

 そんな気がしてならなかった。

 フォウの家を目指すクロスとクロウ。

 すると、島の民が、二人が、帰ってきたことに気付き、手を振る。

 クロスも、笑みを浮かべて、手を振る。 

 クロウは、そう言うのは、少々、苦手だ。

 だから、笑みを浮かべて、頭を下げるだけにした。


「お帰り。クロス、クロウ」


「ただいま。じいちゃんは?」


「家にいるさ」


 一人の青年が、クロスとクロウの元にかける。

 クロウは、青年に尋ねると、答えた。

 フォウは、家にいるらしい。


「もう、来てるんだぜ?あのヴァルキュリア様がさ」


「わかった。ありがとう」


 青年が、教えてくれる。

 やはり、クロスとクロウの読み通り、ヴァルキュリアが来ているらしい。

 フォウの家にいるのだろう。

 クロウは、お礼を言い、フォウの家へと向かった。

 


「すみません、遅れました」


「待たせたな」


 フォウの家の中に入る二人。

 そこには、フォウ、アストラル、ニーチェ、そして、あのピンクの髪の少女と菫色の髪の少女がいた。

 やはり、華と雷のヴァルキュリアは、試練の時に助けた二人だったのだ。

 無事にヴァルキュリアになれたらしい。

 そう思うと、安堵する二人。

 だが、その時であった。

 

「あーっ!!!」


 ピンクの髪の少女が、突然、大声で叫ぶ。

 一体どうしたのだろうか。

 菫色の髪の少女は、何かを察したかのように、笑みを浮かべる。

 全くもって、状況が把握できない。

 クロスとクロウは、見当もつかず、瞬きをするだけであった。

 

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