第四十話 フォウからの依頼

 クロスとクロウが、騎士になり、レージオ島に移り住んでから、一か月が過ぎた。

 彼らの主な任務は、レージオ島を守る事だ。

 もちろん、他の島に行くこともある。

 妖獣が多いときは特にだ。

 船に乗って移動しながら、他の島を一週間も、長い間滞在する事もあった。

 ヴァルキュリアと共闘はまだないが。

 クロスとクロウは、火の島・ファイリ島で、妖獣達と戦いを繰り広げている。

 妖獣達に囲まれてしまったクロス達。

 妖獣達は、容赦なく、クロス達に襲い掛かった。


「せいやっ!!」


 ヴィクトルが、固有技・イグニス・ベローズを発動する。

 古の剣は、蛇腹剣と変化し、妖獣を一気に切り裂いた。

 だが、妖獣達は、ヴィクトルに襲い掛かる。

 ヴィクトルの危機を察知したフォルスは、固有技・アクア・ガードを発動した。

 古の剣は、巨大化し、盾となって、ヴィクトルを守った。


「行きますよ!!」


 フォルスは、妖獣を弾き飛ばす。

 その間に、ルゥとジェイクが前に出た。


「ほらよっ!!」


「こっちだよ~!!」


 ルゥが、固有技・ヴェントゥス・ツインを発動する。

 二振りとなった古の剣は、妖獣を切り裂いた。

 続いて、ジェイクが、固有技・テラ・サークルを発動させる。

 剣は、いくつも生み出され、ジェイクを守るように、取り囲み、次々と、妖獣を切り裂いた。


「クロス!!クロウ!!やっちまえ!!」


 ヴィクトルが、合図を送るとクロスとクロウが、前に出る。

 しかも、固有技・レイディアント・ウィングとダークネス・ウィングを発動して。


「行くぞ、クロス!!」


「わかった!!」


 クロスとクロウは、宙を飛び、進みながら、妖獣達を切り裂く。

 そして、ついに、妖獣は、一匹だけとなった。

 妖獣は、最後の悪あがきをするかのように、暴れまわる。

 だが、クロウが、冷静に妖獣の動きを見極めた。


「ふっ!!」


 クロウが、妖獣を切り裂く。

 それでも、妖獣は、雄たけびを上げながらも、クロウを切り裂こうとした。

 その時だ。

 クロスが、クロウの前に出たのは。

 クロウは、囮となっていたのだ。

 妖獣を倒すために。


「はああっ!!」


 クロスが、続けて、妖獣を切り裂く。

 切り裂かれた妖獣は、雄たけびを上げ、光の粒となって消滅した。


「よしっ!!討伐終了だ!!」


 ヴィクトルが、笑みを浮かべる。

 妖獣は、全て、討伐されたのだ。

 クロス達は、ヴィクトルの元へと集まった。


「みなさん、ご苦労様です」


「これくらい、簡単だぜ」


「あの子達が、来てくれたからね~。楽、楽」


 フォルス達は、穏やかな表情を浮かべていた。

 感じているのだろう。

 クロスとクロウが強いと。

 新人と言えど、二人は、圧倒的な力を持っている。

 剣技の方も、まだまだ、成長している。 

 ゆえに、期待していたのだ。

 二人がいてくれるなら、エデニア諸島を守れるであろうと。



 討伐が終わったクロス達は、フランクが待つ船へと乗り込む。

 そして、船は、出航し始めた。

 レージオ島へと帰る為に。

 

