第四十二話 ヴァルキュリアと共闘

「君達は、あの時の……」


「あ、ああ……」


 クロス達は、気付いていた。

 それも、確信したように。

 二人の少女は、あの試練で出会った少女達だと。

 なぜだか、不明だが、ピンクの髪の少女は、体を震わせながら、指を指す。

 何かに気付いたのだろうか。

 クロスとクロウは、きょとんとしていた。


「どうした?俺達の顔に何かついているのか?」


 クロウは、ピンクの髪の少女に問いかける。

 何かあったのだろうかと。

 見当もつかないのだ。

 いくら、思考を巡らせても。


「く、クロスとクロウ、だよね?」


「え?なんで、俺達の名前を?」


 ピンクの少女が、二人に問いかける。

 それも声を震わせて。

 だが、なぜ、自分達の名前を知っているのだろうか。

 あの時よりも、前に、どこかであったのだろうか。

 だが、思い出せないクロスとクロウ。

 ゆえに、クロスは、問いかけた。


「わ、私だよ!!ルチア!!フーレ村の!!」


「ルチア……」


 ピンクの髪の少女は、必死に答える。

 彼女の名は、ルチアと言うらしい。

 クロスは、静かに呟いた。

 彼女の名を。

 まるで、思い出すかのように。

 そして、二人は、目を見開き、驚いていた。


「あのルチアか」


「思い出した!!一緒に遊んだことあったよな!!」


「うん!!久しぶりだね!!」


 クロウは、静かに、呟く。

 思い出したのだ。

 ピンクの髪の少女・ルチアは、かつて、幼い頃に一緒に遊んだ少女だと。

 だが、予想外であった。

 まさか、彼女が、ルチアだったとは。

 クロウとは反対に、クロスは、嬉しそうに、語る。

 思い出していたのだろう。

 かつて、ルチアと遊んだ時の事を。

 そして、懐かしんでいたのだ。

 ルチアも、嬉しそうに、はしゃいでいた。

 まるで、子供の頃に戻ったかのように。


「ん?なんじゃ?なんかあったのか?」


「以前、彼らに助けていただいたんです。一か月くらい前に」


 状況を把握できないフォウ達は、目を瞬きさせる。

 何があったのか、理解できないのだろう。

 菫色の髪の少女は、フォウに教えた。

 以前、クロスとクロウに救われた事を。

 ルチアは、今も、嬉しそうに、はしゃいでいた。

 クロスとクロウも嬉しそうであった。


「ルチア、そろそろ……」


「あ、そうだった」


 菫色の髪の少女は、ルチアを落ち着かせる。 

 まるで、ここに来た目的を思い出させるかのように。

 彼女は、ルチアの姉のように接しているようだ。 

 ルチアは、我に返ったように、落ち着きを取り戻した。

 しかも、照れながら。


「今回は、お主らだけで、妖魔を討伐してもらうぞ」


「……ヴァルキュリアの助けはいらない。俺たちだけで、十分だ」


「クロウ」


 フォウは、クロス達に命じる。

 ヴァルキュリアと騎士の共闘を。

 だが、クロウは、それを良しとしなかった。 

 それは、彼女達の事を想っての事だ。

 ルチア達に背負わせたくなかったのだろう。

 全力で守ればいいだけの事なのだが、どうしても、それを良しとしなかった。

 だから、冷たく言い放ってしまったのだ。

 不器用に。 

 そんなクロウに対して、クロスは、彼を責めるように、名を呼んだ。

 クロウの気持ちをわかっているから。


「そう言うでない。ルチア達の力も必要なのじゃ。妖魔を倒すためにはな」


「クロウ、おじいさんの言う事を聞こう」


 フォウも、クロウを諭す。

 妖魔を倒し、平和を保つには、ヴァルキュリアの力が、必要なのだ。

 もちろん、騎士の力も必要だ。

 騎士は、ヴァルキュリアを守るために、神の力が宿った古の剣を与えられたのだから。

 クロスは、クロウを説得する。

 クロウの気持ちを汲んでいながらも。


「……わかった」


 クロウは、ため息をつきながらも、承諾した。

 ルチア達と戦う事を。

 まだ、納得していないようだが。

 それでも、ルチアは、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 幼い頃に遊んだクロスとクロウと、共に戦えるのだから。