「どうだ?たまにはいいだろ?船旅」


「そうだな」


 ヴィクトルは、クロスとクロウに問いかける。

 実は、クロスとクロウにとって、一週間の長旅は、初めてだったのだ。

 ファイリ島だけでなく、他の島も周り、妖獣を討伐していた。

 妖魔が、出現した島もあったようだが、ヴァルキュリアが討伐したとの報告も受けている。

 それゆえに、どの島も、無事であった。

 クロウは、ヴィクトルの問いに答えるようにうなずく。

 新鮮だったのだ。

 船で旅をするのが。

 ゆえに、楽しんでいた。


「でも、心配だ」


「何がだ?」


「レージオ島の皆が」


 クロスも、船旅を楽しんでいたが、どこか、不安な様子を見せる。

 クロスの様子に気付いたヴィクトルは、問いかけた。

 実は、レージオ島の民の事を心配していたのだ。

 レージオ島は、他の島と違って、結界が張られていない。

 ゆえに、妖魔に狙われやすい。

 いつもは、自分達がいるし、ヴァルキュリアも、派遣されたりするため、安全ではあるが、今回は、どうなっているかが、わからない。

 それゆえに、心配であった。


「心配すんじゃねぇよ」


「フランクさん」


「俺の部下が、残ってる。あいつらは、やわじゃねぇからな」


「そういうわけだ」


 フランクは、クロスに語りかける。

 まるで、叱咤するかのように。

 心配はいらないと言いたいのだろう。

 確かに、今、レージオ島は、騎士も、ヴァルキュリアもいない。

 だが、万が一の為に、彼の部下が守ってくれるだろう。

 そのために、彼らは、鍛え、妖獣や妖魔と戦い続けてきたのだ。

 ヴィクトルも、それを知っている為、うなずいた。


「妖魔は、あの建物の中には、侵入することはありません」


「それほど、頑丈ってわけだっ!!わかったか?」


「う、うん」


 フォルスは、説明を付け加える。

 あのドームは、頑丈らしく、レージオ村に入る事はできないようだ。

 それほど、頑丈に作られているのだろう。

 ルゥは、自慢げに答え、問いかけた。

 彼の勢いに押されたのか、クロスは、戸惑いながらも、うなずいた。


「と言っても、心配だよね~。早く、帰ろ、帰ろ」


「おう、わかってるぜ」


 ジェイクは、クロスの心情をわかってくれたようだ。

 大丈夫だと言っても、心配なのだ。

 レージオ島の民の事が。

 だからこそ、フランクに早く戻るように促す。

 フランクも、そのつもりで、船を進ませていた。



 フランクが、最短ルートで進んだからか、レージオ島には、半日でたどり着いた。

 クロス達は、ドーム内へと入る。

 すると、島の民達が、一斉に、クロス達の方へと視線を向けた。


「帰ったぞ」


「フランクが帰ってきたぞ!!」


「騎士様も、いらっしゃるわ!!」


 島の民達は、安堵しているようだ。 

 クロス達が無事に帰ってこれて。

 自分達の方が危険な状態だったというのに。


「どうだ?大丈夫だったろ?」


「うん」


 ヴィクトルが、クロスに問いかける。

 確かに、心配しなくとも、大丈夫だったようだ。

 クロスは、嬉しそうにうなずいた。


「良かったな」


「うん」


 クロウも、クロスの方へと視線を移し、笑みを浮かべる。

 実は、彼も、心配していたのだ。

 レージオ島の民の事を。

 無事だったとわかり、安堵しているのだろう。

 クロスは、嬉しそうにうなずいた。

 自分達の家へと進むクロスとクロウであったが、フランクの部下が、フランクの元へと駆け付けた。


「頭!!」


「おう、どうした?何かあったのか?」


「昨日、ニーチェ様がここを訪れました」


「ニーチェが?」


 フランクは、部下に問いかける。

 すると、部下は、意外が言葉を口にした。

 なんと、ニーチェが、この島を訪れたというのだ。

 クロウは、驚き、あっけにとられていた。

 一体、どうしたのだろうか。


「わかった。話は、中で聞く」


「はい」


 フランクは、なぜ、ニーチェが訪れたのか、察したようで、中で話を聞くことにした。

 クロス達は、家へ入った。



 その後、クロス達は、フランクの部下から話を聞く。

 なんと、ルーニ島で、妖魔が発見されたのだ。

 よく発見されているようだが、どこに隠れているのかは、不明だ。

 ゆえに、フォウは、騎士の派遣を要請した。


「なるほどな。ルーニ島で妖魔が」


「はい」


 フランクは、深刻な表情を浮かべる。

 ルーニ島は、神の遺跡がある重要な島だ。

 遺跡は、強力な結界が張られていたが、妖魔は、どのように侵入したのだろうか。

 見当もつかないようで、誰もが、困惑していた。


「狙いに来たのか?」


「かもしれねぇな」


 ヴィクトルは、ついに、ルーニ島を狙いに来たのではないかと、推測しているらしい。

 ルーニ島は、神の遺跡がある。

 しかも、その遺跡は、帝国へと転移できる魔方陣が施されているのだ。

 妖魔達は、それを狙っているのだろうか。

 帝国との道を防ぐために。

 フランクも、同じことを思っているようで、うなずいた。


「で、フォウは、ヴィクトル達に来いって言ってたのか?」


「いえ。クロス様とクロウ様に、来てほしいと」


「俺達に?」


「はい」


 フランクは、部下に問いかける。

 騎士、全員の派遣を要請しているのかと。

 だが、分かは、首を横に振った。

 なんと、フォウは、クロスとクロウを指名したようだ。

 意外だった。

 まさか、自分達を指名するとは。

 クロウは、驚き、問いかけると、部下はうなずいた。


「フォウの奴、孫の顔が見たくなったのか?」


「期待してるんだろ?」


「なるほどな」


 フランクは、笑みを浮かべる。 

 まるで、からかっているかのようだ。

 クロスとクロウは、フォウの孫だ。

 だからこそ、孫の成長した姿が、みたくなったか、あるいは、寂しくなったかのどちらかではないかと。

 だが、ヴィクトルは、期待しているのではないかと推測しているらしい。

 当然であろう。

 クロスとクロウは、強いのだから。

 フランクは、納得していた。


「だが、二人だけで討伐させるつもりなのか?あいつは」


「いえ、今回は、帝国にも協力を求めているようで」


「帝国に?」


 フランクは、気になっている事があるようだ。

 確かに、二人は、強い。

 孫に会いたい気持ちもわかる。

 だが、二人だけで任務をさせるのは、危険ではないかと、フランクは、心配していたのだ。

 すると、部下が、さらに、意外な言葉を口にする。

 なんと、帝国にも、協力を要請しているようだ。

 クロスは、気になったようで、問いかけた。


「はい。華と雷のヴァルキュリアを指名したようです」


「っ!!」


 さらに、意外な言葉だった。

 なんと、ヴァルキュリア達も、指名されたのだ。

 華と雷のヴァルキュリア。

 つまり、まだ、ヴァルキュリアとして、覚醒したばかりの少女達を。

 これには、クロスとクロウも、驚きを隠せなかった。

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