「よろしくね!」


「うん、よろしく」


 ルチアは、笑みを浮かべる。

 クロスも、つられて笑みを浮かべていた。

 楽しそうに話すルチアとクロス。

 そんな二人をクロウは、静かに見ていた。

 まるで、複雑な感情を抱いているようだ。

 どうしてかは、クロウ自身も、不明だが。

 菫色の髪の少女は、クロウの心情を察したようで、静かに歩み寄った。


「私は、ヴィオレットだ。よろしく頼む。クロウ」


「……ああ」


 菫色の髪の少女は、クロウに自己紹介をする。 

 まだ、名を名乗っていなかったから。

 彼女の名は、ヴィオレットと言うらしい。

 クロウは、静かに、うなずいた。

 冷たい接し方ではないが、こう言うのは、慣れていない。

 それでも、ヴィオレットは、微笑んでいた。

 まるで、クロウを受け入れてくれるかのようだ。


「さて、妖魔を探しに行こうか」


「うん!!」


 クロスは、妖魔討伐に行こうと促す。

 早急に討伐しなければ、危険が及ぶからだ。

 故郷を守りたいのだ。

 もちろん、ルチア達も、そのつもりだ。

 ルチアも、強くうなずいた。


「とりあえず、どこで発見されたか、確認したほうがいいな」


「そうだな。その方がいい」


 ヴィオレットは、妖魔が、発見された場所を確認したいようだ。

 どこに潜んでいるのか、推測するためであろう。

 クロウも、うなずく。

 同じことを考えていたのだ。

 一刻も早く、妖魔を見つけ出すために。

 クロス達は、フォウから、地図を渡され、どこで発見されたか、聞いた。


「うーん、色んな所で、発見されてるんだね」


「みたいだな……」


 妖魔が、発見された場所は、まばらであり、異常に多い。

 一週間の間に、多く、発見されているようだ。

 ヴィオレットは、意外だったようで、あっけにとられている。

 これは、妖魔を見つけ出すのは、至難の業のように思えてならないからであろう。

 確かに、簡単ではなさそうだ。

 クロスは、思わず、ため息をついた。


「どう思う?クロウ」


「……」


 クロスは、クロウに問いかける。

 冷静さを保っているクロウなら、妖魔が、どこにいるのか、推測してくれるのではないかと考え、判断をゆだねた。

 クロウは、こう言うのは、得意だ。

 クロスは、その事を知っていた。 

 双子であるがゆえに。

 クロウは、じっと、地図を眺めていた。

 ただ、静かに。


「誰も、どんな妖魔なのか、知らない。だが、これだけ、多く発見されているというのに、見つからない、か……」


 クロウは、淡々と呟く。

 妖魔の特徴を掴めなかったことに、違和感を覚えたのだ。

 多く発見されているというのに。

 なぜ、見つからないのだろうかと。

 ルチア達は、静かに、クロウを見守った。

 クロウが、答えを出すまで。

 クロウなら、答えを出してくれると信じているのだろう。

 クロウも、思考を巡らせていた。


「もしかしたら、妖魔は、一人ではないかもしれないな」


「え!?」


 クロウは、意外な答えを出す。

 なんと、妖魔は、一人ではないと、推測していたのだ。

 これには、さすがのクロスも、驚きを隠せなかった。

 いや、誰もが、驚いているだろう。


「そうなの?」


「ああ。おそらく、一人だと、錯覚させるために、あえて、姿を見せてるんだ。特徴を掴めないように、一瞬だけな」


 ルチアは、驚きつつも、クロウに問いかける。

 クロウ曰く、妖魔が出現したのは、二人ではなく、一人だと思い込ませるために、あえて、島の民の前に姿を現していると考えているのだ。

 特徴を掴めないように、一瞬だけ、姿を見せて。

 そうすれば、確かに、妖魔は、一人だと錯覚してしまうだろう。


「それに、どこに潜んでいるのか、わかった」


「どこだ?」


 クロウは、さらに、妖魔達が、どこに隠れているのか、推測したらしい。

 さすがと言ったところであろう。

 クロスは、クロウに問いかけた。

 どこに隠れているのか知るために。


「遺跡だ。あの中なら、隠れやすい」


「でも、遺跡の中も、探したんだろ?」


 クロウは、遺跡にいると判断した。

 だが、遺跡の中も、捜索しているのだ。

 妖魔が、隠れているのではないかと、推測して。

 見つからなかったため、今回、自分達が、呼ばれたのだ。

 クロス達なら、妖魔を見つけだし、倒してくれると信じて。

 クロスは、それを知っていた為、クロウに問いかけた。

 なぜ、そう言いきれるのか、知りたくて。


「二人とも、闇の妖魔だったら、別だ。影に隠れやすい」


「そうだよね……」


 確かに、妖魔は、いないという報告を聞かされている。

 だが、属性が闇であるならば、影に隠れて、身を隠す事は、たやすいのだ。

 闇属性であるクロウだからこそ、推測できた。

 闇属性の者は、影に紛れやすいから。

 クロウの言葉を聞いたルチアは、納得していた。


「なら、遺跡に行ってみるしかないな」


「ああ」


 ヴィオレットは、遺跡に行くことを提案する。

 クロウの推測が、本当であるならば、見つけられるはずだ。

 クロウは静かに、うなずく。

 こうして、クロス達は、遺跡へ向かうことになった。



 遺跡にたどり着いたルチア達。 

 中に入ると、確かに、影ができている。

 大きな影が。


「確かに、ここなら、隠れやすい」


「だろうな」


 ヴィオレットは、大きな影を目にして、納得していたようだ。

 闇属性の妖魔ならば、影と同化して、隠れる事はできるだろう。

 クロウも、実際に目にして、確信を得たのであった。

 この遺跡のどこかに、妖魔がいると。 

 しかも、影と同化して。


「どこだろう、奥にいるのかな?」


 ルチアは、慎重に、歩き始める。

 警戒し始めたのだ。

 妖魔が、いつ、出てくるのかわからないのだから。

 だが、その時であった。 

 影がゆっくりと伸び始め、ルチアに迫ろうとしたのは。


「待て!!ルチア!!」


 クロウは、影の異変に気付き、ルチアの腕をつかんで、強引に下がらせる。

 すると、影が刃と化して、ルチアを斬りかかろうとしたのだ。

 あともう少し、遅ければ、ルチアは、斬られていただろう。

 間一髪であった。


「へぇ、気付いたか。さすがだな」


「だよね~」


 男性と女性の声が聞こえる。

 かと思いきや、すぐさま、影が、人の姿へと変わったのだ。

 しかも、二人とも黒褐色の肌であった。


「やはり、二人、いたのか」


 クロス達は、構える。

 クロウの読み通り、妖魔は二人いた。

 それも、闇属性の。

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